第25話
「とうとうこの日が来たね!」
攻城戦開始直前に転送される広場で、私はみんなにそう声をかけた。
嬉しそうに笑うセシル、いつものように微笑を浮かべるハドラー。
既にやる気満々に肩を回すアンナを、カインは欠伸を噛み殺しながら見つめている。
「喜ばしいことだけどさぁ。初めての一戦ってことは。つまりFランクの戦いでしょう? やる気出ないなぁ」
「そういうこと言うなよ。どういうクランが相手になるか分からないだろ?」
既にS級の攻城戦を数え切れないほど経験し、『最強』の称号を手にしたクランのサブマスターだったカインは、正直にそう言った。
だけど予想通りセシルにたしなめられてしまう。
この二人、本当に仲がいいんだか悪いんだか。
「誰が来たって関係ないね! サラちゃんの薬と、わたしが居ればそれだけで勝てるさ!」
「アンナさん。貴女は攻城戦のルールをご存知なんですか? 攻城戦は一人で勝つのはなかなか難しい仕様ですよ」
意気込んでいるアンナに向かって、ハドラーが率直な指摘を投げる。
実のところ私も攻城戦の細かいルールは知らない。
前居たクランでは参加したことがないからだ。
更に攻城戦は、闘技場とは異なり外部から様子を見ることが出来ない。
各クランの戦術や配置などの情報をなるべく絞って、事前の限られた情報の中で相手を攻略する楽しさを、ということらしい。
このゲームはプレイしている画像をいつでも記録できる仕様だけれど、攻城戦だけはその機能も使えなくなっている。
明確に規約で禁止されていて、どうやったか分からないけれど以前攻城戦の動画をネットに載せたプレイヤーアカウントは垢BAN、つまり強制退会させられたのだとか。
「ねぇ。カイン。もし良かったら私たちに攻城戦のシステムを教えてくれない? 細かいところはやりながら覚えるからいいけど」
「え? しょうがないなぁ。サラの頼みじゃ断れない。いいよ。僕が教えてあげる。だから今度デートしてね」
冗談を言いながらも教えてくれる気はあるらしい。
掴みどころがない部分もあるけれど、なんだかんだ言ってカインは人が良い。
「えーとね。じゃあ、まず。勝利条件からね」
決着は、大きく分けて三つあるらしい。
一つは相手の陣営にある『コア』を壊すこと。
コアは守るべきものであり、これを壊した時点でそのクランの勝ちとなるのだとか。
二つ目は相手陣営の殲滅。
攻城戦に参加したプレイヤーは、一度倒されると復活できないらしい。
全員を倒した時点で、コアが残っていても勝ちとなる。
最後は時間切れ。
攻城戦は三十分間で行われ、その間に決着がつかないと時間切れとなる。
その時点で獲得ポイント多い方の勝ちなんだとか。
「次に獲得ポイントの話。これは細かいからざっくりでいいよね?」
相手プレイヤーを倒したり、陣営に設置された罠やオブジェクトなど破壊可能なものを壊すとポイントが獲得できるらしい。
強いプレイヤーが相手の足止めをしている隙に、低レベルのプレイヤーがポイント獲得に奔走する、なんて戦略もあるのだとか。
「だからね。基本的には個々が強いのも重要だけど、数が多い方が断然有利。フィールドは結構広いからね」
「相手を倒したりコアを破壊したりしに行く人と、コアを守る人。最低でもこれが必要なんだね。うーん。やっぱり五人じゃあ無理があるかなぁ」
カインの説明に私はつい弱音を吐いてしまった。
そんな私の様子を見たカインは、少し悩んだあとこんなことを言い出した。
「これは本当はかなりの秘密なんだけど。サラになら教えてもいいかな。知ってる人は知ってる話だし、僕は今このクランのメンバーだしね」
「なんかいい方法があるのか?」
思わせぶりな発言にセシルが興味を示す。
ハドラーも知らないようで、珍しく体が少し前のめりになっていた。
「コアは今いる場所、攻城戦開始の際にここに設置されてるんだけどね? 実はこれ、動かせるんだ」
「え? ほんと!?」
「うん。ある手順を踏むとね。クランのメンバーとコアが同期できるんだ」
「つまりどういうことだい? 難しい話じゃなくてわたしにも分かるように言っとくれ」
カインの説明にアンナがヤジを飛ばす。
その声にカインは軽く肩をすくめた。
「えーっと、つまり。コアをメンバーに誰かに出来ちゃうわけ。その人が倒れたらコアが壊されたってことになってお終い。でも、その人は自由に動けるから、コアを守るために誰かを拠点に置きっぱなしにしなくてもいいってこと」
「凄い! 凄い情報だよ! カイン!!」
つまり、本来コアを守るためにコアの近くに居る人は、相手陣営への攻撃に参加できない。
一方、攻めるメンバーもコアが近くにないので敵が別ルートで攻めてきていた時、コアを守ることができない。
だけどカインの言うことが本当ならば、その問題のどっちも解決できる。
コアを同期させたメンバーも含めて攻めに向かえば、守りも攻めも全員でできるということだ。
もちろんそれは諸刃の剣。
同期した人が倒れた時点で負けになるのだから。
それでも、人数がまだ少ない私たちにとっては、最適な戦略だと思える。
私はカインの両手を握ってお礼の言葉を言った。
「ありがとう。カイン。あなたが入ってくれて本当に助かってるわ!」
「え? ええっと。うん。任せといてよ……」
何故かカインの目の焦点が揺らいでいるように見える。
なにか私、変なことをしただろうか。
昨日のセシルのおかげで必要な薬も潤沢にある。
もうすぐ始まる攻城戦に、気持ちが高鳴るのを感じた。
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