第41話 決着……!
ユメは、躊躇なくナイフでアストリットの右腕を切り裂く。
その傷は、浅かった。かすり傷と言ってよかった。
「あああああああああああああああああああっ!」
だが、アストリットは大仰に悲鳴を上げる。
見ると、ユメが斬りつけたあたりから煙が出ている。
「あがああああああ! 痛い! 熱い! 痛い!!」
もうすでにユメから離れ、斬られた右腕を押さえつけてうずくまるアストリット。
「こ、降参する! だからそれ以上その武器で私を切らないで! お願い!」
どうやらエルフが鋼を嫌うというのは本当らしい。
人間なら「ツバでもつけておけ」と言われそうな傷で致命傷のような慌てぶりだ。
「ちょっと待って、ヒロイちゃんが宝石を持っていたはず」
ユメは気を失っているヒロイの宝石袋をあさり、E級の小銭程度の価値の青の宝石を見つけて取り出した。
「傷を見せて、治してあげるから」
「う、ううう……」
涙さえ流しているアストリットは躊躇いながらも袖をめくり、傷口を見せてきた。
本当に、子供が、遊んでいるときに擦りむいてできてしまうような小さな傷に見える。そこから煙が吹いていること以外は。
「エルフが鋼に弱いって、本当なのね。だからこそ、あんなに大量のウッドフォークで自分を守ろうとしてたってことか。ヒーリングウォーター!」
ユメの治療魔法で小さな傷はすぐに塞がっていく。しかしそれでも体内に鋼をわずかでも刺し込まれたショックは簡単には収まらないようで、アストリットはまだ傷のあった場所を左手で押さえて泣き続けていた。
『……け、決着、でよろしいのでしょうか?』
さすがの変なテンションの実況も事態が飲み込めずに小声になっている。
『アストリットが「降参」って言うのが聞こえたわ。優勝は女子力バスターズよ、実況』
ドラゴンの聴覚か、それとも人知を超える視力で唇でも読んだのか、トモエがそう告げる。
『決まりましたあああああああああああっ!! 優勝は女子力バスターズ、女子力バスターズです!! 決勝戦、接戦でしたが、アストリット選手が負けを認めたことにより優勝は女子力バスターズに決まりましたああああああああっ!! おめでとうございます! 会場の皆さん、大きな拍手を!』
わああああああああああああああああっ!!
パチパチパチパチパチパチパチパチ……!
会場が歓声と拍手に包まれる。
「女子力バスターズ、優勝おめでとう!!」
「よくやった! マジですごかったぞ!」
どうやら、アストリットのファンになった観客もかなりいたようで「アストリット、準優勝おめでとう!」という声も聞こえた。
やがて、救護班が会場に到着し、気絶しているヒロイ、ヨル、オトメを担架に乗せて連れていく。
すでに戦えなくなっていたスイとハジキも、救護班に肩を借りながら医務室まで運ばれていった。
どうやらウッドフォークを召喚するのも体力を消耗するらしく、右腕の傷もあってしばらく動けないでいたアストリットにはユメが肩を貸してやった。
肩を貸そうとするとき、鞘に納めたアーミーナイフを見て怯えていたが、もちろん、ユメはこれ以上彼女に何か攻撃するつもりはない。
その様を見て、会場から二人を称える大きな声が響いた!
「いいぞーっ!」
「ふたりともよかったぞーっ!」
『ユメ選手、アストリット選手、戦いの中で友情を育んだのでしょうか!? お互いを支えながら、控え室に戻っていきます。なんと美しい決着でしょうか! これぞまさしく決勝戦に相応しい! そうは思いませんか!? 解説のトモエさん!?』
『そうね』
またトモエがふざけたことでも抜かすかと思ったものの、彼女、いや彼はただ一言そう言ったきりだった。
なにはともあれ、これでユメたち女子力バスターズはゾーエ地区北伐パーティ選考試合に優勝したわけだ。
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