11
十歳で遠くへの採取は許されませんでした。
「むう、おのれ年齢」
護衛を雇えばいいでしょうと言ったのだけど、そもそも十歳は傭兵ギルドを利用できないと言われた。
利用できるのは十五歳から。
おおう、ゲームスタートの年齢がこんなところで。小魔女卒業、カボチャパンツからの脱却は十七歳のくせに……理不尽だ。
ならばあとは買うしかないんだけど……なんかもうめんどい。
「いいや、温室待と」
そう考えていまだ薬が十本、薬棚に置かれているだけの店舗でグダグダする。
と、チリリンと音がしてドアが開く。
客と一瞬期待したものの、肝心の商品がない。
「あ~~いらっしゃい」
どうせすぐ帰るだろうなとグダグダしていると足音はまっすぐこちらに近づいてきた。
「レイン、お客にその態度はないと思うわよ?」
「うん?」
顔を上げて驚いた。ちょうどフードを外したところで揺れる金髪が素顔を飾った。
アンリシアがそこにいた。
「アンリ!」
「素敵なお店ね」
「まだなにもないけどね」
「これからでしょ。レインならすぐにすごい商品が並ぶわ」
「ありがとう。お茶を用意するわ。中に入って」
どうせお客なんて来ないのだからアンリシアを中へ招く。
お茶を淹れる私を見て彼女がほう……と息を吐いた。
「レイン、カッコイイ」
「え?」
「その髪と黒い服が似合っているし、なんだろう? なんだか男の子っぽくてドキドキする」
そう言ったアンリシアの頬が赤らんでいて、本気で照れているみたい。
男の子っぽい?
うーん、たしかに髪はボブだしカボチャパンツは半ズボンっぽくしてるし、上もシャツとベストな感じにしてるから少年ぽいかもね。
でも、そんな私を見て悶えているアンリの方が可愛いよ。
「へへへ~」
「えへへ~」
そんな風にニヤニヤし合っているだけで楽しい。
ああ、幸せ。
それから家具のお礼を言うとアンリシアは驚いていた。
聞かされていなかったようだ。
「お父様がしてくれたのね」
「なら、今度は公爵様にお礼を言った方がいいのかな?」
あっ、でも執事さんがアンリシアと仲良くしてくれたらいい、みたいなことを言ってたなぁ。
とはいえこんな高級そうな家具を揃えてもらって「仲良くしてね」だけだとなんだか悪い気がする。
うーん、難しい。
とか考えていたらアンリシアがパンと手を叩く。
「ああ! でも! 私、レインにお願いがあったんだ!」
「ん? なになに?」
アンリシアのお願いならなんでも叶えるよ?
「今度、学校で野外活動があるの。だから先生が念のために薬は用意しておきなさいって。レインのお薬をお願いしてもいいかしら?」
この世界では街道を歩いていても普通にモンスターが襲って来る。それほど強いものは出てこないし、定期的に騎士団や衛兵が退治してくれているし、慣れた旅人なら一人で退治したり切り抜けたりできるけれど、それでも怪我と無縁ではいられない。
なので即効性のある魔女の薬は旅の供として手放せない。
貴族の多い学園といえど、その心得は身に着けておくようにという配慮なのだろう。
そして、アンリシアが薬を必要としている。
「まかして!」
そうと決まれば話は早い。
足りない薬草をすぐに揃えなければ!
「ああっ! 待って待って! すぐじゃないから!」
「え?」
「一週間後だから、それまでに用意してもらえたらいいから、慌てないで」
「そうなんだ」
「そうなんです。だから、今日はもっとお話しをしましょう」
「うん、わかった」
お菓子はアンリシアが持って来てくれていたので私たちは夕方近くまでお喋りをした。
「では、五日後に取りに来るわね」
「任せて。万全の準備をしておくから」
「ほどほどでいいからね?」
「わかった。完璧にしておくよ」
うちのアンリシアに傷一つでも残したらいけないからね。
なぜか首を傾げながら帰っていく彼女を見送ってから気合を入れる。
「さて……何を用意しようか?」
完全回復薬は絶対必要。
他にもあの白い肌が日焼けとかしたらだめだから耐性薬もいるわよね。
毒も色んな種類があるからエリクサーも当然。
護身用で各属性の破壊薬もいるかな?
でも、アンリシアは素人だから使いこなせないよね? ならお守りを作る方がいいか。悪意が接近した時に自動で反応する防衛魔法を付与しようか?
それともいざというときのために召喚魔法を発動するようにしようか? 竜王の魂石はたくさんあるし、でもあれも隠し工房の倉庫か……。
うーん。
「……どっちにしても材料が足りない」
やっぱり、隠し工房の素材がほとんど持ち出せていないのが厳しい。
取りに行くべきか?
隠し工房まで全力疾走で往復五日……いけるか?
ううん……ゆっくり歩いて片道十日だったし……いけないことはないだろうけど、五日間走りっぱなしだと能力増強剤とかがいるから……でも、あれってそこまで効果時間がないから…………作るとしたら大量にいるわけで、そしてその素材はいまのところないわけで……。
おおう、着る服を買いに行く服がないみたいな状態だ。
「だめだ、在庫が足りない」
隠し工房まで戻れればすぐなんだけどなぁ。
「仕方がない。王都の外で採取に出るのは禁止されてるけど……」
要はばれなければいいのだ。
夜にこっそり、行くことにしよう。
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