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そんなこんなでアンリシアとキャンプデート中!
退屈な山歩きも彼女がいるだけで天国をハイキングだね!
「ねぇ、レイン」
「ん、なに⁉」
「これは……なに?」
「中継基地、かな」
「基地?」
「ここを中心に辺りをグルグル探し回るの。で、ある程度探したら別の場所に移る。小さいキャンプ担いであちこち歩きまわるよりは移動が楽だよね」
「そうかもしれないけど……それを運んだのはレインだから。しんどくないの?」
「これぐらいは大丈夫だよ。大きいから木に当たるのは鬱陶しいけどね」
「そう……」
ははは……と、なんでだか引いてる気がする。
筋力を見せすぎたかな?
いま、私が完成させたのは軍隊が使う将校用のテント。近くの街でアンリシアが役所と交渉して手に入れてくれた。
彼女が一緒ならたとえ山でも不自由なんてさせられないものね。支柱一本一本が長いから持ち歩くのはちょっと苦労した。すぐにそこら中の木に当たるんだよね。
「魔物とかは大丈夫よね?」
「魔物除けも撒くし、護衛のゴーレムも置くし、心配になった?」
「それは……まさか、こんな派手なものを設置するなんて思わなかったから。目立たない?」
「目立った方がいいわよ。一時的にでもこの辺りのボスになってるのが一番だから」
「ボス?」
「そう」
「どういうこと?」
「だから、まずはこの辺りのボスになりましょうってこと」
「え? え?」
「あ、もうすぐ来るから、ちょっとこっちに移動しようか」
「え? え? なに?」
ううん、そろそろアンリシアの耳にも届くかな。このドドドって感じの地鳴り。
「な、なにか来てるよ! レイン!!」
「だから、ボスだよ」
「魔物除けしてるって!」
「撒くしって言ったの。まだ撒いてない」
撒くのはこの後。
ていうか、こいつが魔物除けだし。
「レイン!」
「大丈夫だって」
なにかが接近する圧力にアンリシアが悲鳴を上げる。だけどそれは目の前の木が破裂する音でかき消された。
出てきたのは熊だ。
真っ赤な熊。腹の辺りで波打つような色の差があり、まるで燃える炎のよう。
これはただの偶然ではなく、この辺りの魔力が火の力に偏っているから。火の精霊力って言ってもいいけどね。だからここで手に入る素材も火に関する力が強い。この辺りの素材で火の破壊薬を作ったらいつもより威力が増すかもね。
そしてこの熊、とてもデカい。
GUOOOOOOOOOOOO!!
いまは立ち上がって両手を広げて熊っぽく威嚇の声を上げている。
その頭はそこらの木のてっぺんと同じ位置にあるのだ。横幅も加わったら体色のせいもあって山火事に迫られているみたいになっている。
「レイン!」
「大丈夫だって」
GUOOOOOOOOOOOOOO!!
最後通告のような咆哮の後で熊……ああ、こいつの名前はジャイアントファイアベア……大火熊が突っ込んでくる。
普通の熊でも日本換算で時速六十キロメートルで走れる。こいつはヒグマよりも大きいけどその分筋力が発達しているからそれよりも速い。あのでかさのせいで距離感がおかしくなるのに、その上あっという間に間合いを詰めてくるんだからほとんどの傭兵はわけも分からずに体当たりを喰らうか爪で引き裂かれる。
だけど私はレインちゃん。
「魔女パンチ!」
カウンターでこっちから距離を詰めて大火熊の間合いを狂わせて鼻っ柱にパンチ。鼻骨を砕く。
GAU!!
「魔女キック!」
首筋にキック。普通なら分厚い毛皮と肉に邪魔されてたいして聞かないだろうけど、レインちゃんのキックをそこらの魔女キックと一緒にしちゃいけない。
え? 普通の魔女はキックしない?
そんなことはない。魔女だってキックする。
たしかに、キックの前に魔法を使うだろうけどね。
でもレインちゃんは違う。
魔法の前にパンチやキックを使うのだ。
でも、さすがに全部物理攻撃だと格好がつかないよね。レインちゃんは空気が読める魔女でもある。
でも、血飛沫舞うのはNG。観客はアンリシア。
だからパンチやキックも手加減したんだから。
【死よと神は囁く】
脳を揺さぶられて動きが取れなくなった熊の耳に黒い霧が入り込む。行動不能状態の時は各種耐性が二段階低下するのはゲームの中では常識。もちろん現実でも適応。即死魔法は即座に大火熊の命を掴み、持ち去ってしまった。
目から光が失われ、地面に体を投げ出す。
「はい、おしまい」
今夜は熊鍋だ。
とはいえここで解体したら臭いし血が汚いしなのでちょっと離れたところに移動しよう。ついでに熊の内臓で周辺の魔物をおびき寄せて一挙に壊滅させるとしましょ。
「じゃ、ちょっとお肉にして来るねぇ」
「え、ええ……」
元気に手を振るレインは巨大な熊を片手で引きずって木々の中へと消えていく。
「ふう……相変わらずむちゃくちゃね」
レインの背中を見送りアンリシアはため息とともに呟く。
「でも、こういうところがカッコイイなと思ってしまうからダメなのよねぇ」
次に吐いたアンリシアの息はため息ではなかった。
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