第228話  鈍感系主人公?

「そうか、メリル…趣旨はよくわかったよ。でも何で攻略なの? 装備の練習がしたいだけなら、低階層でフォーメーションとかの練習なら十分に出来るけど…」

 なんも攻略までせんでも。ってか、ラスボスはあの黒竜だぞ! 絶対に勝てないからな!


「ここのところ、トール様はとてもよくお仕事をされてました」

 うんうん…ん?

「それが?」

「私達は考えました。トール様が、こんなに頑張って領の為に仕事をしているのに、私達はこのままで良いのかと」

 いや、書類仕事とか手伝ってくれてるよね?

「ああ、うん。それで?」

「トール様の推し進めている、通信の呪法具にも蒸気自動車にも、魔石は使われています」

 あ、なんか分ってきた…

「基幹産業に最も必要な物は、魔石だと気づきました!」

 やっぱし…

「ですから、私達で魔石を大量に集めることにより、産業の発展に貢献しようと思ったのです!」

 はぁ…勘違いしてるなあ…

「それに、その過程で数多の戦闘を経験する事でしょう。これは私達の練習も兼ねているのです」

 まあ、魔石を手に入れようと思ったら魔物を倒さなきゃね…

「そして、トール様と一緒にダンジョンに行けば、薄暗く狭いあの通路で、あんな事やこんな事に…ごほん! 戦闘で昂ぶったトール様が、私達を襲い…ごほん! とにかく、一石二鳥も三鳥でもあるのです!」

 あのな、幾らなんでもダンジョンで変な事せんぞ? そもそも装備付けて入るんだろ? 

「だから、一緒にいきましょう!」

 全員が、めっちゃわくわくした顔で俺を見つめてるけど…これは、ちと説明が必要だな。


「うん、趣旨は分かった。いや、最後のはわからんけど…。そうじゃなくて、魔石に関してだけど、取りにいく必要はナッシング!」

「「「「「え~~~!?」」」」」

 なんだ、その残念そうな顔は。

「ちょっと説明すると、僕たちが仮に魔石を大量に取ってきたとしよう。そしてそれを工房や工場に提供する。この時、卸値は相場の価格でもいいけど、それはちょっと置いておく。んで、俺達の装備ははっきり言って、インチキみたいなものだ。そんじょそこらの魔物程度だと、かすり傷1つ負う事は無いほどにね。でも一般の冒険者達はどう?」

 イネスがシュタッ! と手を挙げて、

「この前見た限りでは、重要な部分のみを防護するだけの軽鎧が多かった様に思います」

「はい、イネス君、正解! 花丸をあげましょう。フルプレート・メイルなんか装備して長時間ダンジョンで戦闘なんて出来ないから。なぜなら、行きは食料や水とかの物資を背負わなければならないし、帰りは魔石や素材を背負わなきゃならない。それに狭いダンジョンなんだから、いくら防御力があっても重い装備だと動きが鈍る。つまりは重くて硬い装備は不向きなんだよ。ここまでは理解できるかな?」

「「「「「はい!」」」」」


「で、物資やその他諸々の関係上、ダンジョンにはチームとかパーティーって呼ばれる、3~6人程度で組んだ冒険者で挑むのが、現在最も効率が良い事が分かってる」

 皆、このぐらいは理解してるみたいだな。

「で、このパーティーが、大体1回のダンジョン・アタックで、2日~3日かけて魔石だと50~100個は回収して来てくれるの。そんで、それはギルドを通して工房へと卸されてる。冒険者から魔石を買い取る時に、税金と手数料が発生。んで卸す時にも税金が発生。冒険者は魔石を売ったお金で、次のアタック用の物資を購入するけど、この時も税金が発生」

 あ、段々こんがらがって来たかな?

