第33話
石斧の刃を作るのに時間はかからなかった。
尖らせた石を水で濡らし、布と石で研ぐ。
ついでに石でノミも作っておいた。
で、それらを使って持ち手となる木をなぎ倒すわけだ。
あとは長さを調節し、刃の部分を差し込む穴を彫る。
もちろんこのとき重宝するのがノミ。
持ち手となる木にノミを斜めから差し込み、固い木をトンカチとして代用する。
穴を貫通させたあとは、炭を詰め、火を起こす。
木を丈夫にすることで裂けてしまうのを防ぐためだ。
炭で穴の大きさを調節しながら刃を詰め込めば、はい、石斧の完成。
さてと。それじゃここからは二人にも内職をお願いするか。
汚れは風呂で洗い流すことができるからな。
村間先生と黒石にはまずは泥レンガから作ってもらおう。
俺は作った石斧で木材を二本切り落としていく。
石のノミを差し込み、トンカチ用の木で叩きつけながら木材を真っ二つにする。
絵的には薪割りだ。
長い木と短い木を二本ずつ用意する。
あとはノミでほぞ穴を彫り、短い方の木の先端を削ぎながらはめ込む。
型枠になるよう調整すればあとは組み立てるだけ。
レンガの成型に使う長方形のそれが完成する。蔓で結合部を補強だ。
次は水を汲み、穴を掘った地面に流し込み泥を作っていく。
レンガのヒビ割れなどを防ぐために、乾燥した植物を泥に混ぜていく。繊維が強度を上げてくれる。
あとは机代わりの石の上にレンガの成型用に作ったものを置き、泥を詰め込んでいく。
これを何度も繰り返せば竃の材料を用意することができる。
本当なら泥で作る瓦は森林洞窟にあった竃を利用しながら作っていきたいところだけど、思いの外、小さかった。
瓦を一気に何枚も作るためには炉の大きさもそれなりに必要なわけで。
だから俺はまず竃を作るための泥レンガから作り始めたわけだ。
というようなことを説明しながら、やって見せていると、
「とりあえずハジメくんがいなかったら私たちの生存確率がぐっと下がっていたことだけは分かったわ」
『同感』
とのことだった。
褒められるのは嬉しいけど、そんな未確認生命体を見たときのような目をされるのはちょっと納得がいかない。
結論から言って村間先生と黒石の集中力はすごかった。
ひたすら泥を作り、型にはめ、太陽光で乾かす、の繰り返しなわけだが、面倒くさがることもなく、淡々とこなしていく。
みんなで協力する雰囲気はものすごく嬉しいのだが、教師であるはずの村間先生がいきなり黒石にちょっかいをかけ始めた。
「……黒石さん。もし良かったら私と勝負しない?」
まあ、競争は向上心を生むという一面もあるから、決して悪いことではないわけで。むしろ推奨されるべきことではある。
とはいえ、クールな黒石のことだ。真に受けることなく『結構です』と返すだろう。
そう思って彼女に視線を向ければ、
『望むところよ』
まさかの臨戦態勢である。それも見るからにやる気満々。
えーと、静かなる闘志ってやつ? それを感じさせた。
……あの大人っぽい黒石さんはどこに?
「勝負というからには何か景品が必要だと思うの。どうかしら?」
『そうね』
……ん? なぜだろう。理由は分からないがなんかこう、背筋を冷たいものが駆け上がってくるような、そんな感覚。
村間先生が何か企んでいる悪い笑みを浮かべながら俺を見ているから尚更だった。
「制限時間内に一番レンガを多く作ることができた人は二人の中から好きな方からほっぺにキスしてもらえる、なんてどうかしら」
あかんあかんあかん。何か村間先生の悪い一面がはっきり出始めたぞ。
内心で関西弁になるぐらいには焦り始める俺。
とはいえさすがの俺も今度こそ黒石が断ってくれると踏んでいた。
俺からの頬チューなんてご褒美じゃなく、罰ゲームだろう。論外だ。
村間先生からしてもらうのもそこまで嬉しいことじゃないだろう。
期待を込めた眼差しを黒石に送ると、
『悪くないわね』
……はっ?
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