第8話 忘れ癖

「なぁ、みゆ」


「なに?」


「大倉さんってどんな人なんだ?」


「私が知ってるわけないでしょ.......今日初めて話したのに」


「まぁ、そうだよなぁ」


 う~ん.......慎也が言うには俺と大倉さんは中学3年の時に少しは話すような仲ではあったらしいのだが.......やばい。大倉さんみたいなギャルっぽい人と話していたような記憶が全くない。


「和哉くんは大倉さんと同じ中学校だったんだよね?」


「慎也にも確認したけどそうらしい。それに、少しは話すような仲でもあったらしい.......」


「なんで忘れてるの?」


「俺が聞きたい」


 中学3年の最後の方では席も隣で少し話すような仲の人がいた気もするのだが、大倉という名前だったか? と聞かれると違うような気がするんだよなぁ。それに中学3年の終わり頃といえば、一人暮らしに向けて色々と忙しくしていた記憶しかないのだ。まさか引越しがあんなに大変だとは思わなかったな.......。


「私も和哉くんに聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なんだ?」


「今日ね、クラスの人と放課後に話してる時に誕生日の話になったんだけど、和哉くんの誕生日を知らないなと思って」


「あぁ、誕生日か。5月20日だぞ?」


「.......え?」


「そういうみゆの誕生日はいつなんだ?」


「私の誕生日は12月2日だけど.......」


 あぁ、なんか納得だわ。みゆって冬生まれって感じがするし。学校でも雪姫とかいう二つ名のようなものを付けられてたくらいだしな。


「和哉くん.......」


「なんだ?」


「過ぎちゃってるよね?」


「まぁ、そうだな」


「なんで.......」


「ん?」


「なんで教えてくれなかったの!?」


「!?」


 なんでって言われても.......あの時はテスト前で誕生日どころじゃなかったし.......というか、俺自身も自分の誕生日であることを忘れてたくらいだ。


「忘れてた? みたいな?」


「和哉くんの馬鹿!」


「そ、そんなに怒らなくても.......な?」


「はぁはぁ.......和哉くん! 正座!」


「は、はい!」


 やばい.......状況反射で正座しちゃった.......。けど、今のみゆの迫力だと断ることの方が難しいんじゃないだろうか?


「和哉くん。どうしてそういった大事なことを忘れてるの?」


「いや.......」


「それに大倉さんの名前だって忘れてるし」


「.......はい」


「和哉くんはその忘れ癖治してくれないと私怒るよ?」


「ごめんなさい.......」


「はぁ.......本当に気をつけてね?」


「善処します.......」


 確かにみゆの言う通り俺は忘れ癖のようなものがある。けど、善処すると言っても忘れてしまうものは仕方ない気がするのだが? 


「といことで、和哉くん。明後日ってアルバイトお休みだよね?」


「あ、あぁ」


「絶対に空けておいて!」


「は、はい!」


「もし予定なんて入れたら分かってるよね?」


「絶対に入れません!」


「よろしい」


 ほ、本気だ.......みゆの目が本気すぎる.......。明後日に予定なんて入れたら俺は何をされるのだろうか.......? 少し好奇心を煽られるが、取り返しのつかないことになることは間違いなさそうなので大人しくしていようと心に固く誓ったのだった。

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