第368話 王城での結婚式③
入室した時とは違う扉が、小さく「コンコンコン…」と3回ノックされ、控えていたメイドさんが応じると、ちょっとだけ装飾の付いた豪華なメイド服を着たメイドさんが入室してきた。
どうやら、式場までの案内係のメイドさんの様だ。
扉を開けて入ってきた案内係のメイドさんの、「そろそろお時間です」という声で、俺は席を立った。
案内係のメイドさんは、俺の前をしずしずと進み、扉を抜けるとそのまま廊下を真っすぐに進んだ。
やがてメイドさんが立ち止まった先にあるのは、結構な大きさの扉の前。
毛足の長い絨毯が敷かれた扉の前で、しばし待つように言われた俺は、ぽや~っと扉を眺めていた。
うん、めっちゃ立派な扉だな。細かい彫刻がされてて、これだけでもかなりお高いのでは?
ヨーロッパの古城とかにも有りそうだな~こんな立派な扉。
俺の屋敷にもこんな扉が欲しいかも。何たって俺の屋敷って、機能重視なんで飾りっ気無いからなあ…ガチャ玉産だから仕方ないんだけど、扉ぐらい変えても大丈夫かな?
ん~お幾らなんだろう…トール君の、異世界まるごとHOWマッチ! うん、あの番組で当たった事なかったから、俺の目利きは最低レベルなんだろうな…素直に、今度誰かに教えてもらおう。
な~んてお馬鹿な事を考えていると、
「トール様、お待たせしました…」と、背後からメリルの声が。
振り向くと、そこには純白のウェディングドレスを着た、目もくらむような美少女・美女が5人。
全員、俺のデザインしたティアラとネックレス、彼女達が特注したイヤリングやピアスを身に纏っていた。
照明があるとはいえ、薄暗い廊下の中で、光り輝く5人の花嫁を見た俺は、その美しさに絶句。
美少女、美女だとは思ってたけど、ここまで美しいとは…
「あの…如何ですか?」
少しだけ上目遣いで俺の感想を待つメリル…いや、全員の目が俺の感想を待っていた。
こんな時にかける言葉なんて、たった一つしか思い浮かばないし、たった一つで十分なんじゃないだろうか。
「皆…もの凄く綺麗だ…世界一の花嫁さんだよ」
俺が全員の目を見ながらそう言うと、5人共頬を赤く染めてもじもじじながら微笑んだ。
「この扉の先が会場となります。皆様…ご準備は宜しいですか?」
案内係のメイドさんがそう声を掛けてきた瞬間、俺の右腕にメリルが、左腕にミレーラが腕を絡めてきた。
あれ? 確かメリルだけが並ぶはずだったんじゃ…?
「トール様…先ほど皆と話し合いまして、アーテリオス神国の代表の方が参列されますし、両国の友好を広く知らしめるためにも、私とミレーラが同じように並ぶのが良いかと」
「…あの…ミルシェには申し訳ないと思ったのでけど、ミルシェも賛成してくれましたので…」
後ろに3人並んで控える真ん中に居たミルシェは、
「良いんです。伯爵位になったトール様が、この国の王女と隣国の首長の血縁者を娶るのですから、ここは平民の私が一歩下がるのが筋です。だけど帰ってからの結婚式では、隣は私が貰います!」
「ミルシェ…私は…はい、もちろんです。今回は譲ってくださってありがとうございます」
ミルシェの言葉に、ちょっと目をうるうるさせながら、ぴょこんと頭を下げるミレーラ。
「うん、分ったよ。予定とは違うけど…そこまで皆で考えてくれて、本当にうれしいよ…有難う」
遠い異国から、この国への人質か生け贄の様に差し出された姫巫女…最初に彼女がこの国に来た時、そう誰もが考えたはずだ。国王陛下ですら、そう考えていたというのを、以前に聞いた事がある。
そして俺の領地に来たミレーラ。
初めて見た彼女は、今にも消えそうなほどに影の薄い少女だった。
それこそ薄幸の美少女と言えば聞こえはいいが、本当に国から見捨てられた形なのだから、不幸なのは間違いない。
しかし、それが我慢できなかったのがメリルとミルシェだった。
常に彼女の傍に付き、習慣も食べ物も違う異国に来た、俺の婚約者となるべくやってきた少女に、微に入り細に入りサポートをし、少しずつ彼女の心を開いていった。
もちろん俺との仲も良くなる様に、色々と気遣ってくれてたのもこの2人だった。
そして同じ婚約者同士というだけでなく、今では親友どころか本当の姉妹の様にしか見えない程になり、互いの事を想いやり慈しみ、共に背を預け合い戦う仲になった。
もちろんイネスとマチルダも、こう言ったら拗ねるが、年上の女性として色々とサポートをしてきた。
全員、俺が世界に自慢できる婚約者…いや、嫁だよ。
今までの道のりを思うと、俺も目に涙が滲んできた。
「よし、今回はノーカンだな! 帰ったら思いっきり楽しい結婚式をしよう!」
明るく俺がそう宣言すると、メリルが、
「そうですね、これはノーカンです!」
そう言って、にっこり笑った。
「ええ…そうですね。私も、皆と一緒に…帰ったら…いっぱい…」
もう、ミレーラはこれ以上言葉にすると、その大きな目から涙が零れそうになっり、口をへの字に結んだ。
「そうですよ~帰ったら、いっぱい楽しみましょう!」
ミルシェが元気に、
「うむ、この式は単なる練習だ。帰ってからが本番だからな!」
イネスが漢前に、
「そうですね~これは私達の顔を売る為のただの行事です。ミレーラも気にしないでいいですからねぇ」
ちょっと商売っ気を出しながらマチルダが、声をあげた。
「うっし、んじゃ行くべ! いざ、結婚式へ!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
それぞれの顔には、もう不安や不満など微塵も無かった。
ただただ笑みだけが溢れていた。
そして、目の前の立派な扉が、ゆっくりと…本当にゆっくりと開いてゆき、俺達6人を眩い光がやさしく包んでいった。
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