ホテルイマバリ(後編)

「うんうん。品揃えも中々だな」 


俺達三人は今、施設の見回りも兼ねて一階の

お土産コーナーを見ている。

ここにあるのはマナヒメエリアの特産品であるみかんを使ったお菓子やジュース、このエリアに配属されているフレンズのぷちフィギュアやキーホルダー等。

……まぁ、このホテル周辺にもお土産屋は

数軒建ってはいるから、ホテルのお土産コーナーには饅頭やクッキー系の定番物や、

ホテルの部屋でも食べられるように軽く摘まめるスナックやジュース、果ては酒の類まで置いてある形だ。


「どれも美味しそ~」


「飯の時間もあるから、夜食として後で買おうな」


「は~い」


「これ、美味しそうですね」


澄禾が手に取ったのは松山あげ。

愛媛では有名な食品のひとつで、加工前の豆腐の水分を極限まで抜いてから油で揚げた事で、長期保存が可能になった油揚げだと言えば分かるだろう。


「まぁ、油揚げのひとつだからね。汁物に入れると普通のお揚げとはまた違って美味しいらしいよ」


「ふふっ、助六の付け合わせの味噌汁に良さそうですね」


「いやそれだとお揚げとお揚げでお揚げが被るよ」


まぁ松山揚げと普段目にする油揚げとではまた変わってくるんだろうけど……。


一先ずホテル一階の辺りを散策もそこそこに、

お土産コーナーを出てフロントに向かう。

紛失防止も兼ねてカードキーをフロントに預け、さあ外へ向かおうかと振り向いた瞬間、

遠目ではあるがある光景が目に入り、

ほんの一瞬、見とれてしまった。


「継ちゃんどうしたの?」


「……いや、なんでもない。外、行こうか」


「うふふっ、ええ♪」


澄禾の含み笑いに見抜かれたと察したがあくまでも俺は平然を装い三人で外へ向かう。


遠目だけど……、ちょっと良かったかも。

髪下ろしたアードウルフ。



……いや待って。あの状態のアードウルフの姿見たら……松前くん、脳内キャパオーバーフロウするんじゃ?

※見事にしました。




外に出て空を見ると夕日がだいぶ沈みかけていた頃だった。

ここから少し歩けば土産物屋がぽつぽつと並ぶ通りに出る。

だが時間的には、いざとなれば澄禾の力で

光源は確保出来るとはいえど、余り長くは歩けなさそうだ。


……ていうか、なーんかさっきから誰かに付けられているような。


「そう言えばさっき、タコくん達を見かけたよ~」


「どこで?」


「継月さんがカードを渡している時ですね。

湯上がり姿でしたので大浴場に向かってらしたのかと」


まぁ、先に汗流したかったんだろうな。

特にタコくんはリウキウで全力疾走してたし。

……いやそうなるとペロくんもさっさと入った方が良くねぇか?

あの子達に関しては海にダイブするわ木葉と

泥にまみれるわでだいぶ汚れてるだろうし。

……まぁ、こうしてる内に入ってるかもしれないけど。


「そうだ風呂だけど二人ともどうする?

