第70話

「みんな、行くよ。いつも通り、待ち伏せに気を付けて!!」


 拠点から広場への通路の出口にさしかかり、私はいつも通りの注意を促す。

 みんなも慣れているようで、広場に出た瞬間それぞれ散らばるように即座に移動していた。


 だけどいつもと違う点が一つだけ。

 既に半数が広場に出たというのに全く攻撃の音も相手の声も聞こえてこない。


 不思議に思いながら私の番になったので、外に出る。

 即座にそこから移動をしながら、相手の居るだろう方向を見て、私は驚いた。


「誰も……居ない?」


 今まで、拠点に攻め込まれず、全員が広場で待機していたクランに会ったこともある。

 それぞれの場所に分散させて、広場にいる人数が少なかったクランも。


 そして、私たちと同じようにコア同期をしていたクランとも戦ったことがあった。

 そのどれもが、私たちが広場に着く頃には布陣を完成させていて、臨戦態勢を敷いていた。


 私たちの戦法の唯一の欠点は、初動が遅いこと。

 コアを同期する時間や、全員に薬を満遍なく使う時間がかかるため、どうしても相手よりも遅くなる。


 それなのに私たちが先に着くということは――。


「お? ほら! お前たちが言い争いするから、出遅れたじゃないか!」

「それはマスターも一緒ですよ。一緒になって会話を楽しんでましたから」


 拍子抜けを食らっていた私たちの目の前に、ゆっくりとした足取りで、アーサーを先頭とした相手のクラン、【理想郷】のメンバーたちが現れた。

 まるでピクニックにでも来たような口ぶりだ。


「好機だ! 攻撃を仕掛けるよ!!」


 遠距離攻撃を扱えるソフィの号令で、何人かがアーサーに向かって攻撃を仕掛けた。

 その瞬間、陽気だったアーサーの顔に怖いくらいの気迫が宿る。


「ふんっ!!」


 寸分違わぬ狙いで放たれたソフィの攻撃は、なんとアーサーの剣の一振で無効化された。

 更に続く攻撃は物理属性のものは尽く弾き落とされ、魔法攻撃は直撃を受けるものの、大した痛手にならないのか、まるで無視していた。


「ダメだよ!! アーサーに闇雲に攻撃しても! 物理は【パリィ】で弾かれるし、魔防特化の装甲で、魔法もろくに効かない!!」

「聞いてたけど、まさかここまでだなんて!!」


 そう。確かにアーサーを始め、【理想郷】の主要メンバーについては事前にカインから情報を得ていた。

 特にコアを同期しているであろうアーサーについては、どう攻略するかも含めて事前に話し合っていた。


 カインいわく、アーサーはその装備を魔法攻撃に耐えるために特化させているのだとか。

 高い魔防とHPのおかげで、並大抵の魔法攻撃ではろくなダメージにならないという。


 では物理攻撃ならいいのかというと、そうはならない。

 アーサーの職業【守護者】の基本職【剣士】が初めから覚えているスキル【パリィ】。


 タイミング良く使えば、どんな物理攻撃も無効化できる最強の防御技だ。

 もちろんその有用性の高さから、ゲーム開始当初は多くの人がこのスキルを使いこなそうと、必死になったと聞いている。


 しかし今、このスキルを多用する人は居ないと言っても過言ではないだろう。

 ではなぜ一見最強に見えるこのスキルの使い手が皆無なのか。


 それはこのゲームはプレイヤースキルを重視したシステムになっているということが答えだった。

 様々な角度や位置から襲いかかる攻撃を、見事見極め、適切なタイミングと方向でスキルを使う。


 練習ならまだしも、実践で使うにはこの【パリィ】の成功は困難を極めた。

 結局運任せになる防御を選ぶくらいなら、黙って装甲を硬くするなどの方法が選ばれたのだ。


 時折苦し紛れに使うことはあっても、アーサーのように自信を持って攻撃を振り払うなど、正直なところ人間業ではないと言える。

 しかし、どんなゲームにも、超越したプレイヤースキルを持つプレイヤーというのは存在するようだ。


「あっはっは。やるならもっと総攻撃でもしないとな。ひとまずこっちも挨拶がわりの一撃といくか」


 アーサーの号令で、後ろに控えていたメンバーから遠距離攻撃が放たれる。

 私たちとは異なり、様々な方向、単体、範囲と多種多様な攻撃が降り注いだ。


 私が集中して攻撃されると思って行動していたため、思わぬ位置への攻撃に直撃を受けてしまったメンバーが何人かいた。

 レクターティファは慌てて回復魔法を唱え回復させる。


 その隙にアーサーたち前衛が距離を詰めてくる。

 浮き足立っていた私たちは一歩テンポが遅れてしまった。


 それにしてもコアを同期しているアーサーが最前線で戦うなんて。

 これがアーサーの自信の表れだろうか。


 後衛で仲間に守られながら支援する私。

 前衛で仲間を守りながら戦うアーサー。


 まるで両極端の私たちは、どちらかが倒されるまでの戦いを繰り広げていた。

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