第35話
「知り合い?」
隣にいるレクターが聞いてくる。
リディアは前に居たクラン【神への反逆者】のサブマスターで、実質的な統率をしていた女性だ。
私は一度しか話したことがないけれど、いつ出ていくのか、お荷物は邪魔なのだと、
「前居たクランの。ね」
「そう。仲は良くなさそうだね」
そこで話を終える。
既に戦いが始まっているからだ。
先に動いたのは向こうだった。
既に陣形を整えていた相手は、私たちが少ない人数だと知ると、広がっていた輪を縮めてきた。
周囲を敵に囲まれ、必然的に密集して戦わざるをえなくなった。
大技を振るうと味方にも害が及ぼす危険性があるため、戦いにくそうだ。
一方相手は中心に向かって攻撃すればよく、味方への攻撃の危険性は少ない。
完全に相手が有利でこちらが不利な体勢だ。
「くそっ! このクラン、S級みたいな戦略取りやがって! なんでこんなのが未だにA級に居るんだよ!」
カインが不満を叫ぶ。
その一言にリディアだけじゃなく、他のメンバーも多くに見覚えがあることに気付いた。
「このクラン! ほとんどが前居たクランのメンバーたちだわ! 元々S級のランカーだった人たちよ!」
「なんだって!?」
なぜユースケのクランの人たちがこのクランに集まっているか、答えはリディアが教えてくれた。
「おや。使えないお荷物だったくせに、記憶力は人並みにあるんだね。あんたの馬鹿な幼馴染のせいで、一からクランを作り直す羽目になったんだよ」
つまりユースケの元を離れたリディアたちは、自分たちの受け手となるクランを探すよりも、自分たちのクランを作る方を選んだ、ということか。
それならば、まだA級に居る理由も理解出来る。
私たちと一緒で今現在ランクを上げている最中なのだ。
「くそっ! S級経験者ってのはこんなに違うのか!」
セシルが焦った口調で叫ぶ。
多勢に無勢もあるけれど、かなり劣勢を強いられている。
他のみんなも同じだ。
単純に一人で五人を相手にしなければならない。
実際はスペースの問題もあるから一度に五人から攻撃を受けることは無い。
それでも途切れぬ攻撃を受けてみな必死に耐えるのが精一杯と言ったところだ。
「みんな! 今から使う魔法の中に固まって!」
レクターが叫ぶ。
口早に詠唱を唱え、やがて放たれた魔法は地面に円形の魔法陣を映し出し、そこから上向かって淡い白い光が発せられる。
【サンクチュアリ】。魔法陣の中にいるメンバーのHPを断続的に回復する魔法だ。
密集させられたなら、密集した戦い方があるということか。
「私も攻撃に転じるよ! 食らえ!!」
薬の強化は既に済んでいる。
幸い密集しているおかげで、広範囲回復魔法が得意なレクターの魔法は全員に効果がある。
攻撃魔法と違って、回復魔法は相手に効果を与えない仕様になっている。
レクターの回復魔法の範囲には、相手のプレイヤーも含まれるが、それで相手が回復することは無い。
一方、攻撃はフレンドリーファイアと言って、範囲にいる味方にもダメージを与えてしまう。
いくら私たちが密集しているからと言って、広範囲攻撃を放てば、相手の味方にも害が及ぶため放てないだろう。
私はさっき作ったばかりの【ブルーアシッド】を近くにいた相手に投げつける。
当たると薬の瓶が割れたエフェクトが表示され、相手に薬の効果が与えられる。
「ぐあぁぁぁ?」
どうやら麻痺が効いたらしい。
プレイヤーにもダメージの効果があるらしく、当てたプレイヤーは苦しそうな顔をしながら動きを止めた。
「サラさん、ナイス!!」
セシルが叫びながら、麻痺した相手が回復する前に集中攻撃を加えて倒す。
まず一人。ようやく相手を倒すことが出来た。
事前に持っていた毒薬を順に投げていく。
しかしさすがに抵抗値を上げているようで、なかなか状態異常にかかってくれない。
それでも何人かは、暗闇になったり、睡眠に陥ったりと状態異常が付与されていく。
そこを狙ってみんなは、何とか一人づつでも倒していこうと頑張ってくれていた。
「なかなかしぶといね! みんな! プランBに移行するよ!」
「おう!!」
突然リディアが叫び、それに合わせて相手の最前列が変わる。
先ほどまでは攻撃力が高い職業が主に居たけれど、それが入れ替わりタンク、耐久力が高い職業が並ぶ。
不思議に思っていると突然少し離れた位置に立っていたリディアを始め、魔法職が詠唱を始めた。
それに気付いたカインが叫ぶ。
「まずい!! サラ!! 拠点の中に逃げ込め! 早く!!」
「え!?」
突然のことに動けずにいると、こちらに振り向き走り込んできたセシルに突然担がれる。
そのままセシルは私を抱いたままカインの言うように私ごと拠点に走っていく。
驚いたまま目線をみんなの方に向けると、複数の広範囲高威力攻撃魔法が、次々と繰り広げられていくのが見えた。
相手の仲間も巻き込みながら、攻撃魔法が容赦なくみんなを打ち付けていく。
最初に倒れたのはウィルだった。
そしてカインも避ける術のない範囲攻撃を受け、倒れていく。
後衛のハドラーやソフィにも被害は及ぶ。
魔力が高く魔法の抵抗力が高いハドラーも、HPが高い訳でもないので耐えることは出来なかった。
その間、相手のタンクは攻撃魔法で自分のHPを減らしながらも、私たちが攻撃の範囲から逃げ出せぬようにしていた。
中には耐えきれずに倒れていく人もいる。
「なんてこと……」
私は思わず呟く。
カインが相手の戦略を
味方すらも捨て石にして、相手を滅する戦法。
人数の有利と、訓練されたメンバーを活かした攻撃特化の戦略に、私とセシルを残してみんなやられてしまったのだ。
相手もいく人かを犠牲にしたけれど、味方が倒したプレイヤーのポイントはゼロになる。
ポイントを見れば相手はこちらの八人を倒した分だけ増え、こちらはさっき倒すことができた一人分のポイントだけだった。
このまま逃げても時間が来ればポイントで負け、玉砕覚悟で挑むにしても、あまりに戦力が違いすぎる。
攻城戦を初めてからの初めての敗北の二文字が頭をよぎり、私は必死に打開策を模索していた。
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