帰ってから入りにいくか?」


「フルルはご飯の後でもいいよ~?普段そうだし」


「わかった。澄禾姉は?」


しかし、澄禾の返事がない。


「澄禾姉……?」


右を見るとさっきまで隣を歩いていた筈の姉さんの姿もない。


「あれっ、どこ行った?」


「あっ。あそこ」


フルルが指差した方を見るとキタキツネとペロくんと何かを話している澄禾の姿がそこにはあった。


ペロくんは澄禾を睨み付けて何かまくし立てているようだが、ここからではよく聞こえないな……。

あっ、ペロくんキタキツネ抱えて逃げてった。

澄禾の姿を見つけてからほんの一瞬の出来事だったので、戻ってきた彼女に道すがらで聞くことにした。


「そういや、さっきペロくんと何かあった?」


「いえその……、私って八尺様に見えるのでしょうか?」


「えっ、何?ペロくんにそんなこと言われてたの?」


「はい」


いやまぁよく言い伝えられてる特徴に似てはいるけれどさ……。


八尺と言えばセンチメートルに直すと約2メートル43センチ。俺より約70センチも高い。

それにこの普段着は澄禾姉がこちらを散策する為にと俺が選んだ衣類のひとつだ。

どこでそう勘違いしたのやら……。

……まぁ、それも明日の夕方には誤解が解けるだろ。姉さんとは本来ならサンカイで合流する予定だったんだから。


「八尺様ってなぁに?」


「あー、八尺様ってのは気に入った子供を拐う凄い身長の高い女性の都市伝説でな」


さっくりとその概要について説明した。

あと調べてみたら元々は2ちゃん、

つまりネット掲示板から始まった怪談話らしい。


「ふーん、そうなんだ」


「まぁ、パークに居る可能性はゼロではないだろうな」


神や妖怪の類いも、元々は古来の人間が心の拠り所としたり、理解の追い付かない現象を分かりやすくする為に産み出された想像上の物だしな。

怪異がアニマルガールになってても、案外割りと不思議じゃないのがこの場所ジャパリパークのある意味恐ろしいところだ。

なんなら妖怪の類い普通にいるしな。

つい夕方に別れたイヌガミギョウブ犬神刑部なんてその最たる例だ。


「まぁ、今回は多めに見ますよ。彼だって悪気があって言った訳ではないでしょうし、なにより今はこの時を楽しみたいので」


良かったな、ペロくん。澄禾があらぬ疑いを掛けられても多少は大目に見てくれる寛容な人で。


そうこうしている内に土産を売ってる通りに着いた。


「じゃっ、適当にその辺回りますか」


🕡️


一通り辺りを散策していると日が沈みきり、

道を灯りが照らし始めた。


「そろそろ戻ろっか」


「そうだね~」


「ええ、戻りましょう」


時計を見ると時刻は18:30。

ここから戻って少し部屋で寛げば19:55など

直ぐだ。



帰りにお土産を何品か見繕い、ホテルのフロントで預けていたカードキーを受け取る。


「あっ。そういや風呂だけど、澄禾はどうする?」


「私も夕食の後で構いませんよ」


「あれっ、園長さんじゃないですか」


自室に戻ろうしていると、フロントで聞いたことのある声が聞こえた。


「ん……?あぁ、華じゃないか」


「こんばんは」


小下 華こした はなは、ジャパリパーク保安調査隊、通称『探検隊』の隊長を勤めている女の子だ。


「えんちょー♪」


と話をしていると、幼い声と共にマイルカが抱き付いてきた。


「おっと」


マイルカクジラ偶蹄目マイルカ科マイルカ属


「わっふーい♪」


「こらっ、マイルカさん」


もう一人、探検隊の知能と呼ばれるフレンズ

ミーアキャットが追い付いてくる。


ミーアキャットネコ目マングース科スリカータ属


「園長さんのお仕事の邪魔してはいけませんわ」


「大丈夫だよ、ミーアキャット。仕事って言っても、実質ほぼ数日間の休暇を貰ってるようなもんだから」


「しかし……」


「よいではないか、我が隊の参謀よ」


ブラックバッククジラ偶蹄目ウシ科ブラックバック属


「本人がそう言ってるのだ。時として邪気ない少女が慕いし長と戯るも良いだろう」


「相変わらず凝った言い回しするんだな、ブラックバック」


ソファに座りながら独特の言い回しでブラックバックがミーアキャットを制する。


「じゃあ、折角だし互いの近況報告も兼ねて軽く雑談でもしよっか。ちょっと荷物置いてくるね」


フルルと澄禾はおさげ隊の皆と残り、

俺は一旦荷物を置いて戻る。


「皆は調査のお仕事~?」


「うん!といってももう明日の朝には拠点に戻るんだけどね~」


「そっか。じゃあちょうど俺たちと被るのか」


「そう言えば、明日の午前中はアンインに向かわれるんでしたわね」 


「といっても朝食を食べてからですれけど」


「我々もこの宿の朝餉を贄としてから戻る次第だな」


それから話は弾み、気がつくと時間は19:45を指していた。


「そろそろ宴会場に向かおっか」


「そうですね」


「そうしよ~」


「じゃあまた明日」


「あっ、はい」


「まったね~」


華達に一度別れを告げて、宴会場へと向かう。


🕢️


19:50


宴会場に到着。

流石に俺たち三人が一番乗りのようだ。

座席は座布団に座り、御膳に料理の並ぶ

古き良き宴会の形だ。

まぁ十数人なんで今回そこまでキャパは大きくねぇが。


「なんだか旅館って趣ですね」


「んーまぁ、四国の風景的にもこうかなって」


「あら、継月さんもきてたんですね」


振り向くとミライさんとロードランナー、

そして風庭ペアの二人が来ていた。


「ミライさん、お早いですね」


7人で奥の方の席に移動する。


「継月こそ早いじゃねぇか。もしかして飯が待ち遠しかったのか~?」


ニヤニヤとロードランナーがからかってくる。


「ガキじゃないんだから、そんな訳ないでしょ」


まぁ、飯が楽しみってのは嘘じゃないが。


「そうでちよロードランナーたん。園長さんは大人なんでちから、ちゃんと間に合うように

余裕を持って来たに決まってるでち」


うんうん、そういうこと。

ジョフ、解説ありがとうね。


「って園長さん!頭撫でないでほしいでち!」


「あっと、すまない」


すぐに手を退ける。

ついついフルルの時の癖で撫でてしまっていた。

って、ジョフさん?なんか怒ってる割には満更でもない感じじゃないですか貴女?



