ゴコク観光……その後に


ブゥゥゥゥン!と特有の音を響かせながら

木々に挟まれた道をバイクを走らせ、

一向はある場所を目指していた。


「ひゃー!速い速い!フルル、お前いつもこんな速さ体感してんのか~!?」


「まぁね~!」


「ラッキー、目的地まであとどのくらいだ?」


『コノ速度ナラ、アト3分クライデ着クヨ』


一行がここまで急いでいるには理由があった。



時間は遡り、30分程前。


「えんちょー!フルルちゃーん!」


「んっ?あぁ!麗花じゃないか!」


バイクを走らせていると横から声がしたのに

気が付き、バイクを止める。

俺に声を掛けたのは新規で入ったスタッフの

1人である春藤 麗花はるふじ れいか

身長はナナさんより少し低いくらいで桜色の

髪が特徴の女の子。

試験の結果はボーダーラインを少し下振れたものの、この天真爛漫さと老若男女問わず接するサーバルに勝るとも劣らないコミュニケーション能力の高さを見込んで採用した。

高知の育ちってことでここ、ゴコクエリアを

担当して貰ってる。

因みに、ギョウブ姉さんのとこに遊びに行くこともあるらしい。

ギョウブ姉からも孫娘みたいな子だと思われてるらしい。


四人で他愛のない話をして、流れでフルルが

うどんを食べに行こうかと思っていたことを

話しているとアライさんの作った新作うどんの話が浮上した。


「アライさんの新作うどん?」


「うん!アライちゃんとフェネックちゃんが考えた新作なんだって!すっごく美味しいんだよ!」


「へぇ~……」


「あっ、食べたいなら今すぐにでも向かったほうがいいよ?フェネックちゃんが、

『材料があんまり無くって、すーりょーげんてーなんだよね~』って言ってたから!」


「ってことは……」


「相当人気みたいだね~」


「二人は食べてみたいか?」


継月がロードランナーとフルルに訊ねると

二人は首肯で返した。


「よし。ならすぐ向かうぞ、コウガワエリアへ。……じゃあな、麗花」


「ばいばーい!」




……という訳で、俺達は現在コウガワエリアにあるアライグマとフェネックの経営する

うどん屋へバイクを走らせてる真っ最中。

因みにフルスロットルにするために運転は

オートパイロットから手動に切り替えており、

この時のスピードは約時速50km、

正直公道の法定速度ギリギリだ。


俺はふとバスでのミライさんの話を思い出していた。


『ラッキービーストオートメーションマニューバーシステム、略してランズによりラッキービーストが操縦を全て行い……』


本当はLAMSラムスなんだけど、

ミライさん……間違えてたな。

……あとで訂正しておくか。


道なりに進んでいると、いかにもうどんを取り扱っていそうな小さな建物が遠くに見えてきた。


『モウスグ目的地周辺ダヨ。スピードヲ緩メテネ』


「了解」


クラッチを緩めながらブレーキをゆっくり掛け

安全なスピードで近くに止める。


「やっほー、アライさーん」


ヘルメットを外してシートに格納すると店へ入った。


「おやおや、いらっしゃ~い」


「三人とも、いらっしゃいなのだ!」


ドアを開けて暖簾をくぐると、白の割烹着に

三角巾とこれまた和食らしい衣装でアライさんとフェネックが出迎えてくれた。

ここ、『麺処 新井』はカウンター形式のお店でありながら、取り扱っているメニューも豊富。

そして、驚くことに価格設定は1テーマパークで取り扱っている飲食物としては量に対して

かなりリーズナブルなものになっている。

必要材料は基本的にはパーク内で調達している

……というのもあるが何よりアライさん達から、

『出来るだけ安く美味しい値段で食べてほしい』

という申し出があり、取り扱う材料や

調理に使う器具、お店を維持する為の経費等諸々を計算し、商品毎に確実に黒字を取れる

ギリギリの価格を算出した。

最初、アライさんは無料で提供したいなんて

言い出したけど、流石にそれだとパークの

経営が成り立たない旨を話すと(少しばかり

フェネックが出してくれた助け船もあって)、

アライさんも納得してくれて今の形に落ち着いた。

因みにだが既にあるメニューに関しては

味はというとミライ達との試食の元、

かなりの試行回数を重ねた上での合格した物、勿論保証する。


「なぁなぁ、『アライさんの新作うどん』っていうのがあるって聞いたんだけどあるか?」


