第13話 吐く
「にゃとー!起きてー!ご飯行くよー!」
浮かれた母の声で無理やり起こされた。頭が重く、起き上がろうとしても体が動かない。
「いらない。気持ち悪い。」
気持ち悪い、という言葉になぜか力がこもった。もう一度顔を見て言ってやろうと思い目を開けると、飛び込んできた母の顔はクマができどす黒く化粧が浮いて見るに耐えない有様だった。病気の時みたいなその顔で、母はこの上なくうれしそうにへらへら笑っている。
「今食べておかないと今日は長く走るからお昼まで食べられないぞー」
声の主の顔を見た瞬間、僕はトイレに走り吐けるだけ吐いた。昨日の晩も何も食べていなかったせいかすっぱい胃液しかでなかった。田上は母とは対照的に顔を黒く光らせて、ヤニのついた歯並びの悪い汚い歯を隠さずにニヤニヤ笑いながら僕を見ていた。昨日名前をつけたあの感情、冷たい暗い僕の殺意が、体の中で暴れはじめる。
「吐いちゃった。ご飯いらない。行ってくれば」
僕は心のどこかで母は、食事に行かないと思っていた。僕がこんなに苦しんでいるんだ。母はここにいて、大丈夫?風邪かしら?旅行はやめてうちに帰ろうか?と言って僕の額に手をやる。僕はそうだね父さんが待ってるしね、と言う。甘い妄想が頭を駆け巡り、トイレのドアをパッと開けると、そこにはすでにだれもいなかった。
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