第24話
「おはようございます、昨夜はよく眠れましたか?今朝は何やら騒がしそうでしたが、」
「い、いや、特に何でもないですよ、ゆっくり休めました。」
笑顔で昨日部屋まで通してくれたベルガールが元気よくシバたちに挨拶をしたがシバと魔族の女はやや笑顔が引きつっている。
「お嬢ちゃんも、おはようございます。、今日はママに会えるといいですね、」
彼女との昨夜の世間話で少女が迷子で一時的に預かっていることを言ったためごく普通の会話であるがシバを含めた少女以外の三人はハッとした。もちろん本当のことを知らなかったのでベルガールに非はないのだが。
少女は自分の目線に合わせてかがんで話しかけるベルガールから逃げるようにシバの胸に顔をうずめた。
「あらら、嫌われてしまったみたいですね~」
特に気にする様子もなくベルガールはシバたちを席に案内した。
「すみません、人見知りで、嫌いとかそういうのではないと思うので、」
「いえいえ、大丈夫です、朝食は基本決まっていますので少々お待ちください。」
ベルガールが厨房の方へ戻った。
「大丈夫か?」
シバが袖をつかんで隣に座る少女に尋ねる。少女はこくりとうなずいたがやはりつらかったのだろう。
「なんかすっかりシバにべったりね。」
「、、、名前はあるの?」
アイが少女に名前を尋ねた。うんとうなずき小さな声で少女は言った。
「フォニア、」
「フォニアか、俺はシバだ、今はユウな。で、このお姉さんはアイ、こっちの赤髪の魔族は、なんだ?」
少女に改めて自己紹介をするが魔族の女を何と呼ぶのかわからなかった。もともとアイにも個人を指す名前は魔族の概念にはないと知らされていたためこの魔族の女も呼び名がない。
「ちょっと、私だけちゃんと紹介できてないじゃないのよ、」
「、、、別にいい。お前で十分。」
「はぁ!何よそれ、私にだって名前くらいあるわよ!」
「魔族には個別の名前はないんじゃないのか?」
「普通はね、でも私の村では昔からそういう風習があったのよ。」
「で、お前の名前は?」
「私は、エイミーよ。改めて助けてくれてありがと、それとよろしくね、フォニアも!」
「、、、よろしくするつもりはない。」
「確かにな、フォニアは一緒にいることになったけど別にお前はなぁ、」
「、、、うん、騒がしいだけ。」
「何よ、二人ともひどくない?フォニアはどう?お姉さんも一緒でもいいわよね?」
エイミーに見つめられシバの腕に顔をうずめるがちらっと半分顔を出してうんとうなずいた。
(((、、か、かわええぇ!!)))
「し、しょうがねぇなぁ、」
「、、、うん、仕方ないからエイミーもいていい。」
フォニアの破壊力が半端ないことがわかったところでベルガールが朝食を運んできた。
「お待たせしましたーってどうしたんですか、お二人とも 、」
「び、びえ、何でもないですよ。」
フォニアの可愛さに心を打ち抜かれのほほんとしている二人の様子が気になったベルガールがエイミーに尋ねるが彼女も鼻を紙で押さえながら言った。よく見ると少し赤く染まっている。
「鼻血出てるみたいですけど大丈夫ですか?」
「おっほん、だ、大丈夫です、わー、おいしそうですね!」
「はい、うち自慢の料理ですよ!ごゆっくりどうぞ~」
テーブルには朝食にしてはやや豪華な料理がそろっていた。フォニアの分は別に子供用の物が用意されていた。アイやエイミーたちが食事を進めていく中でフォニアは自分の皿の料理を凝視したまま一向に食べようとしない。お腹は何度も鳴っているが。
「どうした?食べないのか?」
フォニアの様子が気になりシバが声をかける。
「違うの、こんなにいっぱいのごはん初めてだから、いいのかなって、それに熱いの、」
亜人の生活は恵まれないというのは十分知っていたつもりでいたシバであったが食事一つとっても差が顕著に表れてしまうことを痛感した。
「熱いならほら、スプーンで食べな」
「、、なあに、これ?」
シバに差し出されたスプーンを見るなり不思議そうにまじまじと見つめた。どうやらスプーンなどの道具を使って食事をすることがなかったのだろう。こればかりは仕方がない。
「こうやって使うんだ、ほら、口開けろ。」
シバがフォニアの料理を一すくいしてフォニアの口に運ぼうとする。
「待って、熱いの食べれないの、」
(そういえばフォニアは猫の亜人だったな、猫舌ってやつか?)
