第350話  もう信じない

「お~い、サラ~。生きてるか~?」

 どうやらいつも仕事をさぼって日向ぼっこしている裏庭で、局長からの天誅を受けたらしく、色々と酷い状態で転がっていた。

「ふむ、意識を失ってる様ですね。これはいいタイミングですので、予定変更をしてこのままボディー交換をしちゃいましょう」

 そのサラを木の枝でつっついていたリリアさんが、そう仰った。

「今なら麻酔もいりませんし」

 中々に鬼畜な発言だ。もちろん、俺は反対などしませんよ。

「では、運ぶのを手伝っていただけますか?」  

 それは良いんだが…サラが大声でのたうち回ったらしく、あちこちの窓から皆の顔が…これは説明が必要だな…後が怖いし。

「みんなー! サラが危険だー! リリアさんが、緊急治療を施すんだけど、俺にも手伝って欲しいらしい!」

 滅茶苦茶に怪しい言い訳みたいに聞こえるけど…まあ、窓から見える顔が、全部頷いてるから大丈夫そうだな。

 サラの惨状を目の当たりにしたんだろう、ちょっと皆の顔色が悪い。かなり酷い叫び声だったんだな…局長、手加減無しかよ。

 リリアさんが上半身を、俺が足を持って、地下室へとえっちらおっちら搬送します。担架なんて無いから、仕方ない。

「ちょっくら行ってくる!」

 もう一回、皆に声を掛けて、俺は地下室への扉を潜った。


 我が家の地下室は、学校にあった体育館の数倍の広さを誇っている。

 もしも何か災害が起こった時の領民の避難所を兼ねているんだから、これぐらい広くて当然なのだ。

 尤もこの地で災害なんて起こるとも思えないが…備えあれば憂いなしって事で。

 この地下室の一角に、サラとリリアさんの居室がある。

 2人の居室の扉を開けて、思ったよりも重いサラを運び込む。

 入ってすぐが、そこそこの広さのリビング…のはずなのだが…

「な、なんじゃこりゃー!?」

 そこにあったのは、巨大な水槽。縦横3m近くはありそうな…これ、水槽だよな?

「どうかしましたか?」

 俺の叫びを不思議そうな顔で見つめるリリアさん。

「いやいや、この水槽は何なの?」

「ああ、これは生け簀です。高級な寿司屋さんとかにも有るでしょう、活魚水槽。あれと一緒です」

 ……魚を飼ってるの? こんな巨大な水槽で? 人魚さんでもいけそうだな…

「この中には、サラのボディーが入ってます」

 いや、予想はしてました。ってか、色付きの水の中を漂ってる素っ裸のサラが薄っすらと見えましたから。

「水槽の中は、サラの素体を保存しておくために、リンク ・コネクト・ リクウィッドで満たされています」

「へぇ…」

「略して、L.C.Lと呼んでいます」

「ヤメロ!」

「あら? こういう設定が好きだったのでは?」

「好きだけど、そうじゃ無くて、色々と危険だから止めてくれ、結構マジで!」

 ホント、キケンなのです!

「まあ、そう仰るなら止めましょう。取りあえずサラをそこの施術台へ寝かせてしまいましょう」

 病院とかで良く見た診療用のベッドみたいな、シンプルなベッドにサラを寝かせた。

 ん~~~息してない気がするけど、大丈夫なんだろうか? ほんのちょびっと心配なってきた。

 いつの間にか、最近サラとお揃いのメイド服を着こんでいる(胸はパッツンパッツン)リリアさんが、その上から白衣を羽織ってた。

「では、施術を開始します」

 お医者さんかな? それっぽい!


 リリアさんが手にしていたのは、何故かサバイバルナイフ。

 おもむろにそれを逆手に持つと、サラのメイド服の胸元に差し入れて…一気に服を引き裂いた!

 いや、切ったと表現した方が正確か? 一気に胸元からスカートまで、それこそ下着も含めて綺麗に切ってしまった。

 あのサバイバルナイフの切れ味、ヤバすぎだろ!

 そして取り出したのは…おいおいおいおい!

 ピンク色のカプセル状の物体。卵よりもちょっとだけ小さいそれにはコードが付いており、コードの先にはコントローラーの様なものが…って、まんまピン〇ローターやんけ!

 それをどうすんだよ? いや、想像は付くが…リリアさん、一切躊躇することなくサラの(…自主規制…)に押し込んだ。

 それって、リアルだと防水じゃないけど? あ、施術用なので完全防水仕様ですか、失礼しました。

 あ~手元のコントローラーにあるツマミを回して…どうなるんだ?

 ちょっとこれ以上は、直視出来ないんで、目を逸らしまする。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…と、微妙にくぐもった音が室内に響く。

「これは、複合素粒子電池を素体から取り出す器具です。この振動で生体との癒着を引きはがすのです。れっきとした医療行為ですので、見ても大丈夫ですよ?」

「見ねーよ!」

「そうですか? さて…では、パワーMAXで、素体から複合素粒子電池を引きはがして…そして、引っ張りだす!」

 リリアさんは、そう言うと同時に、コントローラーから伸びるコードを掴んで、引っ張った。

 ズルッ! という嫌~な音と共に、サラの(…自主規制…)から引き出されたピンク色の小さな卵の様な物体にくっついて、何かがズルッと引き出された。

「無事に摘出できましたね。これで素体は内臓電源で機能保全しているだけの状態です。このままでも半日ほど持ちますが、さっさと施術を続けましょうか」

「あれ? 複合素粒子電池って取り出す必要あったの? 確か寿命が近いから交換とか言ってなかったっけ?」

「一部の部品はリサイクルして移植するので、必要な処置なんです。決して面白いからやってるわけではありませんよ?」

 もう信じない…この人は、絶対に色々と危ない人だって分ったから… 

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