「それなら、ちょうど継月さん達の意見も聞きたいと思っていたから、試食をお願いしたいのだ」


「わかった」


アライさんとフェネックは手際よく息のあったコンビネーションでうどんを作っていく。


「へいお待ち!!」


アライさんが出してきたのは

スープには味噌を使い、トッピングに白菜、

にんじん、ほうれん草、そして意外なことに

大根がのっかり、ネギを散らしてある所謂味噌うどんだ。


「いただきまーす!」


フルルとロードランナーは会話を交わしながら俺は味や全体的なバランス等、メモをとりながらそれぞれ箸を進めていく。


うどんの汁でオーソドックスなところと言えば醤油だしやカレー辺り。

うどんと味噌が合うの?と、思う人はいると

思うかもしれないから結論から言おう、合う。

それに上京するまでは名古屋で生活を送っていた俺としては、味噌煮込みうどんが身近に

あったくらいなもので、うどんと味噌、

という組み合わせにさして抵抗はなかった。

まぁあれは赤味噌で、こっちは食べた感じ

麦味噌だから、少し違ってくるけど。

そこは二人なりに試行を重ねたのだろう、

しっかりうどんとマッチするように調整がされていた。

そして意外性を感じた大根。

何故大根を?と聞いたところ、おでんからヒントを得たそうだ。


『ごちそうさまでした~!』


「美味しかったよアライさん」


「また来るね~」


「じゃあな~」


「はいよー」


「いつでも待ってるのだ!!」


(俺はちゃっかりご飯を追加して雑炊風にして〆て)三人ともしっかりと平らげて店を出た。


「いやぁー、食べた食べた」


「アライさんまた腕を上げてたねー」


「このあとはどうするんだ?」


「取り敢えずロードランナーもいるし、

辺りを軽く流して景色を堪能しながら、道中の

店でプリンセス達への土産でも選ぼうか」


「さんせー」





一方その頃、ミライは同行を申し出た白毛の女性と共に観光地を転々とし、ジンテン川に来ていた。


「たまにはこうしてスタッフではなくゲストとして各エリアを回るのもいいですね~」


「最近のパークスタッフは、グランドオープンに向けてより忙しい感じでしたからね。

あの子は特に」


白い女性は水面からミライへと視線を移す。


「貴女もあの子も、この位の褒美はあっても罰は当たらないと思いますよ?」


「そうですね。最近は仕事詰めでしたし、

継月さんも少しでもリフレッシュ出来ればいいんですけど」


ミライが時計を見ると、ここから大社までの

移動に掛かる時間的に頃合いの時間だった。


「そろそろ戻りましょうか」


「そうですね」


二人は車に戻り、乗り込むとシートベルトを締める。


「そういえば、カコ博士は誘わなかったんですか?」


「誘ったには誘ったんですけど……。

やる事がまだあるから余裕の出来た私達だけで行くようにと返されちゃいました」


「あらまぁ……」


「まぁ、カコさんらしいといえばらしいんですし、セントラルのスタッフやフレンズさんが

交代で気には掛けてはいるんですけどね」


ミライがギョウブ大社まで戻るように腕のLBに指示を出すと、

二人を乗せた車は真っ直ぐ大社への道を走っていった。




「着いたね~」


広場に着いた俺たちはメットを外してバイクを降りる。


「余裕で間に合ったな?」


「そのように動いたからな」


あの後、ロードランナーの行きたい場所を転々としたり途中であれこれ買ったりとしたが、

集合時間のおおよそ10~15分前には着いた。

他の皆……は、まだ来てないか。


「じゃあ、俺はちょっとギョウブ姉のとこに

寄るよ」


「はーい」


フルルとロードランナーをバスの前に待機させておき、一度別れて石階段を登る。


「あれっ?コウテイとタコ君」


「あぁ、継月か」


「どうも」


石階段を登りきった大社の境内には

タコ君とコウテイがギョウブ姉と共に居た。


「ありゃ、二人に先を越されてたのか。

一番手で到着したと思ってたんだけどね」


「先のリウキウでは遅刻してしまったので、

少し余裕を持って動こうかと思いまして」


「他の皆は?」


「まだ着いてないみたい」


「皆、今頃ゴコクを楽しんでいる事じゃろうなぁ」


一人を除けば……じゃがの

と、誰にも聞こえない程小さく呟くように

ギョウブ姉が続けたのを俺だけは聞き逃さなかった。


どういう意味だ……?

