第8話
「あーもう、やってられるかっての‼︎」
無人島に漂流して早数時間。
上村一輝たちを取り巻く環境は最悪だった。
まず家造りについて。
貴重な日中を費やした結果。
何も出来上がっていなかった。そう。何もである。
意気揚々と木材をかき集めたはいいものの、それらをどう組み立てていけばいいかを知らない彼らが暗礁に乗り上がるまでに時間はかからなかった。
上村と中村に限って言えば闇雲かつ無造作に木材を手に取るため、両手には切り傷がたくさん付いていた。
だが最も絶望的なのは日が落ち始めたことである。
気温の低下。加えて上村と中村の二人は汗をかいており、身体が冷え始める。
「やべえ。腹減った」
さすがの彼らも高校生。水と食材の確保が命に直結することは言われるまでもない。
よって、男子は家造り、女子は水辺・食材の発見に別れていたのだが、
「ただいま……って、何これ全然完成してないじゃん!」
頭の中で小屋を思い浮かべていた香川は何一つ完成していない光景に驚きを隠せない様子。
「うっせ。今日は資材の調達と頭の中で図面を浮かべてたの。組み立ては明日からやるさ」
「ええー。あーし、野宿とか絶対嫌なんですけど」
「それよかそっちはどうだったんだよ。水は確保できたのか?」
水分の確保は当然出来ていると思っていた上村だったが、
「残念。周辺をくまなく探してみたけれど見つからなかったわ」
「はあっ⁉︎ 何言ってんだよ黒石! 水の確保は最優先事項だろ! 見つからなかったってなんだよ!」
「しっ、仕方がないでしょう。無いものは無いんだから」
「……はぁ。これだから女は」
「ちょっとなにそれ? さすがにその態度は無いんじゃない? あーしらだって必死になって探し回ったんだから。まずは労いの一言でもないわけ?」
険悪。彼らの雰囲気はまさにそれだった。
「チッ。そもそも俺たちがこんな目にあっているのは香川。お前がモタついていたからだろ」
と上村。
田村ハジメが救命胴衣を送り届けたあと。
上村は黒石たちと移動を開始。
しかし船内は大きく傾いているところがあり、脱出するためにはよじ登らなければいけないところがあった。
しかしそこで香川がモタついたことにより後ろから大波に飲まれ、今に至る。
「私のせいだって言いたいの?」
「違うのか?」
バチバチと睨み合う上村と香川。
それを仲裁しに行くのは中村と黒石&大原。
「落ち着いて理沙。私たちが言い争っている場合じゃないでしょう」
「そっ、そうだよ理沙ちゃん。今は協力しあって生き延びることだけ考えないと」
「一輝。お前も頭を冷やせって。喉が渇いてイラついてんのはわかるけどよ」
ますます雲行きが怪しくなる一同。
しかしそれは自然が先だったようで。
「……雨?」
頬に落ちた雫にいち早く気が付いたのは黒石だった。
「どうやら運にだけはまだ見放されてなかったな一輝」
「ああ。そうだな。まずは水の確保だ! 器になりそうなものを見つけて設置するぞ!」
ギリギリのところで生命線を延長することができた彼らだったが。
まだこのとき、この場にいる全員は知る由もない。
――この場にいる誰か一人の命が数時間後に失われることなど。
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