第203話  温泉はいいねぇ

 今後の方針が決まった(俺が勝手に決めた)ので、今夜はリゾート街にある温泉でのんびりする事になった。

 

 最近、魔族さんにお願いしてテストを始めたエステっぽいマッサージなのだが、うちの女性陣にも試してもらう事にした。

 何でも魔族さん特製の皮膚の治療薬を薄めた物とリラックス効果のある植物オイルを混ぜたマッサージ・オイルを使うらしいのだが、テスターになってくれたエルフの女性には非常に好評だった。

 本格的な運用を視野に入れたテスト運用開始を控えてるのと、まあ…我が家の女性陣のご機嫌取りも兼ねた最終テストってわけ。

 クソ豚男爵邸での不愉快な一幕と、街の強行突破や徹夜での帰路で、表面には出さないがやはり肉体的な疲れとストレスが溜まってるだろうから、ここはゴマスリしておかねば、後々怖いってのもあるからな。

 

 さて、我が家の面々が温泉に行っている間に俺は仕事をちゃちゃっとこなしますかね。まずは裏庭にホワイト・オルター号を呼び出します。

 夜の湖の湖面を静かに割って浮上する白い飛行船…いいね! なんかアニメで有りそうなシーンだ。

 んで、地下室から豚君の所から失敬して来た大量の書類や資料を積みこみます。

 はい、精霊さん、妖精さん、おねがいしまーす!

 飛行船後部のカーゴスペースのハッチが開くと、精霊さん達が列をなして書類を運んで行きます。

 う~~む…精霊さんが見えない人からしたら、書類が列をなして空を飛んでる、何だコレ? 的なミステリーに見えるんだろうな…まあ、誰かに何か言われたらネス様の不思議なお力で~って事で誤魔化すけど。

 あ、精霊さん…金銀財宝もぜ~んぶ積んじゃってね。

 そう言えば妖精さん達…豚小屋は全焼した? え…半焼? そりゃ残念。 

 豚君の領地から人がいっぱい逃げ出す準備してる? 隊長さん達が領民に触れまわったな…そっか、変なのじゃなければ、来るなら拒まず受け入れましょう。

 でも行動早いな~。あの男爵、よっぽど嫌われてるんだな。

 ふんふんふ~ん♪ 鹿の糞~♪ っと、もう積み終わったの? 精霊さん達ありがとう~! んじゃちゅーちゅーしていいよ~。

 うっほ! 最近直接あげてなかったから、めっちゃ寄ってくるなあ。まあ、今回は久々に大活躍だったもんね。

 豚君の屋敷から俺の屋敷まで書類やその他諸々をバケツリレー方式で運ぶなんて、どんだけの数の精霊さんが協力してくれたか…いや~俺って恵まれてるわ~!

 

 あ、父さんにユズキ…そんなとこでぼへ~っとしてどうしたの? 

 え、書類が飛んでる、あの光景? 忘れなさい。いいから忘れなさい。

 ささ、俺達も温泉に行こうじゃないか! 温泉はいいよ~! 疲れが取れる!

 いざ湯かん…じゃない、いざ行かん! 至福の温泉街へ!

 あ、ホワイト・オルター号は、シールド張って湖の中で待機しといてね…帰ったらまた呼ぶかもしれないけど。

 

 我が家の数少ない男性陣も、のんびり温泉で裸の付き合いをしました。

 父さん…凶悪アナコンダ。ユズキ…ウナギ。俺…ドジョウ…ort

 何故だ! ユズキとは1歳違いなはず! この差は何だ! 前世はともかく、今の俺はアナコンダの血を引いているのに、なぜなんだーーーー!

『ふ…大河さんが転生する時に、呪いをかけておきましたから』

 な…サラ、それはマジか! 俺はもう成長しないってのか! 

 俺は一生、可愛らしいドジョウのままなのか!? 

 初夜の時に『あなたって…小さいのね…』とか言われ、愕然とするのか!?

 男の尊厳はどうなる!

『いや、そんなマジにならなくても…嘘ですから。呪いなんてありませんよ。単に経験の差ではないかと…』

 経験だと!? そうか、では隠れて鍛えれば…

『鍛えるって、あんたどうやるつもりですか…はっ! まさか右手が恋人…』

 いや! そうじゃない! まずは砂の入った袋を叩く! 慣れたら豆の入った袋を叩く! そうやって最終的には砂鉄入りの袋を叩く事によって、鋼のアナコンダに育て上げるのだ!

『それ、中国拳法の練功法の1つ、鉄沙掌でしょうが! それしたらドジョウが腫れあがるだけだと思いますけど!?』

 うるさい! 男の尊厳のために、戦わねばならぬ時のあるのだ!

『まあ、好きにすればいいですけど…おしっこ出来なくなってもしりませんよ?』

 血尿が出ようとも、俺は進むのだ! 栄光の架橋を渡るまで!

『アホが…アホがここにいる! 取りあえず婚約者の皆様には知らせとこかな…』

 俺には見えるぞ! 苦痛と涙と血尿の果てにある、輝かしい未来が! 

 俺はやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


 その後、風呂から上がって屋敷に戻った俺は、サラから話を聞いた婚約者~ずに取り囲まれ、ロビーにて正座で説教を受けました…1時間ぐらい…泣きたい…恥ずい…


「ところでエステはどうだった?」

 やっと正座で説教タイムが終了したので、話題転換に訊いてみたのだが、

「トールちゃん、最高よ! みてこの艶々のお肌! もちもちの感触! 母さん、毎日来たいぐらいだわ!」

 母さんの喰らいつき具合が、半端ねー!

 婚約者~ずも揃ってウンウンと頷いている。

 父さんもエステ受けた母さんみてモジモジじてたからなあ…兄妹増えるかな?

「近日中に正式にエステサロンをオープンする予定だけど、こりゃいけそうだね」

 よしよし、こりゃエステティシャンも早急に育成して増員しなきゃな~。

「トールちゃん、ちょっといいかしら」

 あれ? 何故か母さんの圧が強くなってる気が…ガッシと肩を掴まれた…両手で。

「うちの街に支店を出しなさい! それも大至急です! いいですね!?」

 え~っと…真正面から俺の顔を覗き込む母さんの目…こわっ!

 だが、我が家の最大権力者にも、勇敢にも抗うトール君なのだ!

「あれは温泉とセットだからこそ効果が出るのであって…」

「ならば温泉も出しなさい! いいですね!?」

 無駄な抵抗でした。母さんのこの目はダメな奴や…めっちゃ顔が近づいて来た。

 温泉を出せって、簡単に言ってくれるけど…顔ちっか! 近いよ母さん!

「いいですね? 大至急ですよ? あなた! この件に関して最大限の便宜をトールちゃんに! 分かってますね?」

 怖い! 母さんの血走った目が怖い! 硬直して母さんのとの目線を切れない!

 まるでドラゴンに睨まれたネズミになった気分だ…

 いや、そんな怖いドラゴンは知らんけど。

 知ってるのは親切なダンジョンの黒いドラゴンさんぐらい。

 ま、アレも十分怖いけど。

 俺の勇気なんて、所詮この程度なのさ…ははは…

「「イエス マム!」」

 俺と父さんが、どうして断れよう…いや断るなど出来るはずない…はあ…また仕事増えたよ…

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