「風庭さん。どうかなさいましたか?」


澄禾が二人の様子を見ていた雪衣に話し掛ける。


「あっ、いえ。ジョフさんと接する継月さん、

ジョフさんの近所に住んでるお兄さんみたいだなって」


「確かにそうですね♪」




「そういえば園長、席ってどうなってるんでち?」


「あぁ、特に決めてないから自由に座っていいよ」


「わかったでち!」


雪衣ちゃんのとこに戻ったジョフが彼女と話し合って席に移動した。


「あの二人がどうかしましたか、継月さん」


「ん?あぁいや。雪衣ちゃんとジョフってなんだか姉妹みたいだなーって」


澄禾と微笑ましそうに見送りながらも、

フルルと澄禾にも先に席に座っておくように伝え、先に座っておいて貰った。


「ほら松前さん、着きましたよ」


後ろから聞こえた声振り向くと、アードウルフに手を引かれて宴会場に到着した松前くん。

そして、そんな二人を後ろからついてくるコウテイとタコくんがいた。

一先ずタコくんには自由に座って貰うように

伝え、松前くんペアの応対に入る。


「アードウルフ。松前くん、どうしたんだ?」


「それが、私がお風呂から出て部屋に戻ってからこんな様子で……」


やっぱこうなったか……。

アードウルフもあたふたしながらも時間に間に合うように何とか連れてきてくれたようだ。


「おーい松前くーん?大丈夫かー?」


目の前で手を振ったり、肩を掴んで揺らしてみる。


「……はっ!ここは!?」


「宴会場ですよ、松前さん」


松前くん、『あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……』みたいな顔してるな。


「取り敢えず、席は自由だから。好きなとこ座りなよ」


「は、はい……」


松前くん、初な学生って感じだな。

まぁ、俺もフルルと同居し始めた頃はあんな感じだったっけ……。


その後ペロくんペア、けもさんペアも到着し、

4人と一緒に席に着いた。


「……で、なんでフルルと澄禾の間なんだってばよ」


「あら、いいじゃないですか♪」


「まぁいいけど」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


席順はこんな感じ



フ継澄ミロジョ雪


松アサけタコペキ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ペロくん、入り口側かつ俺達から最も離れた

位置に座ったな……。

澄禾と何があったんだろまじで。

俺……というより視線的に俺の隣の澄禾をめっちゃ睨んでるし。


そうこうしているとイマバリで勤務してくれている人達が料理を御膳で運んで来てくれた。


……まぁいい、今は飯を楽しむとしよう。


メニューは以下の通り。


白飯

麦味噌の味噌汁

たくあんのきんぴら(香川の郷土料理の一つ)

せんざんき(愛媛の郷土料理の一つ)

かつおのたたき

田芋のころばし(高知の郷土料理の一つ)

ゆずかん(徳島の郷土料理の一つ)


せんざんきってのは骨付き鶏の唐揚げのことだ。

田芋のころばしってのは要は里芋の煮転がしみたいなもんだな。

というかこの旅での各地で出してもらうメニューを考えてる途中で知ったんだけど鰹の叩き

って元々は高知の郷土料理なんだってな。

俺ぁ初めて知ったよ


尚、ドリンクはソフトドリンクを何種かとお茶と水を用意してある。

まぁ好きなもんセルフで酌んで飲めって事だ。

酒も何種か用意するかとか考えたが結果参加者全員学生さんだし、未成年多いし、そもそも俺弱いから基本飲まないし、結果としてはなしにした。

酔って何か間違いがあったらマズイしな。


「継月さん」


「あっ、そうでしたね」


実は1日目は取り敢えず場所が場所ってことで乾杯の音頭を俺が取る手筈になっていた。

フルルと松前くんの間の位置まで移動する。


「えー、まぁ個々に多少のトラブルこそあったものの、こうして皆無事に初日を終了出来たと言うことで、まぁゴコク……本土でいう四国の料理の数々を堪能下さい」


あー、ジョフやキタキツネ辺りもう待ちきれないって顔してら。

でもちゃんといただきますまで待ってて偉いぞ、うん。


「まぁこっからもうちょい話続く予定だったけど『長話はいいからはよ飯食わせろこちとら腹ペコなんだ』ってなってる人もいると思うし、

俺もはよ夕飯にありつきたいんでもういいだろ。よし皆食べよーかんぱーい」


言い終わると同時に聞こえたバラバラではあるが、いただきますやら乾杯の声を聴きながら

席に戻る。


……おい今プロージットって聞こえたが気のせいか?気のせいだよな?


