第24話 謎のエルフ少女
控え室に戻ると、次に戦うのであろう二チームがにらみ合っていた。
いや、正確には二チームではない、モンスター六人組がフードに身を包んだエルフと思わしき少女を取り囲んでごちゃごちゃ文句を言っていた。
「おら、嬢ちゃん、一人で参加たあイイ度胸してんじゃねえかああん?」
「死にたくなかったら、とっとと帰んな!」
「いや、待て。殺して食いたい。帰らせるのは困る。エルフのはらわたなんてめったに食えねえ」
「おいおい、コロシはご法度だって言われただろうが。食っちゃ駄目だ」
「…………」
これだけ言われてもエルフの少女は何を返すでもなく黙って涼しげにいなしていた。
(なんか初めて会った時のハジキちゃんみたいな子だな……)
ユメはそんな印象を持った。
エルフの特徴である金の髪も、尖った耳も、フードのため見えない。ただ、その白い肌と緑色の瞳が間違いなく彼女をエルフだと教えていた。
エルフは成人してもドワーフ同様人間の子供くらいまでしか背丈が伸びない。だからこのエルフも子供なのではなく成人はしているのだろう。
それどころか、エルフは魔族同様人間の五倍ほどの寿命を持っているので「実は百歳過ぎてました」とかでも驚くには値しない。
基本は森に集落を作って暮らしている種族、エルフ。キョトーの周りではきいたことがなかったが、ナパジェイの森にも土着のエルフの集落があるのだろうか?
「なんとかいったらどうなんだ! こっちがせっかく挨拶してやってるんだぞォ!?」
「こういうのは、挨拶とは言わない」
やっと、エルフの少女が口を開いた。
「おい、ユメ、お前は異種族マニアかなにかなのか? ぼーっとあのエルフ女に見とれやがって」
ヨルに声を掛けられ、ユメは我に返った。
そうだ。このモンスターズかエルフの少女か、どちらか、勝った方とはいずれ試合で戦うことになるかもしれないのだ。
この組み合わせの後にも試合は続くと思われるのですぐにではないだろうが、たしかに体力を回復しておくべきだろう。
それに、あのモンスターチーム、こちらにもよい視線を向けていない。試合前に喧嘩でも売られたら面倒だ。
それにしても、「異種族マニア」か。
キョトーに来てからつくづく異種族と縁がある。
それになぜか、あのエルフ娘とも深い縁ができる。そんな確信がして仕方ないのだった。
ユメたちは控え室を奥に進み、廊下にいた槍を持った衛兵に話しかける。
「すみません。次の試合、是非観戦しやすい観客席から観たいんです。ダメですか?」
「駄目です。あなたたちが観客席に行ったらファンがパニックを起こします。控え室でお待ちください」
「おいおい、アイドルじゃあるまいし、アタイらも観客席に行かせてくれよ」
「ダメですダメです! 大混乱になりますって! 先程の試合でお疲れでしょう、控え室でおとなしくお休みください。だいたいさっきの試合から間が空いてしまっているのもあなたたちが会場に穴を空けたせい……」
「ああ!? あたしらの見事な戦術にケチ付けようってのか?」
そんなやり取りをしているとあのハイテンションな実況が聞こえてきた。
『うおおおおおっ、ヘル・ウォールズの救出、そして会場の修復が完了しました! 魔法って便利ですねえええええっ! では次の試合を始めさせて頂きまあああす!』
あの実況の、無駄な熱狂は一体どこから出ているのだろうか?
しかし、次の瞬間、ハイテンション実況のテンションが一瞬だけ下がった。
『あれ? 次の対戦カード、片方チーム名がありません。個人出場のようです。では、対するはチーム・バルバロイ! モンスター五人組の予選勝ち上がり組です! えーと』
そこで、やたら声の大きい実況の声が途切れた。
ユメたちとしては実況の声量のおかげで観客席まで行かなくても状況が伝わってきてありがたいが、できればあのソロのエルフの少女がどう戦うのか見ておきたい。
「ねえ、やっぱり試合を観せてよ。控え室からだと良く状況が分からないのよ」
「そう申されましても……、もう、どうなっても知りませんよ!?」
衛兵はそう言うと、やっと観客席への扉を開けてくれた。
ユメたちは大喜びで扉を開く。観客席には大勢の観客が次の試合が始まるのを今か今かと待っている。
しかし。
「おい、あれ、『女子力バスターズ』じゃないかっ!?」
「ホントだ! サイン貰おうぜ!」
「なに!? 女子力バスターズが来てる!?」
扉を開けた途端、六人とも大勢の観客に取り囲まれてしまった。
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