第五章  ご近所さんとのいざこざ

第189話  潰しますよ?

 アルテアン領の領都と言われているのは、基本的には父さんの住んでいる街。

 実際には、アルテアン伯爵領とアルテアン子爵領と分けられる事が多いのだが、俺の領地は公的には街が1つしかない事になっている。

 エルフ、ドワーフ、人魚の保護区は公式には存在していない事になっている。

 んで、父さんの伯爵領の面積や人口と比較すると、子爵領ってのは領地というのも烏滸がましいほどに小さい…街1つしかないから当然だけど…。

 なので、単にアルテアン領というと父さんと俺の領地を合わせた全てを指すことになってるんだ。

 つまり、父さんの領地は、アルテアン領ヴァルナル地区、俺の領地はアルテアン領トールヴァルド地区って呼ぶのが、我が家での呼称になっている。 


 さてさて、そんな父さんの領地では、ずっと各街や村に名前が無かったのだが、昨年大きな村や街だけは父さんが名前を付けた。

 父さんの住む街は、領都リーカと名付けられた。

 まあ分かる人は分かると思うが、母さんの名前であるウルリーカからとったのだ。

 ちなみに父さんの領地で二番目に大きな街は、ネリア。

 もちろん、我が最愛の妹であるコルネリアからとったのは明白である。

 寒村をここまで大きくした父さんの名前から、街や村の名前を付けるなどという意見は、一切なかったらしい…父さん…(涙)

 その他の小さな町や村は、アルテアン領の東街とか西街とか、東街の1番村とか2番村っていう名前になった。

 これは、リーカとネリアと名付けて、父さんが力尽きたからという噂が真しやかに流れているそうだが、事実です。


 現在のアルテアン領ヴァルナル地区は、グーダイド王国でもトップクラスの人口を誇る領となっている。

 俺が子供の頃は120人程しか居なかった領民も、いまや8万人を伺う領地となった。

 新たな産業をどんどん俺が父さんの領地で起業した事により、経済や雇用が飛躍的に伸び、それにつれて工場などの生産性と労働生産性が著しく高まった事により、領民生活の豊かさをも向上させることとなった。

 父さんの伯爵領は税率はかなり低めなのだが、すでに税収は王国では群を抜いて多く、我が家の財政はとっても豊かだ。

 この多額の税収も俺との協議でガンガン公共事業に投資しているため、またまた領民の懐がうるおい、それがまた経済を回すという、完全に正のスパイラルに入った。

 ついでに隣接している俺のアルテアン領トールヴァルド地区にあるリゾートも潤っている。

 懐に余裕が出来、週休二日制も強力に推進している為、時間と金を持て余した領民達が、リゾートにガンガン金を落としてくれているのだ。


 もちろん我が家だけに利益が集中してしまうと、周辺の領主から色々と言われたり要らぬ不平不満が出る事になるのは当然だ。

 なので、各工場には部品製造や資材の調達を、全て周辺の領に発注する事にしている。これで周辺の領地も大いに潤っている。気遣いは大事だよね。


 すでに父さんを中心としたアルテアン派なんていう派閥もあるらしい…父さんは知らないらしいが(笑)

 ちなみに、アルテアン派の筆頭は、暗黙の了解で俺なんだと。

 俺は全く聞いてないんだけど?

 何でこんな話をしているかというと…


「トールヴァルド卿。実は再来週なのですが、私の屋敷にて晩餐会を開催する事になりまして…是非、婚約者の皆様とともにお越し頂けないでしょうか?」

 アルテアン領の隣領の領主であるアルビーン男爵が、『ネス様を詣でに来たのですが、是非子爵様にご挨拶を…』と、俺の所にやって来たのが始まりだ。

 もちろん、ネス詣でなんて口実に過ぎない事は分かってる。

「もちろん伯爵様にもお話をさせて頂き、快諾を頂いております」

 うん、父さんの(本人は知らないが)派閥が集まって何をする気かしらないけど、変な事だったら潰すよ?

「父さんも参加するのですか…まあ、参加すること自体、特に問題はありませんが…」

「何か他に問題でも?」

「アルビーン卿。派閥を作る事に関して特に私から何かいう事はございません。父さんを盟主と仰ぐのも特に止めはしません。ですが、派閥に参加されている方々が、他の派閥の方々に何かを仕掛けたり企てたりしているのであれば……」

 ごくり…男爵が唾を飲み込む音が、やたら大きく響いた気がする。

「全て潰しますよ?」

「!!」

「父さんや家族の意図せぬ政策の押しつけや吹聴、そして嘘偽りは、十分にご注意ください。少しでもおかしな噂話を私が耳にしたらどうなるか…わかりますね?」

「ええ…もちろんです…」

「もちろんご不満がおありでしたら、いつでも我々に仕掛けて頂いて構いませんよ? あなた方派閥の全戦力とアルテアン家で戦が起きる事になろうとも、我が家は一歩も退くことはありませんので、努々忘れる事なきようお願いいたしますね」

 男爵さんは、滝の様に汗をダラダラ流しつつ、しかし大いに不満有といった顔で頷いていた。


 きっと派閥で上手く俺や父さんを誘導して、自分達が王国の筆頭派閥になろうとか考えてるんだろうな。

 それ自体は止めはしないが、それで家族や領民に何かあれば、あいつらの首を物理的に切ってやる!

 まあ、今度の晩餐会で何が起きるか、こうご期待ってとこだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る