16.アキラ、腰を抜かす。

 村に入ろうとする僕を村の住人らしき人達は警戒心を出しながら、僕の行動を仕切りに観察していた。


ここまで、警戒する理由も少しわかる。なんせ、村人のほとんどがテラと同じような獣人らしき風貌であるため、異質な存在である僕は浮いた存在となる。この違いが警戒心を抱かせる原因になってたと考えてもいいだろう。


そんなことを薄々感じていながらも、僕はこの村に来た目的である薬に詳しい者が居ないかと、村の露店の人に尋ね歩く。


「あの・・・す、すみません。この村で薬に詳しい人はいませんか? 」


初めは少し警戒した様子だったが、僕が危害を加えるつもりがないとわかると、いまいち伝わらない様子だったが話を聞いてくれる。


そして、僕の熱意が伝わったのか、皆ポカーンという顔をして困った様子ではあるが、村中の人が親身に僕の言っている言葉の意味を理解してくれようとしてくれる。


意を決したようで、一人の村人が僕に声をかけてくる。


「でばな、こけんおどほなんばひっつにはんごいだるけむ、いりすがなにばべんけせばしつう。」


そう村の一人のお爺さんがそう言う。


ほかの村人たちが一斉にだば。だば。と頷きながら、僕に近寄ってくる。


わいお婆さん達に体を優しく捕まれながら、村の中を移動する。


 そうして、一軒の大きな家ノ前に連れていかれる。


直感的にこの村の長的な人の家だと考える。


そうして、一人のお婆さんがトントンとドアを叩き、


「いりすがな!! しょうらよろひけりなば。」


畏まったように問いかける。すると、ドアがゆっくりと開く。


わいの想像では中から厳ついザ・長老的な人が出てくるかと想像していたのだが、出てきたのは村人のような獣要素がない少女だった。


長老のお孫さん的な人かな?


だが、彼女から強いリーダーシップを感じさせるオーラを感じとり、この人がこの村のトップだと断定する。


彼女は老婆の一人と何かを話、頻りに僕を見る。


「ハハハーーン。多分、わいのことを話してるな。まぁ、言ってることわかんないけど。」


借りてきた猫のような状態で、縮こまっていると少女がこちらを向いて何かを話す。


「なはた、だこるあいけるな。」


そうして、こちらの反応を見ているようで、僕はポカーンと言う表情をする。


彼女はそれを見て、何かを考えると、手を自分に向けて


「いりす。いりす。」


と何度も言う。


何このデジャヴ…。そう言ってくるので、思わず自分の名前を言う。


「アキラ。アキラ。」


そう答えるとイリスはにこやかに頷いてくれる。


嗚呼、この子良い子だわ。そう心奪われそうなっていると、横から精霊さんが話しかけて来る。


「宿主、テラさんと意志疎通をしたように彼女にもやってみては如何でしょうか? 何やら、彼女からは宿主と同じような雰囲気を感じます。もしかすると、前回よりも宿主の思っていることを伝えれるかもしれません。」