「冒険者に商品を売った店が、また仕入れる時にも税金が発生…つまり、色んな所で税金が発生してるの」

「税金…何回も掛かってるんですね…」

 ミレーラが、ぽつりとこぼしたが、

「はい、ミレーラ君。良い所に気付きました。消費者が物を売買する過程における様々な場所に税金が掛かっています。この税金が領の収入となります。こうしたお金の循環の早さと規模が大きくなればなる程、我が領は潤っていくのです」

 あ、イネスの頭から湯気が出そう…

「これは簡単な経済…っていうかお金の流れの説明ですが、何となくでも理解できましたか? 領地を運営する立場になると、コレ重要ですよ!」

 ま、イネスは脳筋だからなぁ…

「このお金の循環の基本となっている魔石ですが、ダンジョンをあの装備を付けて無双して、皆が魔石を沢山集めたとしましょう。それを格安で工房や工場に卸した場合、金の循環が滞るのがわかりますか? 確かに工房や工場では格安で仕入れられるのですから、一時は利益が出ます。でも、魔石が売れなくなるので、ギルドは買い取り価格を下げます。需要と供給のバランスの問題ですね」

「「「「「ふむふむ」」」」」

「魔石が安くなると、冒険者は儲からないので、もっと儲かる仕事がある他の領に活動拠点を移すでしょう。すると段々と領内の物が売れなくなっていきます。宿にも泊まる人が減っていくでしょう。冒険者が我が領から、どんどん減っていきます。そんな時、もし皆がある日を境にダンジョンに行かなくなったら?」

「「「「「???」」」」」

「魔石を集めていた冒険者はもう居ません。途端に魔石が不足して価格も高騰。そうすると製品の価格も当然上げなければなりません。すると製品の買い控えが起きるかもしれない。なら価格を抑えましょう…賃金カットとか労働者をクビにすればいいじゃないか! と考えるのが、ごく一般的です。領民の生活の質の向上を目指しているのに、これでは真逆ですね?」

 あっ! って顔してるな。ようやく理解したか、イネスよ…


「んで、肝心な事ですが…現在、魔石は必要量は安定して供給されてます! ダンジョンに潜る冒険者が、非常に多くなったので、十分すぎる量を工房も工場も確保出来ていて、価格も安定しています。なので、皆が魔石を無理してとりに行く事はありません」

 あ、皆めっちゃガッカリしてるなぁ…

「遊びや訓練ならたまには付き合うけど、あの装備を使ったお仕事はダメ! そもそもネス様にもらった神具なんだから」

「そ、そうですね…よくかりました…」

 しょぼ~~~ん…って、皆すごい俯いちゃった…


『大河さん、大河さん!』

 ん?

『そうじゃないんですってば! 魔石がどうたらは、ただの口実です! 一緒にダンジョンに行きたいだけなんですって!』

 んん? だって、そう言ってたじゃん。

『いや、だから、デートのノリみたいなもんなんですよ! でも最近忙しそうだったから、何かうまい口実を無理やり捻り出したのに、クッソ正論で論破しちゃったもんだから、皆がっくりですよ? ガラスの乙女心が木っ端みじんですよ!』

 え、あ…あぁ? そうならそうと言ってくれたら…

『それが女心なんですよ!』

 ふ~~~む…

『本当、大河さんは女心の分からない鈍感系主人公ですね。シスロリヘタレDTハーレム野郎に、鈍感盆暗朴念仁の唐変木のクルクルパーって属性がプラスされちゃいましたね(笑)』

 おまえ、寿限無寿限無じゃないんだから、滅茶苦茶に繋げるなよなあ…はぁ…

 

 ううむ…よし、わかった!

「皆には、しっかりと訓練をして欲しいと思います」

「「「「「………はい」」」」」

 うん、さらにしょぼぼ~~んって感じだな。

「さし当たっては、足場の悪い所でのフォーメーションの訓練をしましょう」

「「「「「………はい」」」」」

「てことで、明日は浜辺で訓練をしたいと思います!」

「「「「「!!!」」」」」

「よ~し! こうなったら、父さん母さん、コルネちゃんにナディアに妖精さんに、ユズキもユズカも、メイドさんも誰もかれも連れて、浜辺でバカンスするぞーー!」

 「「「「「やったーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る