ゴコク豊穣


バスは目的地であるギョウブ大社へ向かう為、

木々に囲まれ舗装された道を走り続ける。


ギョウブ姉さん、また呑んでないといいけど……


「なぁ継月~、ゴコクエリアは誰が待ってるんだよ?」


通路を挟んで右にいたロードランナーが話しかけてきた。


「イヌガミギョウブが待ってるぞ」


「イヌガミ……ギョウブ?」


「キョウシュウにいた、スザクさんと同じ守護けものですよ」


「へぇー。どういうフレンズなんだミライ?」


「それはですね~」


ミライさんがロードランナーにギョウブ姉さんについて簡単な説明を始める。


「ロードランナー……、あんかけちゃんが

居なくなったの引きずるんじゃないかと思っていたけど、持ち前の明るさで立て直したみたいだな」


「ロードランナー、頑張ってたんだよ。

継ちゃんがあんかけを向こうに送るまで、

本当は泣きたいの堪えたんだもん」


「そうだったのか……」


ちょっと生意気な所もあるけど、何だかんだ

友達思いなんだよな……ロードランナーって。


ふと後ろから寝息が聞こえ、チラリと見ると

キタキツネが眠っていた。

ミライさんやフルルの声のトーンがいつもより低かったのはそういうことか。


ペロくん……、ここぞとばかりに手握ってるな。

……まぁいいや、変なことさえなければ、

そういうコミュニケーションもこの旅の目的のひとつなんだから。

コウテイとタコくんは何か難しい顔をしてるけど……。


他の参加者とフレンズの感じも見るにまずまずの滑り出しってところだな。

アードウルフと松前くんもリウキウに着いた時に比べて良い雰囲気になってるみたいだし、

良かった良かった。


右肩に乗っかる何かを感じ、隣を見るとフルルが肩に頭を載せていた。

大方他の参加者が良い雰囲気出してるの見て、自分もって思った感じか。


「んっ……」


髪を撫でてやると気持ち良さそうな柔らかな

笑みを浮かべてきた。

嫁自慢(というか彼女自慢?)になるがこういう可愛さがいつも癒されるんだよな。


🚌三


『モウスグ、ギョウブ大社二着クヨ』


ラッキービーストからの通達を受け、

前に設置しておいたマイクの電源を付けて中腰で立ち上がる。


『はい。ということで皆さんそろそろですね、

次の目的地であるギョウブ大社前へと到着しますので、この後の予定をミライさんより説明してもらいます』


フルルとロードランナーを経由してミライさんにマイクを回してもらう。


『ではこの後ですね、バスを降りてから少し

階段を登った所にある大社でこのゴコクエリア担当の守護けものであるイヌガミギョウブさんの挨拶の後、皆さんには自由行動に移って頂きます。時間としては…えっと…16:50までにこのバスまで戻って来て下さいね。

自由行動に移る際に、皆さんにはこのラッキービーストのコアが付いたバンドをお渡しします』


ミライさんがラッキービーストのコアを取り出し、見せながら続ける


『この後の各エリアでは自由行動の際、移動する為の小型車を皆さんのペア分用意してあります。これは、その操縦に必要なものですので、失くさないで下さいね。あぁ勿論、ラッキービーストLuckybeastオートメーションAutomationマニューバーManeuverシステムSystem、略してLMDSランズによりラッキービーストが操縦を全て行い、安全で快適なドライブを保証しますので、そこはご安心下さ~い』


ミライさんが話してるうちにギョウブ大社へと続く石階段と、その少し左横の駐車スペースに並ぶたった今話にあった小型車が見えてきた。


『それではもう間もなくギョウブ大社へと移動しますので、降りる準備をお願いしま~す』


各自が降りる準備をしていると、ギョウブ大社へと続く石階段付近へと止まった。


全員が降りてミライさんを先頭に二列で進み、

鳥居をくぐりながら紅葉した木々に挟まれた

石階段の道を登っていく。


このゴコクエリアのギョウブ大社を含む、

パークの一部の場所は、何故かはわからないがパークの外と同じように季節によって周囲が 変化するようになっている。

今は秋だから紅葉してるってわけだ。


(落ち葉が積もり、風で払われるカットイン)


石階段を登りきり境内に到着すると

既にギョウブ姉さんが座って待っていた。


「こんにちは~」


イヌガミギョウブ???


「ようきたなぁミライ、継月。待っておったぞ」


顔が赤い……。

姉さんてばやっぱりまた呑んでるな……。


「ごめんギョウブ姉さん。少しトラブって遅れちゃって」


「いやいや。事前に予定よりちとばかし遅れる旨は聞いておったし、お主達が麓の鳥居をくぐった辺りで出迎えの準備をしてたから問題はない」


実はこのギョウブ大社、鳥居までの距離分の

半径はイヌガミギョウブの神通力が働いており、

誰が入ってきたのかを判別するセンサーの役割もあるのだ。


「紹介します。このゴコクエリアの守護を担当しておりますイヌガミギョウブさんです。

ではイヌガミギョウブさん、ご挨拶を」


「うむ」


ミライさんが横にズレてギョウブ姉が前に出る。


「たった今ミライさんから紹介に預かった、 イヌガミギョウブじゃ。

皆、パークの外からようきたな。

ここ、ゴコクエリアはパークの中でも特に自然に触れることの出来る場所である故、

是非ともパートナーのフレンズと共に豊かな

自然を見て歩くのも良いぞ。

あぁそうそう、勿論このゴコクエリアでも

美味い料理はあるぞ?