「継ちゃん随分はしょったね」


「いやなんかもう早々に切り上げた方が良いかな~って」


コップに緑茶を注いで一気に飲み干す。


……っがーっ!キンッキンに冷えてやがる!


更にこの料理の数々。

鰹の叩きも、せんざんきも、田芋のころばしも、味付けがちょうどいいもんだから、

進む進む、米が!



「継月さん、すごく美味しそうに食べますね~」


「でも継ちゃんなんだか変なスイッチ入ってな~い?」





それから俺はというと、両隣の二人や時々ミライさんと軽く会話を交わしながら箸を進めていった。


デザートのゆずかんも最高だったな。

味付けが濃いめな料理の数々をさっぱりとした口当たりがうまく帳消しにしてくれた。


……


「ごちそうさまでした~」


「ごちそうさま」


「美味しかったですね」


「うん。じゃあミライさん、先に戻ってますんで」


「あっ、はい!お休みなさい」


🕣️


夕飯も済ませて一度部屋に戻った俺達三人は、

一服しながら風呂の準備をしていた。


「じゃぁ、そろそろ行くか」


立ち上がって大浴場へ向かおうとすると澄禾姉に呼び止められる。


「行くって何処へです?」


「えっ?何処って、大浴場だけど……」


「お風呂ならこの部屋にもあるよ?」


いや確かに部屋毎にユニットバスはあるけれど……。


「えっ、なに二人ともそっちに入るつもりでいた?」


「「えぇ(うん)」」


まさかさっきからちょくちょくこそこそと二人で話してたのはこの為か……?

まぁそれもいい。二人はユニットバスで、

俺は大浴場でゆったり、

そこでまだ入ってない筈のけもさんやペロくんと軽く語り交わすのも悪くない。

……まぁ、風呂上がりにキンッキンに冷えた牛乳や炭酸を三人で飲めないのが少し残念だが、そこは俺が帰りに何か買ってくればいい話か。


「そっか。じゃあ俺は大浴場に……」


そう言いながら立ち上がってドアへ向かおうとすると後ろからガシッと肩と胴を捕まれた。


「「逃がさない(しません)よ?」」


こっ、この二人……っ、連携して俺の身動きを止めた……!?

澄禾が両肩を、フルルが胴を、其々掴む事で!

互いの身長と、俺の身長との差を利用した、

効率的な連携と圧倒的なパワー!


しかもそれだけじゃねぇ……、肌でわかる!

澄禾の奴、自分とフルルの力を増幅させてやがる……!


なんてこった……!狙っていたんだ、始めから!

俺が立ち上がろうとする、この瞬間ときを……!!

くそっ……!卑怯だぞっ、この狐め!


「ふふっ♪観念して大人しく三人で入りましょう?」


「フルルとは普段から一緒に入ってるし問題ないでしょ~?」


「ぐぐぐっ……!」


カッポーン……


……んで、三人で入るのは了承したはいいんだが、


「なんっでよりによってこの体勢なんだよ!?」


簡単に説明すると、俺の背もたれ代わりになりなってる澄禾に後ろから抱きつかれてて、

フルルに前から抱きつかれてる状態だ。

……流石に二人にはタオルを巻いて貰ってるし、俺も腰にタオルを巻いてる。

まぁ、本来湯船に浸かるのにタオルはご法度なんだが……今回は状況が状況だしあれはあくまで公共の場である銭湯に入る時のマナーだ。

今は露天風呂とはいえ部屋に付いてるユニットバスだし、家で風呂入るのとそう変わらないからな。

あとこれ巻いてないとヤバイ、その……色々と。


「だって三人で入るならこれくらい詰めないと入れないじゃないですか~」


「ね~」


バカッ!別に三人横並びでもいいだろっ!

この湯船そこそこ広いんだから!


「ふふっ、顔赤いですよ?継月さん?」


そりゃ二人とも色々ふくよかだからな!?

やっぱ俺も男だからその……反応しちゃうわけで……。

あと耳元で喋るな澄禾!耳に息が掛かって

こそばゆいんだよ!