……まぁ兎に角、目的を果たすか。


「ギョウブ姉、台所借りるよ」


「分かった。ついでにこれも入れといてくれ」


「ん……」


ギョウブ姉からカラスミと鰹のタタキ、それと発泡酒を受け取った。

恐らくタコ君がギョウブ姉用に買ってきた物だろう。

取り敢えずは1品か2品くらい酒の肴を作る為に台所へ向かう。

ギョウブ姉がこの後呑むのはこの発泡酒か、

それともまだ残ってる日本酒か……。

まぁ、どっちでも合うように作るんだけど。




継月を見送ったギョウブがタコとコウテイに話し掛ける。


「そろそろ皆も戻ってくる頃じゃろう。二人も麓へ戻ったらどうじゃ?」


「そうですね、そうします」


タコペアが降りると談笑していたフルルとロードランナーが迎え入れる。


「あれっ、コウテイとタコくんだ~」


「やぁ、フルル」


「な~んだ俺たちが一番乗りじゃなかったのかよ~」


コウテイがフルルの持っていた袋を見る。


「フルル、それは?」


「芋けんぴ~」


「随分な量っすね」


「詰め放題やってたんだ~。

ところでコウテイ達はどこに行ってきたの~?」


フルルがタコとコウテイに質問し返す。


「私達は一先ずアライさんのうどんを食べて、その後はあちこちを転々としていたよ」


「途中、渦潮見た時にコウテイさんが泳いでみようかとか言ってびっくりしましたけどね」


「うへぇ……、渦潮のあったとこってナリモン海峡ってとこだろ?よくあんなの入ろうとか思えるな……」


ロードランナーの発言にうんうんと頷くタコ。


「コウテイはたまに自主練で険しい場所行ってるよ?」


「「嘘でしょ(だろ)……」」


タコとロードランナーがフルルの一言に驚愕していると、ミライと白服の女性が到着する。


「あら皆さん、早かったですね」


「あっ、ミライさん」


「……ミライさん、其方の方は?」


タコがミライの隣に居た女性について訊ねる


「彼女は……」


どう説明しようかと困っていたミライに女性が助け船を出す。


「ふふっ♪実はここからサンカイエリアまで皆さんに同行する手筈になっているんです。

でしたよね、ミライさん?」


「あっ、はい。そうなんです」


「ふふっ♪まだ参加者全員が揃ってないようですし、自己紹介はまた後程……と、いうことで」


「はぁ……」




支度も終わり台所から出て、ギョウブ姉の所に報告に向かう。


「ギョウブ姉、終わったよ」


「おぉ、そうか。いつもすまないな」


「このくらいならね。いつも通り冷蔵庫に

仕舞ってあるから」


「うむ」


辺りを見回すとタコくんとコウテイの姿が無かった。


「タコくんとコウテイは、もう降りていった感じ?」


「うむ、そろそろ皆も集まる頃じゃろうからな」


「じゃあ俺も戻ろうかな」


「では儂も見送りに向かうとするかの」


二人で石階段を降りるとミライさんと松前くんペアも合流していた。


「みんなお待たせ」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「継月さんは境内で何を?」


「ギョウブ姉に酒の肴を幾つか」


「まぁそんな事だろうと思っていたよ」


「継ちゃんだもんね~」


どうやらコウテイ達にはバレていたようだ。


「こんにちは、継月さん♪」


白い服に白い帽子を被った女性

……いや、◾◾◾が笑顔で話しかけてきた。

っていうか、なんでここにいるの。


「……すみません、ちょっと向こうに外れますね」


ミライさんに一言伝えてギョウブ姉と三人で

鳥居の前に移動する。


「姉さんったらなにしてるのさ?こんなところで」


「うふふっ♪折角ですし、サンカイに戻るまでの間、ご一緒させて貰おうかと思いまして」


「まぁ良いけどさ……、みんなにバレないようにしてといてよ?」


