第162話 ミッション・コンプリート
翌朝は、全員がほんの少しだけ布団から離れられなかったのは、やはり疲れが出ているからなのだろう。
蒸気自動車で王都まで往復し、帰宅後ほとんど間を置かずに飛行船でまた王都まで行き、さらに真アーテリオス神聖国まで足を延ばしてしまったのは、皆の身体と心への負担が大きかったかもしれない。
だが、家族全員が精神的なストレスを抱え込んでいたミレーラの事を考え、誰もこの旅程に関して不満を口にしなかった。
その結果、自分自身がストレスを溜めこんでしまっては意味が無いのだが…帰ったらゆっくり休もう。
その当事者であるミレーラは、小さな欠伸をしながら、ご両親共々晴れやかな笑顔で食堂にやってきた。
きっと、ご両親と夜遅くまで話をしてたんだろうな。ここまで連れて来れて良かったよ。
さてさて、朝食も終えて身支度を整えたら、本日はネスとうさ耳ロリ太陽神を呼び出しますよ!
昨夜、別れ際にべダムさんに、太陽神とネスが本日お昼前に降臨される予定だと伝えておいたので、広くこの国の民衆に広めてもらった。
すでに、飛行船を係留している広場周辺には、大勢の人達が集まっている。
うむうむ、善きかな善きかな。
いきなり神様が登場するのも風情が無いので、取りあえずはグーダイド王国と真アーテリオス神聖国の友好関係を示すための簡単な式典を行う。
って言っても、単に壇上で俺と父さんがべダムさんと握手をして、陛下からの親書を手渡すだけなんだが…
一旦、昨日渡した親書をまた公衆の面前で渡し直しっていう、なんとも締まらない格好だけど…まあ、仕方ないね。
地球だと、きっと記者団が取り囲んで握手してる姿をバシャバシャ写真撮ってるんだろうなあ。
ちなみに、先の戦争で俺がうさ耳ロリ太陽神を創るまでは、太陽神の姿っておっさんかじいさんの姿だったみたいで、彫刻がいっぱいあったんだって。
うさ耳ロリ太陽神の姿が、戦時の神罰が下った時にこの国の上空にでかでかと現れたのと、腐れ教会が一掃された事も相まって、以前から祀られてた彫刻は全部叩き壊されたらしい。
最近ではうさ耳ロリ太陽神の彫刻と、ネスの彫刻が作られてるとか何とか…
それではそろそろご登場いただきましょう、ネスさん降臨!
飛行船の上空に、巨大なネスの姿が浮かび上がった。
『我は水と生命の女神ネスである。太陽神よ、ここへ』
すると、教会っぽいあの城の尖塔から、うさ耳ロリ巫女の神…太陽神が姿を現す。
うん、良い感じで機能してるね。
『女神ネス様の招聘により、この太陽神まかり越しましてございます』
ん~確か以前も同じ様な事を言わせたなあ。俺って言葉の引き出しが少ないのかな?
『先の戦にて、邪なる戦を企てた咎人達を誅し真アーテリオス神聖国より排除するように命じたが、進捗具合はどうか?』
『は! ネス様の御言葉に従い、そこに控える新たなる首長べダムにより、滞りなく咎人は誅せしめてございます』
『そうか。べダムよ、ご苦労である。今後は正しき政を行う様に』
いきなり名前を呼ばれたべダムさんもびっくりしてるけど、まあ我慢してね。
「ははー! 女神ネス様、太陽神様。このべダム、誠心誠意善政に務めさせて頂きます」
うん、もうこれぐらいで良いや。長引くと俺のボキャブラリーが貧困なのがばれちゃうからね。
『うむ。今後は太陽神自らがこの国の現状を、我に報告するように。べダムよ、太陽神が常に見ていると心得よ』
『この国に危機が訪れた時、我を想いこの塔に願うが良い。我が力が必要と判断すれば、顕現して助力しようぞ。ただし、我欲に塗れ悪行を願った場合、神罰を下す事になると、その胸にしかと心得よ!』
ネスと太陽神のお言葉には、誰も逆らえませんな。
「ははー!」
さて、それではさっさと御二方には退場願いましょう。
『この場に集まりし民よ。各々が善き行いを積み重ねてこそ、善き国となる。二度と邪な企てをせぬ様に……』
音量を絞って、徐々にネスをフェードアウト。
太陽神も、『努々忘れるでないぞ。我は常にそなた達を見ておる故な……』
こっちも同じ様にフェードアウトっと。
ネスと太陽神が消えて行った空を見上げたまま祈りを奉げる民衆や、感想を語り合う民衆の騒めきの中、べダムさんと聖騎士さんが、俺の元に歩いて来た。
「トールヴァルド卿、いや使途殿。此度は誠にありがとうございました。この国が変わった事を、太陽神様はちゃんと見てくれていたんですね。ネス様にも分かって頂けたこと、望外の喜びです。我々真アーテリオス神聖国の聖騎士団は、ネス様と太陽神様の御言葉に従い、今後はより一層の善政を、そして民を正しく導いていきたいと思います。もしグーダイド王国において、我々の力が必要であれば、いつでもお申し付けください。必ずや万難を排して馳せ参じましょうぞ」
固いなあ、べダムさん。元聖騎士だから、教義に厳しい人なんだろうなあ。
邪な欲に塗れて悪事を働くクソ野郎よりもいいけどさ。
「ええ、べダム様。我々の様な権力を持つ者には多くの特権が認められております。しかし権力を有する者は、それに伴う大いなる義務も伴うのです。ネス様、太陽神様も、それを違う事が無ければ、この国に大いなる加護を授けてくれることでしょう」
うん、これぐらいにしないと、俺の灰色の脳みそが煙を噴き出しちゃうよ…
さあ、これで真アーテリオス神聖国でのミッション・コンプリートかな。
それでは我がアルテアン領へと帰るとしますかね。
早く帰らなきゃ、マチルダさんが書類の山を抱えて発狂しちゃうからさ。
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