第289話  どこ行ったん?

 特に何もすることがない期間というのは、実にストレスが溜まるものだ。

 俺ってワーカホリックなんだろうか?

 仕事をしなければ生活できなかった前世では、仕事なんてしないでも生活できる様になれば良いなあ…なんていつも考えてたはずなのに、何故か何もしないでも生活できる金と地位を手に入れた今では、何かしないと落ち着かなくなってるって不思議だ。

 これも一種の精神的な病なのかもしれないな。

 まあ、適度な仕事と適度な休息を心がけよう…ちょっとでもストレスだと感じる事は、出来るだけ避けて生きる。

 うん、これが俺流のスローライフでもいいじゃないか。

 自堕落な生活でも、残業休出当たり前なブラックな労働でもない、俺流のスローライフ…いい響きでじゃないか。


『そんな大河さんに、適度なお仕事の連絡です』

 ベッドでなんとなくゴロゴロしていた俺に、サラからの念話だ。

 何だ? 今、何となく哲学的な思索に耽っていた所なんだが。

『この地の各集落の纏め役さん達が集まりました。洗脳集会もといイニシエーション…もとい会談はいつ開催しましょうか?』

 お前なあ…普通に会談って言えよ。ところで、洗脳は分かるけど、イニシエーションって何だっけ? 聞き覚えがある気が…

『では、会談に参加しなかった纏め役は、ポアしましょうか…教祖様』

 思い出したぞ! おま、それはかなり危険なネタだからな!? 今時の良い子には理解できないネタだからな!?

『そうですか? 残念です。それで会談は、第何サティアンで行いますか?』

 や・め・ろ! 普通に地下の彼等の元にいくよ! 時間と場所を決めて、連絡くれる様に言っておいてくれ!

『へいへい、了解しましたよ』

 こいつの頭こそ、洗脳すべきではないだろうか。

 さてと…いつまでもゴロゴロしてても仕方ないし、ちょっと準備でもしますかね。

 サラ、それ終わったらちょっと創造すっぞ。

『おお!? すぐに終わらせます!』

 いや…勝手に創ってるから、気にすんな。ってか、来るな。

『がーーーん! あんなに素直で可愛いショタだった大河さんが、反抗期に…』

 反抗期ちゃうわ! 小物を創造するだけだから、気にすんなって言ってんだよ。

 それに、また婚約者~ずがサラと2人の所に来たら…怖いから、こっち来んなよ!

『………ヘタレだけは健在ですね』

 うるへ!


 ま、本当に創造はすぐ終了。

 ガチャ玉が無駄に増やせる事が分かってから、小物もバンバン創り始めた俺って節操ないんだろうか?

 いやいや、これは今回必要だからな、うん。仕方が無かったのだよ。

 おっと、もうそろそろ夕方か。

 あんま引きこもって顔見せなかったりしたら、また婚約者~ずに何か言われたりするから、そろそろ顔を見せに行きますか。

 そう思って食堂に行ってみたが、誰も居ない。

 ありゃ、みんなどこ行ったん?


 ホワイト・オルター号から降りて見ると、後部カーゴルームが開いていた。

 積み込んできた蒸気自動車が消えている…ドライブにでも行ったかな?

 そう思って周囲を見回してみると、少し離れた所で、皆が集まって何かしていた。

 ぽてぽてと歩いて近づいてみると、何やら砂煙の中を猛スピードで蒸気自動車が走り回ってる。

 おーい、ナディア~! 何してんの?

『あ、マスター。サラの発案で、皆さんで【じむかーな】という蒸気自動車を使った競争をしております』

 ジムカーナの事かな?

『はい、それだと思います。決まったコースを誰が一番早く周れるか競ってます』

 ほっほ~! それはまた面白い事をしてるじゃないか。

『マスターも如何ですか?』

 ふっふっふ…前世では一時期ドリフトにはまった事もあるこの俺にそれを言うか。

 良かろう! 俺の華麗なドライビング・テクニックを見せてやろうではないか!  

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