第199話  その喧嘩買った! 

 男爵家の異臭攻撃に耐えながら、晩餐会は進む…料理なんて一口も楽しめないけどな。

 メイン料理も豪勢な子ブタの丸焼きで滅茶苦茶美味しそうだったが、あまりの異臭で頭痛がしてきた頃合いだったので、もう吐きそうになっていた。もちろん吐かなかったけどな。

 

 そろそろ晩餐会が始まって30分少々…そろそろ料理は終盤。

 デザートのお時間となったが、もうこの間の男爵家の口撃で家族の怒りはほぼピークに差し掛かっていたし、異臭攻撃では脳がやられかかっていたし、最低な晩餐会であった。

 

 大体、あの男爵の子息は、何で上から目線でコルネちゃんを娶るとか言えるんだ? こいつ、もしやロリコンなのか?

 いや百歩譲ってこいつがロリコンでも無くイケメンであったとしても、あの偉そうな物言いはコルネちゃんに相応しくない。

「コルネリアさんは、もう10歳なんですから婚約者がいてもおかしくない年齢です。僕なんかすぐ隣領ですし、家同士の縁を結ぶのにもちょうどいいから、年齢差はあるけど婚約してあげてもいいですよ?」

 男爵家の馬鹿息子と伯爵家の令嬢…しかもコルネちゃんは国王陛下にも認められたネスの巫女…。

 少なくとも嫁にくださいと願う立場の人間が、何でこんなに上から目線なんだ? しかもその大量の汗は何だ? キモイ!

 父さんも母さんも、豚息子をゴミでも見るような目になってるんだが、気付かないのか?

 ぽっちゃり男爵令嬢は令嬢で、

「アルテアン伯爵様。側室は私のように若い方がよろしいでしょう? もう奥方にも飽きてこられた頃合いでしょうから、ちょうどよいタイミングでは? 私ならば子供を5人は産めますわよ?」

 豚の出産か?

「あ、もしもトールヴァルド子爵様が私の美貌の虜になっておられるのでしたら、正室として嫁いでもかまいません事よ? まあ私への結納金は高こうございますけどね…」

 いや、どんだけ金を貰ってもこいつだけは要らんぞ? その自信はどっからくるんだ?

 男爵夫妻は夫妻で何を勘違いしたのか、

「いや~話も弾んで良い事ですな~! これならば近いうちに娘の輿入れと息子の婚約が重なりそうですな~! いや~めでたい! わっはっは!」

 いや、お前ら空気読め!


 父さんの固く握った拳が震えまくってるの見えないか?

 母さんの背後に雷雲立ち昇り龍が見下ろしてるの見えないか?

 コルネちゃんが一切豚息子と目線も言葉も交わしてないの見えないか?

 メリルの目からハイライトが消えてるの見えないか? ミルシェがナイフを両手に握ってるの見えないか? ミレーラがぶつぶつと呪いの言葉を吐き続けているの見えないか? マチルダが通信機で親父さんと連絡取り合って男爵家とかかわりのある商家に圧力…もう掛けてるし! イネスがすでに剣を握りしめてるぞ!

 ナディアも天鬼族3人娘も、臨戦態勢でいるの見えないのか?

 ユズキとユズカが、「「わぁ~…」」って憐れんでるぞ、お前らを!


『マスター。妖精達より報告が入りました。隠し部屋だけでなく執務室の書類は全て押収して、現在精霊さんの協力の元、トールヴァルド様の御屋敷の地下へと搬送中です。隠し金庫の中は、金品や貴金属・宝石類に到るまで、こちらも全て押収して同様の措置をとっております』

 よくやった! 何か面白い物はあったか?

『違法な人身売買に関する証拠は確認しました。脱税や横領違法な課税などは、書類の改ざんがあるため確認中です。あとはネス教への寄進を周辺の民衆より集めていたみたいですね。もちろん全て懐に入れてます』

 それだけで十分だな。それに、ネスに関する事は俺への敵性行為と考えて間違いないな。

『大河さん大河さん! 使用人達によると、ネス詣での人達がこの領を通る時は、法外な通行料を取られるらしいですよ』

 ほ~~~! それはもう完全に俺に喧嘩売ってるな! その喧嘩買った! 


 もうストレートに踏み込んでやる!

「アルビーン男爵、少し小耳に挟んだのですが…ネス様への巡礼の方にだけ高い通行料金が課せられるのは何故ですか?」

 突然の俺の言葉に、目を見開きだらしなく口を開けたまま俺を見つめる男爵。

 俺に喧嘩売った事を後悔させてやる!

「あら子爵様、そんな些細な事どうでもよろしいではありませんか。もう我が家とアルテアン家は親類同然なのですから」

 豚息女が何言ってやがる!

 父さんに目を向けると、黙って頷いた。事前に決めておいた合図だ。

 色々と俺が掴んだら、俺の言葉に従い行動する事と、打ち合わせておいた。

 男爵が呆然としている内に、さっさと行動に移そう。

「そうですか。どうやら明確なお答えが頂けない様ですので、これ以上ここに居ても有意義なお話は出来そうにありませんね。これにて我が家は失礼いたします」

 ホール中に響くほどの声で俺が告げて席を立つと、一斉に我が家の面々も立ち上がり出口へと向かって無言で歩き始めた。

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