第339話  出張

「まず最初に弁明させていただきたいのですが、私はサラを愛してなどおりません」

「はあ…まあ、なんとなくそれは分かりましたが…」

「そもそも、サラさえしっかりとしていれば、私がここに来る必要もなかったのです」

「……それは、どういう意味で?」

 サラがダメダメだからフォローに来たって事なんだろうか?

「貴方が考えている理由とは違うと思いますよ?」

 あれ? 俺、口にしてた?

「ものすごく顔に出てます…読みやすいです」

 おかしい…ポーカーフェイスでクールな男なはずなのに…

「そんな話はどうでも良いのです。私がここに来た理由です」

「あ、そうでしたね…して、愛しいサラを追いかけてきたのでなければ、如何なる理由で?」

「このクソボケのボディーのメンテナンスの為です」

 ほえ?

「サラだけでなく私もですが、この肉体は現地活動用のサイバネティックス・ボディです」

「はあ…そう言えば、前にサラがアバターとか言ってた気が…」

「アバターですか。まあ、そんな感じです。バイオ技術により作成されたボディーの脳内に、超小型ポジトロン電子頭脳を埋め込んだものです。その電子頭脳に疑似霊魂という形で精神体をデジタル化したものをインストールした最新型のヒューマンタイプの活動用端末ボディーです」

 ポジトロンって…アシモフかよ…

 ってか、もしかして、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなのか? 長門の〇キさんなのか!? だから、サラはロリっぽいのか!?

「貴方が何を考えているのか分りませんが、多分違いますよ?」

 違うのか…って、何で俺の考えてる事分かるんだよ! 

「なので、サラの本体は監理局の倉庫の中に保管されてます」

「あ、本体あるんだ…しかも倉庫の中にって、扱い酷いな…」

「所詮、サラですから」

 …ものすごく納得できる一言だ…


「それで、メンテナンスとか言ってた気がするんですが?」

「ええ、そうです。我々のサイバネティックス・ボディは現地人に合わせて作成されていますが、多くの点で異なります」

 まあ、そりゃそうだわな。

「違う点としてあげられるのは、このボディーには生殖機能がない、摂食・排泄の必要がない、脳内にポジトロン電子頭脳が埋め込まれている、そして活動エネルギーは複合素粒子電池となっている事です」

「複合素粒子電池?」

「ええ。肉体内にある複合素粒子電池内に複数ある超々マイクロ素粒子加速器において、あらゆる素粒子の発生と対消滅を繰り返し、そのエネルギーを生命活動用に利用した、疑似生命体という事です」 

 だめだ…理解出来なくなってきた…

「このメカニズムに関して詳細に解説する事もできますが…ええっと、元は地球人でしたよね」

「ええ…地球の日本に住んでいましたが?」

「いえ、貴方のいた地球の科学技術を基準としますと、あと数千年は再現できない技術ですので、そもそも理解出来る下地が無いので、説明をどうしたものかと…」

 そんな未来の技術かよ!? いや、輪廻転生管理局のシステム自体、理解不能な未来の技術っぽいけどさ。

 俺の中では、ファンタジーの一言で片づけちゃってたからなあ…

「あ、解説は遠慮します。つまり高性能な電池って理解でいいんですよね?」

「ええ、まったくあなたの理解力と適応力は素晴らしい。それで結構です」

 適応力って…単に現実を受け入れただけだよ…

「高性能電池という表現は素晴らしい。まさしく電池です。つまり電池ですので、やがて‟切れる”時が来るのです」

 あ、な~んか分かっちゃった気がする。

「まあ、切れるというより複合素粒子電池の寿命と言った方が正しいのですが…。まあ、要するに電池がやがて切れるわけです。切れてしまった場合、活動用のボディーもポジトロン電子頭脳も、その機能と存在を維持する事が出来なくなります」

 なるほどなあ~。

「ん~~~つまり死ぬって事?」

「いえ、保管してある本体さえ無事であれば死にません。ただ、超小型ポジトロン電子頭脳に疑似霊魂という形で精神体を写し取っていた期間の記憶が消えますが」

 Wow! 記憶喪失! 定番中の定番キタコレ!

「活動用ボディーはその形状を維持できなくなり、不定形生物状になります。いってみればアメーバーの様な物ですね」

 Wow! スライムじゃ無くアメーバー! 一周まわって新しいかも!

「なので、常時メンテナンスが必要なのですが、このゴミ虫は10年もの間ほったらかしなのです!」

 Wow! ゴミ虫ときましたか(笑)

「サラのタイプのボディー自体の耐用年数は15年ですが、複合素粒子電池の寿命はあと1年ほどです」

 もうすぐじゃねーか! そりゃ危険だ!


「つまり、あと1年もしたら、サラは別の何かになります」

 何かって何だよ!?

「そう…実は今はサラに擬態しているだけなのです! その正体が白日の下に!」

 いきなりリリアさんが立ち上がり、拳を握りしめて力説し始めた!

「その正体は、未知の宇宙より飛来した植物組織生物なのです! そして現地の生命体の体液や組織を吸収して、吸収した生命体の姿に擬態できるのです!」

 まさか、サラは…この星の誰かを喰ったのか!? そして成りすましているというのか!?

「っていう映画が地球にはありましたよね…【 The Th〇ng from Another World 】でしたっけ」

 そりゃ、遊星〇りの物〇Xじゃねーか! 

 どっかで聞いた話だと思ったよ、こんちくしょー! 

 リリアさん、どこでそんな知識を仕入れてきたんだよ! 懐かしいじゃねーか!

 ってか、その話が全部ネタだって事は、最初から分ってたけどな!

 ついつい、流れに乗っちまったぞ! 


「まあ、そんなわけでメンテナンス課の私が出張してきたというわけです」

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