18.アキラ、騎射する。
何が沈黙を破ったのか。
その答えはすぐにわかる。それは僕達が騎乗していた草食恐竜が本能に耐えきれず、逃げ出したのである。
その逃走にバケガニが身をひるがえしこちらに向かってくる。
後ろを振り向けばバケガニは、僕たちとの距離をじわりじわりと詰めてくる。
このままでは、追い付かれてしまう。そう思った瞬間には弓矢を構えて、バケガニの眼を狙う。
何かに乗って射るのは、はじめての経験であり、的が定まらない。
第一矢を射つが、草食恐竜の必死に逃げる振動が手元を狂わしてしまい、外れる。
バケガニは、さらに近づいてくる。時間はない。その事実がより一層心を乱す。
「宿主、失礼。」
精霊さんがそう言った瞬間、ビリビリと体に電気が走る。
「イタッ!! 精霊さん、何するの。」
「宿主、焦ってはいけません。騎射で大事なのは人馬一体です。」
初めはその意味がわからなかった。精霊さんが、脳に直接、語りかける。その言葉に僕は冷静さを取り戻す。
竜と一体となりて射つ。
ならば・・・。
以心伝心で草食恐竜の本能に触れる。
「逃げる逃げる。生きたい生きたい。」
死からの強い逃走の意思がひしひしと伝わってくる。
僕はその本能に寄り添うように弓矢を構える。
「次は決める。」
草食恐竜が走る。その瞬間、振動が伝わってくる。だが、一瞬だけ振動が弱まる瞬間がある。
その刹那の好機に恐竜の呼吸に合わせて、
「フォフォフォフォ・・・フォフォフォフォ・・・。」
恐竜の呼吸をより強く感じとり、僕はそれに呼応する。自分自身が恐竜と同化するかのような感覚。
より一層、自分の五感が研ぎ澄まされたのだろう。
その五感で、バケガニの急所を見極める。
「そこだっ…! 」
電子が爆ぜて駆ける。
第二矢は、先程までとは違う。鋭い閃光を描いてバケガニの両眼を吹き飛ばす。手応えは十分なほど感じ。両目は潰したことにより、これで奴の動きも止まるだろうと思った刹那。
目の前の光景を疑う。
「グチャグチャグチャグチャ」
吹き飛ばしたバケガニの傷口から黒い泡が蠢くように噴き出てくる。そして、驚異的な速さで肉腫が生えたかと思えば、眼らしきものを形成する。
だが、それはカニの眼とは違い歪で不気味な様相を呈する。まるで、細胞がイレギュラーを起こし無造作に増殖し、昆虫のようなの無数の眼の集合体。
そして、そのどす黒く濁った視線達がこちらを見る。
「殺される。」
本能が悟る、何かが起こることを。それを理解した時には、何かが僕の片腹に貫通する。
状況を理解した時には、鋭い痛みと同時に何かが染みる感覚に襲われたのであった。
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