第三章 お気楽領主でいたいのに
第68話 国王様が視察に来た
うっはっは! 我が世の春じゃ!
などと口に出すと王家に叛意有り等と思われるのが確実なので、絶対に言わない。
常に謙虚な心を持って、慎ましやかに生きてゆこう。
無事に史上最年少で自力で子爵位にまで成りあがってしまった俺だが、元々偶然が重なっただけだからな。
発展見込みのある領地を持った両親の元に産まれ、ダンジョンが出来、そしてガチャ玉があった。
今まで上手くそれらが噛みあっていただけの事。
それが無ければ、きっとただの11歳児だったはずだからね。
慢心はいけない、慢心はいけない、脱税はもっと駄目。
謁見で無事に肩ポンポンをしてもらって子爵位を賜り、世界遺産級の武具を献上して俺の株は鯉の滝登りだ!
あれ、鮭だっけ? 鰻だったっけ? まあ何でもいいけど、王都の貴族には一目置かれる存在になった。
以前考えていた、ダンジョンを挟んで狼と蜂が向きあう紋章も無事に認められ、領地も俺の物ってお墨付きをもらった。
これでやる気もMAX! 開発がさらに捗るぜ!
謁見終了後に領地に帰ろうとしたら、国王様直々に視察に来ると仰る。
異種族との交流と水と生命の女神ネスを一目見たいとの仰せだ。
断る理由も無いので、30台もの馬車の列を引き連れて、俺と父さんのアルテアン領への帰路に着いた。
正確には父さんの領地は、アルテアン伯爵領。俺の領地は、アルテアン領聖ネス地区とかトールヴァルド地区って呼ばれる。
つまり父さんの領地の中に俺の領地があるって感じかな…面積的には、父さんの領地全体に対して2/5ぐらいの面積だ。
伯爵領の半分近いってすごいと思うだろうが、俺の領地のほとんどは未開発の森林。拓けているのはほんの一部だけど、そこだけが異様に栄えてるんだ。
父さんの領地を視察して、ダンジョンを見た国王様は、トンネルを通って俺の領地へとやって来た。
「このトンネルが出来れば……」「それでしたら大軍の移動が……」「防衛面では不利ですが、経済発展が……」
何だか文官さんと国王様がボソボソ話してたけど、ちゃんとネス様のお力によって出来たトンネルだって伝えてるし、家族には完全なる箝口令を敷いてるので、トンネルを掘ってくれとは言われないはずだ。
トンネル掘り職人とか、俺の目指す先とは違うからな。
先触れで蜂さん達に手紙を持たせたおかげで、王様の到着に合わせて各種族の代表が俺の屋敷でお出迎えしてくれた。
各種族の長や代表と言葉を交わし、今後も国を挙げて保護政策を進める確約を貰った面々は、とても喜んでいた。
そして国王様が最も楽しみにしていた、聖なるネス様ともご対面。
ちょっと勿体付けて焦らしてみたが、王様は黙って湖に沈むネスを見つめていた。
あんまり待たせたら可哀そうかと思って浮上させて、いつものお言葉をネスに話させると、王様を始め警護の皆さんやお付きの人も一斉に地に伏せて地に額をついて涙まで流しちゃった……。
ネスが湖に沈んで行くと、ほけ~っとした国の重鎮の顔が面白くて吹き出しそうだった。
「女神ネスの使徒、トールヴァルド・デ・アルテアン子爵よ。我が国は聖ネス教をこの国唯一の宗教とする。ついてはその方は、この国により多くの実りと安寧を齎す様、女神像をよくお祀りするのだ。よいな?」
もちろん、ははー! ってなもんです。
「この地は女神の加護を受け多くの種族が暮らす聖なる地となった。そして我がグーダイド王国にとってお主は特別な存在となったのじゃから、それなりの待遇を考えようぞ。楽しみに待っておるが良い」
さらに、ははー! ですよ。
何か貰えるのかな? 爵位はもういいから、魔道具なんかがいいなあ。
別にお金でもいいですよ? 永遠に免税とか……は無理だろうな。
だってネスとのご対面を終えた国王様とご一行は、俺のリゾートではっちゃけちゃったもん。
我が街の一番高級なホテルの最上階スィートルームを提供して、心行くまで我が街を堪能してもらいました。
金なんて取る気はないけど、昼間は遊具で目いっぱい遊んで、温泉にゆっくり浸かって、カジノでフィーバーして。
お付きの人や騎士さんは、夜に歓楽街や風俗街に突撃してたもんな。
間違いなく儲かってるのバレバレ。
まあ子爵の治める1年分の税金なんて2カ月もあったら稼げるから気にしないさ。
免税期間中でも払ってあげましょう。
慌ただしい国王様御一行の視察も無事に乗り切り、国王様が王都へお戻りになる時、
「トールヴァルド・デ・アルテアン子爵よ、王都に戻り次第その方に下賜するものを送るゆえ、楽しみにまっておれ」
って言って帰って行った。
そう言えば、俺の馬車って持ってなかったな。
父さんみたいな紋章付きの豪華な馬車でも貰えたら嬉しいなあ~。
『波乱の予感がします』
そんな事は無いだろう。だって何かくれるだけだぜ?
『面倒事を押し付けてくるとかじゃないですか? ここはまだまだ色んなポジションが空いています。家を継げない貴族家の次男三男を官僚として押しこんで来るとかあり得ますよ。何せ金の匂いのする領地に腐った息子を送り込むのは、異世界転生物の貴族ではデフォです!』
まあ、そんな話もよくあるよね。
『はっ! 国教にするとか言ってましたから、もしかしてブタみたいにぶくぶく太った大司教とか司祭とか送り込んできて、私の様な美少女を夜な夜なベッドに引っ張り込んで淫行に耽るとか!』
それこそ無いだろう。微少女なサラならいるけど、美少女なサラは居ないからな。
『微? 微って言いましたか!? 何が微なんですか! 美少女度満点の私に向かって!』
そんなの決まってるだろ? サラの胸と存在意義が微。
『…………』
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