オススメはなんといってもコウガワちほーのうどん。

これが酒の〆に持ってこいなんじゃよ。

最近はタヌキと良く似た……アライグマ、

じゃったかな?

そやつが店を構えたとかなんとかで、中々盛況らしいぞ?」


そういやアライさん、あそこに店建てたんだっけ……。許可通したの忘れてた。


「それじゃぁ、わしからの挨拶は以上じゃ。

ゴコクエリアを思う存分満喫してくれよ」


ギョウブ姉さんの挨拶も終わり、俺達全員は

麓へと戻ると小型車が並ぶ駐車場へと移る。


「それでは、今から自由行動に移ります」


全部で6個ある内の3つを受け取り、

自分の分を取ると雪衣ちゃんと松前くんへと

渡していき、俺も腕に装着。

ピピッという音がしたあとバンドが左右から出てきて巻き付く。


コアパーツを腕に載せるだけでその人の腕の

太さに合わせて自動的にバンドが巻かれる仕組みだ。

まっ、試験導入も兼ねて作ったのは他でもない俺なんだけど。

こういうSFチックな仕様、かっこいいだろ?

……えっ、かっこいいよね?


「では皆さん、先ほども言った通り16:50までにこの広場に戻ってきてください」


ミライさんは笑顔を崩さないまま続ける。


「それと、先程のリウキウエリアでは

リウキウタイムと言うことでスケジュールを

組む時点で最大で一時間の遅れは考慮して

ギョウブさんにもその旨は事前に伝えておきましたから特に大きな問題は起きませんでした……が、これからの行動ではくれぐれも

時間に遅れる事が無いようにお願いします。

天真爛漫で可愛いフレンズさん達の姿に時間も忘れそうになる気持ちは分からなくもありません。

ですがそれを理由に遅刻……なんてことは

絶対ダメですからね?」


ミライさんの目線はタコくん、ペロくん、

そしてけもけもさんの三人に特に集中していた。


ミライさんの言うことは最もだ。

このパークはヒトとフレンズが共生する地、

だからパートナーのフレンズの性格や気持ちを理解し、

如何なる状況でも相手と上手く意志疎通を取り、

正しい道理を導くのはヒトである俺達の責務。

何か不祥事があったとしても、それをフレンズだけのせいにするのはナンセンスだと、

ミライさん言いたいんだろうな。


とはいえ俺の人生経験上の直感だと、みんな

その辺上手くやっていけるだろう。

……まぁ、杞憂に終わる事を願うばかりだけど。


「それでは!さっきも言いましたが、16:50にはここに戻ってきてくださいね!

では一時解散!」


ミライさんの解散を合図に各々が行動に移る。

既に行き先が決まっていて車に乗り込むペアもいれば、今からどうするか地図を見ながら相談して決めているペアもいた。


「俺とフルルはこのまま向かうけど……、

ロードランナーとミライさんはどうする?」


「俺は継月と一緒に行きたい……、

けど……」


ロードランナーは顔を横に向け、視線をミライさんに向ける。


「それでしたら、私は一人別行動しますね。

元からそのつもりでいましたし」


「良いのか?」


「はい!ロードランナーさんは、思うように

楽しんできてくださいね!」


「んー……、それじゃあそうしよっかな!」


「決まりだな」


「それじゃあいこぉ~」


三人で俺専用に用意したサイドカー付きの

バイクに乗り込む。


今回の旅行にあたり、参加者には各エリア毎に個別で自由行動用のカートを準備したと言ったが実は俺のはバイクなんだ。

理由は車よりバイクの方が馴染むから、

ただそれだけ。

向こうでフルルとかを乗せたことはあるから、

2人乗りにしても問題ないんだけど、

今回は集団の旅行ってことで2人乗りは

ちょっと不味いだろうてことでサイドカー方式を取った。

サイドカーの方は二人まで乗れるようにして

あるのが功を奏したな。


因みに本来居た世界での免許証が効かなくて、

こっちの世界で改めて二輪の免許を取りに行くことになったのはここだけの話だ。


フルルとロードランナーがヘルメットを装着したのを確認すると、俺もメットを被りバイクに

跨がる。


「いいか?出発するぞ」


「はーい」


「おっけー!」


クラッチを回し特有のエンジン音を響かせ、

バイクを走らせた。





全員が目的地へと向かったのを見届けたミライは


「さて……、ロードランナーさんには

ああいいましたが私はどうしましょうか?」


「それでしたら、私とご一緒しませんか?」


「……えっ?」


そんな最中彼女に声が掛かる。


「あら、貴女は」


ミライが声のした方へ振り向くとそこには、

白いワンピースを着た、白い長髪の女性が

微笑みながら立っていたのだった。

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