その言葉を聞いて、僕は右手を彼女に向けてひょこりと差し出す。イリスは、僕の動向に少し固まるが、すぐに冷静になって恐る恐る手に触れる。


その瞬間、僕は強く頭の中で念じる。


「薬ください。」


イリスは初めこそ、驚いた様子で手を引くが、少し考えてから再び、僕の手に触れる。僕は再度同じことを頭の中で強く念じる。


「塗り薬ください。」


次の瞬間、彼女は目を見張りこちらを見る。その顔は、驚きと好奇心に満ちた表情であり、頬を赤く染め、目をパチパチとさせている。


イリスの手に触れた状態で僕は薬をくださいと強く念じていると、彼女は手をしっかりと握ってくる。そして、彼女は目を閉じて何かを念じ始める。


「ななた、けすりをばほっしでる。わば、どげなけすりか?」


そう彼女の考えが伝わってきて、なんとなくだがその意味を理解する。


多分、向こうも抽象的なくらい理解しているのだろうと思い、テラの置かれている状況を思い浮かべて以心伝心する。


彼女は最初驚いた表情であったが、すぐに凛とした表情に戻って、村人達に指示を出す。


「こなひと、けすりばぼっすり。やんなわいばみってをすけるんり。(この人は薬をほしがっています。だから私は助けるためにこの人についていきます)」


言ってることが自然と分かり、力になってくれる意思を感じる。


さっそく、彼女は村人達に指示を出したのち、大きな家へと入っていく。


 それから、十数分待ったのち、彼女は家から出てくる。背には袋か何かを背負っているようだ。


「イリスがーな!! テチュラおぼたてましな」


横には馬よりも大きい恐竜っぽのがいた。


でっかい爬虫類らしき、恐竜という言葉がピッタリ当てはまるっぽいのがいた。


「えぇ…なにこれ…。機械とかじゃなくて、マジもんの恐竜さんでいらっしゃいますか……?」


あっ、あっ、すごい・・・。マジもんのきょ、恐竜、恐竜じゃん。


ディス イズ ダイナソー・・・オゥ、イエィ。


その衝撃事実に困惑し、腰を抜かしていると、イリスはその恐竜に臆することなく近づく。


その恐竜の見た目は細長い口に見事な鶏冠? 角? のような突起物、そして爬虫類を思わせる固そうな皮膚。


多分、草食恐竜であろうか、そういうことにしておきたい。


「ぼぉぉぉぉおおおおん」


草食恐竜は高音の声を上げる。それは何かの楽器のような綺麗な鳴き声であるが、急に鳴かれて心臓が飛び出るかと思った。


僕が人生初恐竜に興奮のような驚嘆をしている間にも、イリスは慣れた様子で村人が用意した恐竜のようなものに股がり、僕に手を差し伸べる。


その頼もしい姿に思わず好意を抱きながらも、恐る恐る手を取り恐竜に騎乗する。そして、彼女は僕の腕を少し引っ張り、自分の胴体を掴むよう催促してくる。


僕はドギマギしながらも、彼女の身体をぎゅっと掴む。


やわらかな感触が腕に伝わってくる。


「ますらをけだけられ、わいやちめだ。」


そんな心の声が、伝わって少し彼女の頬が紅く染まった様な気がした。その直後、イリスは恐竜の手綱を握り、


「えいやぁ!! 」


と掛け声を出して恐竜を走らせる。


人間二人を乗せてるとは思えないその力強い足取りと速さに、僕は驚くと同時に彼女の腰にがっしりとしがみつく。


四半世紀の人生でいろいろあったけど、まさか異世界飛ばされたと思ったら、そこで恐竜っぽいのに乗ることになることになるなんて、いやぁ~~~わけわからんなぁ・・・。


そう思いながら、草食恐竜(たぶん、パラなんちゃらサウルス)の背中に乗りながら、森を駆け抜けていくのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 地図をイリスと確認しあいながら、草食恐竜はテラの待つ家へと木々の合間をすり抜けて駆けていく。


そして、来るときに殺されそうになった川へと達する。


殺されかけたあの化けガニの経験から、より鋭くなった五感が、これから渡ることになる川から殺気立ったな予感を感じとる。


だが、草食恐竜はそれに気づかず、どんどんと川岸に近づいていく。


「止まれッ!! 」


この刹那、草食恐竜の本能に対して僕は危険信号を伝心する。


それに従うように草食恐竜は急ブレーキを掛けて止まる。


伝心すると同時に、僕もイリスが勢いで飛ばされないようにぎゅっと胴体を掴む。


その直後、急ブレーキの衝撃が来る。


「きゃぁ!! 」


イリスが声を上げて体が浮く。ふわっと上がった感触に、僕は全身で彼女が吹き飛ばされぬよう必死にこらえる。


そして、なんとか僕たちは静止する。だが、その場の異様な緊張感、生命の危機に対する底知れぬ恐怖、吐き気を催すほどの不気味な違和感が前方からキンキンと突き刺される。


自分の鼓動が聞こえるほど無音の静寂で穏やかな川の流れ。


時が止まったかのように、僕達は動かない。いや、動けないでいたというのが正しかったのだろう。


ドドドドドドドド!! 


脈拍は僕が無意識に感じていたストレスを表すかのように全身に血を巡らすのであった。




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