25.アキラ、離れる。

 「え? な、えぇっ? 」


もうその言葉しか出ませんよね。なんで、そんな直球で知りたくなかった真実告げるん? このじいさんドSなん? ド畜生なん? 


「まぁまぁ、そう気を落とさずな、わいが教えてやるっけ、気持ちをしっかりもちんよ。」


うわぁ・・・優しいこのおじいさん、ドSとか言って申し訳ないです。


いや、ちょっと待って。このじいさん、何者? イワナの怪か? このおじいさん怪しくないか?


やっと、遅れてやってきた正常な恐怖心が、不思議なおじいさんに不信感を示す。


そんな僕の湧き立つ警戒心をよそに、おじいさんはウッキウッキで僕の釣り具を鑑定して楽しいそうである。


「ああ、こりゃ釣れないわけで。ああ、ここも駄目でねか。もうわしが釣れるようにしてやるけー、ちょっと待っとれ。」


その光景に僕の感覚は、先ほどのような危険信号を示さない。このおじいさん、案外敵ではないのか・・・。


あっ、そうだ。困ったの時の精霊さん。


「精霊さん、精霊さん。」


「ああ、やっぱり、私に振ってきましたか・・・。」


そう言って、嫌そうな反応を示しながらも、精霊さんは僕と一緒にこの難題を考える。


「私的には、この老人からは宿主と似たような雰囲気を感じますね・・・。それにどうして、宿主が私を宿していることを見破ったのか・・・。それに先ほどの行動、いろいろと怪しいところが多いと思います。」


マジか、僕このおじいさんと一緒の雰囲気あるのか。とちょっとショックを受けつつも、その感情は置いといて、先ほどの出来事を例にあげる。


「でも、さっきの出来事が、このおじいさんから仕掛けたことだとすると、彼は殺ろうと思えばいつでも殺れたってことだよね。でも、僕、殺されてないし・・・。というか、あんなに楽しそうな老人を敵として認識できない。」


「見事に意見が割れましたね。それでは、ここはひとつ。ある程度の距離をとって、接するという案はどうでしょうか。」


「それだ。」


ということで、咄嗟に対処できる距離をとりつつ、このおじいさんに釣りを教えてもらうことになった。


それを見計らうように、


「精霊との話はついだか? 」


おじいさんが釣り具をあれこれしながら、僕に問う。


見透かされてしまっては仕方がないと、割り切ってギリギリ反応できそうな距離をとる。5メートルくらい離れる。


「なんじゃ、淋しいのう・・・。」


そうおじいさんは、少ししょげたような顔をしたかと思えば、


「よし、できた。お兄さん、これで釣れるようなったけ、ほじゃ、ちゃんと受け取れよ。」


そう言って、山なりに某投手のスローボールのような、ゆっくりとした速度で釣り竿を投げてくる。


僕はそれを受け取る。その釣竿は前の奴とは違い、握りやすく、竿はよりしなやかに、釣れる。これは釣れるぞ、瞬間的にそう感じとる。


逸る気持ちで、それを使って再び、釣りをするのであった。

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