第118話  耐久テストの思惑

「なあ、トールヴァルド……この蒸気自動車というのは、思ったよりも早いな! 乗り心地も悪くない!」

 走りだしてすぐの、父さんの感想がコレだった。

 この感想は別に父さんだけではなく、女性陣も同じ意見だった。

「馬車よりずっと快適です!」

 王女という立場上、何処に行くのにも馬車を使用していたからの比較なのか、メリルはこの蒸気自動車の乗り心地に、いたく感激していた。


 近代日本の車に標準装備されているサスペンションとショック・アブソーバーを何とか馬車に組み込もうと四苦八苦したんだが、結局はトラックの後輪に使われているリーフスプリング(重ね板ばね)式サスペンションを採用。

 サスのばね振動の減衰装置であるアブソーバーは、近代地球の自動車ではオイルやエアを封入しているが、そんな技術は無いのだが、要はサスペンションのバネが衝撃を受けて上下運動する時に、慣性でいつまでも振動を繰り返さない様にその慣性を抑えればいいだけなので、頑丈な動物の革をより合わせたものを車軸と車体の間に張る事で代用。

 この機構には、蒸気機関よりも苦労した。

 おかげで木製の車輪であっても、今までの馬車とは一線を画す乗り心地となったのだ。


 もちろん馬車にこの機構を採用するだけで、速度も乗り心地も向上する事は間違いない。シャフトベアリングも合わせて採用していただくと、さらに馬への負担も軽くなり、速度と耐久性と積載量増加も見込めます。

 どう、父さんの馬車も改造する? え、この蒸気自動車が良い? これ試作品だから、量産出来る様になったらね。


 ゴムタイヤじゃないから、どうしてもお尻へのダメージは残るんだけど、現行の馬車よりは疲労度合いが段違いに低い。

 今回は、婚約者~ずお手製のクッションがあるんで、かなりお尻に優しい。

 この王都への旅程は耐久テストなんで、観光とかは特にせずに淡々と前へと進んでいるんだが、それでも乗車している皆は楽しそうだ。

 そりゃまあ、すれ違う旅人が乗る馬車とは比較にならない程に、大きく速い乗り物だし、休憩中には居合わせた人々から質問攻めにあうわ、羨ましがられるわしてれば、優越感も満たせるだろう。

 もちろん、どこで売ってるかと聞かれれば、こう答えます。

「アルテアン領で現在研究と開発を進めています。近々量産できると思いますので、もうしばらくお待ちください」

 

 今回のテストの目的地を何で王都にしたのかっていうと、もちろん国王様にお披露目というかこんなの作ってますっていう報告と、そろそろメリルも1回実家に顔だしたら? っていう里帰りも兼ねてる。

 あと、ミルシェとコルネちゃんが王都に行ったことないので、連れて行ってあげたかったのもあるけど。

 

 それに大事な事なんだが、伯爵夫人である母さんも(来年には侯爵夫人だが)、長い間領地に籠ってて社交界とは無縁の生活を送っていたが、貴族社会では一度も社交界に顔を出さずに済ますわけにはいかない。

 この際、メリルの里帰りついでに王女の婚約を軽く発表する場を、王家主催のパーティーでも開いてもらって、俺と婚約者~ずのお披露目兼、母さんの社交界顔出し実績作りをしたい。

 あと、父さんが侯爵になったら王都にも屋敷が必要らしくて、その下見も兼ねてるんだけどね。

 とどめに、耐久テストと称したお披露目での宣伝効果もおまけで付いてくる。

 

 もう、二重三重の思惑が重なった結果の王都行きなんだ。


 あれ? 父さんと母さんがもしも王都住まいになったら、コルネちゃんも一緒に王都住まいかな? そしたら、コルネちゃん成分が簡単に補充できなくなるから、せめて我が愛しの妹だけでも領地に留めおいてもらわねば! 

 そうだよ、生命の樹のお世話もある事だし!

 大体、魑魅魍魎の跋扈する王都なんぞに、地上に舞い降りたエンジェル・コルネちゃんを送ろうものなら、どんな薄汚いゴミ虫が寄ってくるかわからん! そんな危険な魔都になんぞ大事な大事なコルネちゃんを住まわせられるか!


『『過保護ですねぇ』』

 うぉ! サラもナディアもうるさいな! これぐらい普通だろ?

『『いえ、完全に過保護です』』

 いいんだよ! 可愛い妹が悪魔の手に落ちるのを防ぐのも、兄の役目なんだ!

『『純白の創界シスターで無双出来ると思いますが?』』

 フンッ! ゴミ虫を始末するのに、コルネちゃんの手を汚すわけにはいかん! コルネちゃんには、いつまでも清い体でいてもらわねば! 俺がヤル!

『『……シスコン』』

 クッソー! なんで2人共そんなに気が合うんだよ! ハモるの止めよーぜ!

『『……』』

 うぉーい! 黙んなやー!

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