第343話  まさかの犯人!?

 リリアさんが我が家にやってきて、数日が経った。

 

 最初は一緒に暮らすなんて絶対拒否のスタンスをとっていたサラも、いつの間にか懐柔されたのか調教されたのか、あれから文句ひとつ言わずに、一緒に暮らしているようだ。

 我が家の面々ともとても良く交流を図っている様で、あの人見知りのミレーラですら笑い声をあげて会話していた…恐るべしコミュニケーション能力だ。

 特にユズカとは趣味が合う様で、よく陰でコソコソと話しているのだが…多分、聞かないほうが良い類の話だと思う。ユズキの健闘を祈るばかりである…合掌。


 ところでリリアさんがここに出張してきた本来の目的である、サラの身体のメンテナンスなんだが… たまたま執務室で2人きりになったので訊いてみた。


「もう各部のチェックは終わりました」

「そですか…では、電池とか電子頭脳とかを交換するのかな?」

「面倒なので、新品の複合素粒子電池を搭載した、これまた新品のサイバネティックス・ボディに、現在使用中の超小型ポジトロン電子頭脳を移植します」

 脳内の電子頭脳を移植って…めっちゃ怖い絵面が頭に浮かんだ。

 サラの頭を切り開いて電子頭脳を取り出すのか…血まみれでメスを握りしめて高笑いしているリリアさんを想像してしまった…さすが鬼畜!

「想像されているような、古風な外科的手術で切り刻んだりはいたしませんよ」

「でも脳内にあるんでしょ? どうやって取り出して新しい体の脳に移植するの?」

「鼻から吸引機で吸い出して、鼻から移植します。簡単ですよ?」

 …鼻の穴から脳内の電子頭脳を取り出すって、めっちゃ痛そう。

 鼻の穴からスイカを出す感じって、よく女性が出産の痛みを表現してたけど、あんな感じなんだろうか? まあ、麻酔とかもするだろうから、痛みなんて無いのかもしれないけど。

 でも、ちょっと詳細が気になる…

「電子頭脳の大きさって…どのぐらい?」

「超小型ポジトロン電子頭脳は、1個の中央演算装置と108個の端末で構成されています」

「ふむふむ。煩悩の数と関係あるのかな?」

「全くありませんね」

 そですか…サラだったら、有り得るかと思ったけど。

「端末は米粒の半分ぐらいでしょうか…タイ米では無く、ジャポニカ米を基準に考えてください」

 元は日本人だからね…そりゃ米と言ったら馴染みのジャポニカ米を思い出すから分かるよ。

 タイ米なんて、平成の米騒動の時にお目にかかったぐらいで、もう記憶にもなかったよ。

 確かあれって長いんだよな…日本の炊飯器では美味しく炊けないとか何とか…

 いや、それはどうでもいい。

「そうか、そんなに小さいのか」

「ええ。そして中央演算装置は、大体ミカンのヘタぐらいの大きさです」

 これならはっきりとイメージできる!


 そう、あれは俺がまだ日本で幼稚園に通っていた、幼い日の事だった。

 その日、俺の母は妹を出産して入院していたんだ。

 父と俺が昼頃に見舞いに行くと、ちょうど母の昼食が終わろうという時だった。

 母は、デザートで出されていた夏ミカンの皮を剥いて、俺にそっと手渡した。

 きっと物欲しそうに俺が見てたんだろうと、今になって思う。

 味なんて覚えてないが、出された分は全部ペロリと食べたのは覚えている。

 その後、生まれたばかりの妹を抱いた母と父が話しているのを見ているのに飽きた俺は、空の食器の乗ったトレーの上に有る、夏ミカンのヘタに何故か気をひかれた。

 そして、ミカンのヘソにしか見えないヘタが気になって仕方なくなり、それを指でほじくり取った。

 ミカンのヘタ…あの微妙な大きさ…その時の俺は何を思ったか、それを右の鼻の穴に入れたんだ。

 すると…ソレは鼻の奥へと入り込み、指で取ろうにも取れない所へ…

 パニックになった俺が泣き叫び、ようやく事態に気づいた両親は、看護師さんを呼んだ。

 看護師さんは状態を確認すると、すぐさまピンセットを持ってきたのだが…すでに鼻水垂れになってしまっていた俺の鼻の中に入ったヘタは、つるつるしてピンセットで掴めない。

 そうしているうちに、どんどんとヘタが奥へと入り込む。

 母の病室は大騒ぎとなった。やがて騒ぎを聞きつけた院長先生がやってきて、俺の鼻の穴の中をじっくりと診察して、こう言った。

「坊や、お口で大きく息を吸って~」

 言われるがまま、俺は口で大きく息を吸った。すると、院長先生は、俺の口と左の鼻の穴を抑えて、

「フンッ! ってしてみて」「フンッ!」

 俺が思い切り息を吐きだすと、右の鼻の穴から…すぽーん! と鼻水まみれのミカンのヘタが飛び出したのであった。

 院長先生のドヤ顔と、俺と両親、そして右往左往してた看護師さん、全員が爆笑した事件だった。


「回想シーンは終わりでよろしいでしょうか?」

「あ、はい…すんません」

 何故に俺の恥ずかしい過去を回想していたと分かったのだろう…

「ちなみにですが、一般の人の脳を持つ貴方にも、電子頭脳を埋め込むことも出来ますよ」

「それは…どうなるの?」

 そういえば前世でも、頭にマイクロチップを埋め込む手術とか聞いた事あるな。

 でも、俺はちょっと怖いな…脳をいじくるってのが。

「まあ、記憶力や演算能力の向上とか、あとは上手く活用できていなかった脳細胞の活性化や…まあ多岐にわたり、人外の変化がありますね。かなり昔から地球人に対して極秘に実験をしていましたが、人体に悪影響は報告されてませんから大丈夫です」

 まさかのエイリアン・インプラント! 管理局の実験だったのかよ!

 キャトルミューティレイションも管理局の仕業なのか!?

 ネバダ州米軍基地、通称エリア51に保管されているという、エイリアンって管理局の奴なのか? 地球に飛来するUFOやエイリアンは、管理局だったのか!?

 TVのUFO特集とか、めっちゃ見てたんだが、まさか管理局が犯人だったのか!

「埋め込んでみますか?」

「丁寧にお断りいたす!」  

 UFO特番に呼ばれるわ!

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