そう伝えると「えぇ、もちろん♪」と

姉さんは笑顔で頷いた。


「……まったく、お主も戯れが好きだねぇ」


「……えぇ、まぁ。……ふふっ♪」


「じゃあ、そろそろ戻ろっか」


三人でミライさん達に合流する。

その後間もなく、松前くんペア、

雪衣ちゃんペア、けもさんペアがほぼ同じ

タイミングで到着。

少し遅れてペロくんペアが何故か森の中から

木葉と泥だらけで出てきた。

何かさっきのリウキウといい、ペロくん初日から散々過ぎない?


姉さんは後から合流したメンバーとも挨拶を

交わしていた。

みんな見たことのない女性を見て一瞬驚いていたけど、軽く話しただけであっさり打ち解けていた。

姉さんの雰囲気的に打ち解けやすいんだろうな。



……にしても二人とも森の中で泥遊びでもしてたのかな……?泥だらけじゃん。


と思ってたらギョウブ姉がほくそ笑んでいるのが横目で見えた。

……まさかとは思うけど。


「んぅ?ペロとやらが気になるか?」


「うーん、なんとなく事の顛末は予測出来たから別にいいかな……」


「くっくっく……、キュウビのやつにも粗相を起こさなければいいがのぅ……」


あっ、今ので確信に変わったわ。

心の中で合掌でもしとこ……。南無南無。


あっ、キタキツネがこっちを見ている。

どうやら彼女も姉さんの正体に勘づいたみたい

当然至極……、そうなるのは事理明白……か。

一先ず俺は、ハンドサインで皆には暫く正体を伏せておくように頼んだ。


「それでは、この後は今夜宿泊する施設へと

向かうのですが……、その前に、先程から

皆さんの気になっていたこの方に自己紹介して

貰いましょうか。では、お願いします」


「はい、分かりました」


姉さんが皆の前に出る。


「皆さんこんにちは。ここからサンカイエリアまでご一緒させて貰います、伏城 澄禾ふしぎ すみかです。暫くの間ですが、

宜しくお願いしますね♪」


さて、姉さんの紹介も終わった事だし……


「じゃあミライさん、そろそろアンインエリアへと向かいましょうか」


「そうですね。あぁそれと、先程皆さんに渡したLMDSランズ改めLAMSラムスは、この後のエリアでも使いますので、失くさないようにしてくださいね」


ミライさん、今しれっと訂正したな……。


「では皆の者、よき旅路をな」


「ありがとうございました、ギョウブさん」


ミライさんに続いて皆で一礼したあと、

全員でバスに乗り込む。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

席の配置



フ継  澄

ペキ  ミロ

松ア  コタ

けサ  雪ジョ


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


他のメンバーが座った事を確認すると点呼を

取り、全員居ることを確認する。


「よしオッケー。ラッキー、バスを出して」


『オッケー、出発スルヨ』


全員が席に座り、シートベルトを着けたことが確認されると、ギョウブ姉に見送られながら

バスが走り出す。


スマホで時間を確認すると、画面に16:55の

表示されていた。予定通りだ。


「ふふっ、貴方も立派に勤めているようですね♪」


通路を挟んで右隣に座っている澄禾が声を掛けてきた。


「まぁ、仮にも園長だからね。相応の責務は

果たすさ」


「相変わらず、責任感の強い子ですね」


「いつまでも子供扱いしないでってば……」


「うふふっ、すみません♪」


和気藹々の面々と暖かに微笑む女性と

想定外の事態に少しばかりの憂鬱を抱えた青年を乗せ、

バスはスケジュール通りに今夜の宿泊施設、

ホテルイマバリへ向けて走っていく。

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