「継ちゃんって実はこういうのあんまり耐性ないんだよね~。フルルとはもう何回も一緒に入ってるのに~」


「ふふっ。それはそれは、良いことを聞きました♪」


まずい、二人ともからかいモードに入ってやがる……。

更に身体をこちらに寄せてきやがった。

いや違う、身体だけじゃねぇ!顔もだ!

顔を俺の肩に擦りつけてきやがった!


美女二人に懐かれ、文字通り挟まれながらの

混浴……なんてのは、端から見れば実に羨ましい光景だろう。

……が、二人の恐ろしさを知っている俺からすれば話は別。今の状況は、さながら拷問。

タオル越しとはいえ触れ合う互いの肌と肌、

胸と背に感じる、柔らかな4つの感触。

実際、湯の熱や触れている二人の体温に加えて、目の前には湯気のせいかしっとりと潤っている、フルルの可愛いながらもどこか妖美な顔つきときたもんだ。

ましてやここは普段のセントラルに構えてる

自宅の風呂などではなく、個室とはいえ屋外の風呂。

この状況では必然的に上がってしまう自身の

体温が更なる拍車を掛けて、まだ湯に浸かって

五分とも経ってない筈なのに早くも逆上せそうだ……。

……あーっ、くそっ。




冷めない身体の火照り、天使の愉悦、天獄。


結局継月は、三人仲良く10分程風呂に浸る中、逆上せ果てる。

上がった後は、(逆上せて)少しの間動けず、

澄禾が膝枕しながらの団扇での扇ぎと、

フルルが注文したスポーツドリンクによる水分補給で介抱されたあと、二人に肩を借りながら立ち上がり、ベッドイン。


三人一つのベッドで己の身を寄せ合いながら、川の字になり就寝したのだった。




目が覚めたのは6:00を少し過ぎた辺りだった。

澄禾から聞いたら寝たのは22:00過ぎたくらいだったから、大体8時間は寝ていたことになる。

昨日のシャンプーの残り香か、それとも元々の体臭か、二人から香る匂いと朝日にはっきりと意識が覚醒した俺は、二人と雑談を交わしながら身支度と出発の準備を済ませ、朝食開始の8:00に間に合うように朝食会場へと足を運ぶ。

朝食は、これまた四国の郷土料理を中心とした

和洋折衷のバイキング。

四国の特産品を使った洋食もあるんだから驚きだ。正直旨かったし、ここの調理担当に後日

レシピを教えて貰おう。

会場で偶然鉢合わせた小下隊の面々や、後に

合流したミライさんと朝食を済ませる

(ロードランナーはジョフや雪衣ちゃんと一緒に食べてた)。

部屋に戻りチェックアウトまでの一時間程をゆったり過ごした後、忘れ物がないかを確認した後に退出し、9:40にロビーに到着。


少ししてからミライさん、ロードランナーと

雪衣ちゃんペアが到着。

その後、松前くんペアとタコくんペアの四人、

ペロくんペアとけもさんペアの四人がそれぞれ到着(キタキツネが若干眠そうにしてた)。

なんだかんだでチェックアウトの3分前には全員集合出来たので、予定は早いがチェックアウトの手続きを取る。



その最中で小下隊の面々とも合流出来たので、

彼女達の乗るバスに先導される形でアンインへと向かうことに。



荷物を下のスペースに載せた後、全員がバスに搭乗したのを点呼で確認し、バスはアンインへと走る。


走っている最中、ミライさんがマイクを持つ。


『はい、皆さんおはようございま~す♪

昨晩はどうでしたでしょうか?フレンズさんと過ごす初めての夜、とても貴重な体験だったと思います』


うん、そうだね。結構キャパオーバーしかけたけど。主に風呂で。


『えー、本日の流れなんですが、

午前中はアンインエリアを各自散策した後、

この後紹介しますが保安調査隊のアンイン基地にて昼食、午後はサンカイエリアを皆さんに

観光して貰い、事前に話を通してある宿泊先で一夜を過ごす、という流れですね。

ではでは、アンインに到着するまで暫くの間、バス旅をお楽しみ下さい』


まぁバス旅を楽しむっつっても正直景色見るか近くの席のやつと駄弁るくらいしかないんだけどな。

このバスには観光バスみたいなカラオケや

ビデオを流すような装置は付けてないから。


「なぁ姉さん?」


「なんです?」


「やっぱエンタメの一つでも取り入れた方が良かったのかな?定番のカラオケマシンとか、 映画を流せるようにするとか」


「んー、まぁ有ってもいいとは思いますよ?

ただパークを楽しんで貰う趣旨とは外れそうですけど」


「だよなぁ……」


まぁそこはまた要検討か……。


其々の思惑を乗せ、バスは次なる舞台、

アンインへと走っていった。

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