シバがいったんフーフーと冷ましてからフォニアの口に運ぶ。
「ほれ、あーん、」
「あーん、」
「どうだ、うまいか?」
「、うん、おいしいの!」
フォニアはしっぽのピンと垂直に立てていた。どうやらよほどおいしかったようだ。そしてシバをじっと見つめる。
「、、何だ?もう一回か?」
うんうんとフォニアはうなずきシバはフーフーと冷ましてからフォニアに食べさせる。待ちきれなくなったのかフォニアは自分でスプーンを持ち一心不乱に食べ始めた。シバも食事を食べようと思いひとまず肉に手を伸ばそうとするがある視線に気が付いた。
「、、お前らもなんだ?さっきから、」
視線の正体はアイとエイミーからの物だった。
「、、、シバ、私も熱くて食べられない。」
「ちょっと!さっきまで普通に食べてたじゃない、」
「、、、それは別に熱くないもの。今はこの熱いものを食べたいの。」
「そ、それなら私だって、」
「、、、シバ、エイミーが食べさせて欲しいそう。さっきから羨ましそうに眺めていた。」
「ちょ、ちょっと!何言ってんのよ!べ、別に違うからっ!アイが勝手に言っただけだから!何ならアイだって今食べさせてって言ったじゃない!」
顔を赤くしてエイミーは必死に否定したがどうやら図星のようだった。
「お前らな、フォニアは仕方ないだろ、子供だし。けどお前らは自分で食べれるだろ。」
やれやれと言うようにシバは自分の腹を満たしていく。ガクッと肩を落としアイとエイミーが自分で再び食べ始めた。
「あーあ、フォニアはいいなぁ」
「、、、やっぱり食べさせて欲しかったのね。」
「そういうあんたこそ、」
またもやこの二人によるバトルが始まった。もちろん口での言い争いだが。
「、、、私はシバがフォニアくらいの時にあーんしてあげてたから。」
「それは昔の話でしょうが、でも、そういえば、シバって昔どんな子だったの?」
「、、、可愛すぎた。」
「やっぱり?あの顔だから絶対幼少期は可愛いわよね、」
ワーワー言い争いをしていたが徐々にヒソヒソと内緒話になっていった。
「全くあいつらは、けど何だかんだ仲いいよな。」
シバが赤い辛味の効いた肉を食べているとフォニアに裾を引かれる。
「どうした?」
「、、、」
フォニアはシバが食べようとしている肉をじっと眺めている。しっぽを左右にゆっくり大きく振っている。シバが肉を左に動かすとフォニアも吸い寄せられるように肉の方に顔を向ける。右に動かすと同様に肉を凝視したまま顔を右に動かす。非常に気まずい雰囲気だったがシバはその肉を食べた。それを羨ましそうに指を銜えてみていた。
「、、フォニア、これは、お前には辛いぞ、」
「食べるの、」
「俺は知らないからな。」
そう言ってシバは赤い辛く味付けされた肉をフォニアの空になった皿によそった。うれしそうに目を輝かせながらフォニアは肉にかぶりついた。もぐもぐと頬を膨らませ肉を口に入れたフォニアであったが急に口がとまった。目には涙を浮かべている。
「言わんこっちゃない、俺は注意したからな。自分の責任だ。」
やはりフォニアにはまだ辛かったようだ。しかしぐっと涙をこらえてゆっくりと口を動かして肉を飲み込んだ。そしてちゃんと食べたよと言わんばかりに辛いのを我慢しながらぎこちなくシバに笑みを向けた。
「やっぱり辛かったんじゃないか。」
シバはフォニアの頭をなでながら水を渡した。渡された水を一気に飲んでフォニアはふーっと一息ついた。
「、、おいしかったの。」
「いや、辛かったんだろ。」
「おいしかったの!」
「わかったよ、えらいな。」
再びフォニアの頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めリラックスしたようにしっぽを大きくゆっくりと振っていた。だんだんと子供らしい一面を見せてくれるようになったフォニアに元々は活発な子供だったんだろうなと思うシバであった。
シバたちは食事を終え宿屋の出立する準備をしていた。
「やあ、少年、よく休めたかな?」
宿屋の入り口から声をかけられた。
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