第30話 最終日
「ねぇ、黒嶋くん.......」
「なんだ?」
「聞いてないんだけど!!!」
「そうだっけ?」
「そうだっけ? じゃないよ!」
「私は聞いてたよ?」
「それなら、私にも教えといてよ!」
どうして秋風がさっきからずっと喚いているのかと言うと、バイトが終わっても何だか秋風がしょんぼりとしていた感じだったので俺は秋風を一緒に焼肉でも行かないか? と誘ったのだ。もちろん、みゆにLINEを送って了承を得てからである。なので、みゆは秋風が来ることを知っていたが秋風にみゆがいることを俺は伝えていなかった結果が今の状況だった。
「もしかして私お邪魔?」
「いやいや! お邪魔なのはむしろ私の方ですから!」
「そんなことはないぞ?」
「黒嶋くんは黙ってて!」
怒られてしまった。なんでフォローした俺が怒られてるの? 別に俺は悪くないと思うのだが.......理不尽だ.......。
「えっと.......彼女さんはいいんですか?」
「なにが?」
「なんて言うか.......黒嶋くんは彼女がいる身でありながら私を誘ったりしてる訳じゃないですか? なんというかその.......」
「大丈夫だよ。和哉くんが一番大好きなのは私だってことを私は知ってるからね」
「惚気られた!?」
「惚気というか、みゆは事実をそのまま言っただけだぞ?」
「黒嶋くんもよくそんなことを恥ずかしげもなく言えるね!」
逆に聞きたいのだが、何が恥ずかしいのだろうか? とは思ったのだがこれは思うだけに留めておくことにする。言ったらまた怒られそうな気がするのだ。
「まぁ、ここで話しててもなんだし中に入ろうぜ?」
「そうだね」
「うぅ.......」
俺がそう言って店の中へと歩みを進めていくとみゆに続いて秋風も渋々といった感じではあるが着いてくる。店に入っちまえば秋風も文句も何も言えなくなるしな。というか、なんで文句を俺は言われていたのだろうか? 焼肉に誘った時はノリノリだったくせに。
店に入ると店員さんによってすぐに席へと案内してもらえる。まだ、夕方だからか席には余裕があるようだった。それから食べ放題コースとドリンクバーを注文する。
「久しぶり? ってことでいいんだよね?」
「確かに前に一度だけ会ったことがありますよね」
「えっ? みゆと秋風って会ったことあるの?」
「その時は和哉くんもいたよ?」
「うん。確かその時に黒嶋くんは彼女さんのことを親戚と言っていたことが彼女さんにバレてたよね」
あぁ、そう言えばそんなことをあった気がする.......なんて呑気なことを思っていると横からなにか鋭い視線を感じる.......。見なくても分かる。どうやら俺はみゆにジト目を向けられているようだ。.......墓穴だった。
「じゃあ、改めて自己紹介しておくね。和哉くんの彼女の白夢みゆです」
「秋風澪です。黒嶋くんとは同じバイト先で中学も同じでした」
「俺もした方がいいか?」
「「なんで?」」
「.......冗談です。ごめんなさい」
そんなにマジレスなんてしなくてもいいと思うのに.......。場を和らげようとした俺のちょっとしたお茶目なのに。そんな感じに俺がしょんぼりとしていると注文していたお肉や野菜などが運ばれてきたのでそれをみゆと秋風が受け取って焼き始めてくれる。どうやら俺は食べるの専門で良さそうだ。
「私、秋風さんと一度話してみたかったから今日は来てくれてありがとうね」
「いえいえ! 私の方こそ誘ってもらえて嬉しいと言いますか.......」
「.......硬っ苦しい」
「し、仕方ないでしょ! 私はこう見えても人見知りなんだよ!」
「そうだとしても、とりあえず敬語をやめろよな」
「私もそっちの方が嬉しいな」
「うぅ.......分かった。これでいい?」
「うん。あと、私のことはみゆでいいよ」
「分かったよみゆちゃん。私のことも澪でいいよ」
「うん。改めてよろしくね澪ちゃん」
うむ。中々にいい感じである。それからは二人は共通の話題。つまりは俺の話で盛り上がり始めていた。当の本人がいるにも関わらず色々と暴露するのはいかがなものかとも思ったが、俺が恥ずかしい思いをしたかいがあってかみゆと秋風は無事仲良くなれたようだ。問題は俺の居心地の悪さくらいのものだ。
それから食べ放題の終わる二時間が経過するまでみゆと秋風は二人でずっと話していた。まさかのお邪魔なのは俺でしたというオチである。俺は何をしていたかって? そりゃもちろんお肉を食べてましたとも。
「今日は楽しかったよ澪ちゃん」
「うん! 私も楽しかったよ!」
「澪ちゃんを誘ってきてくれた和哉くんには感謝しないとね」
「誘ってくれてありがとね黒嶋くん!」
「おう」
まっ、二人がこれだけ仲良くなってくれたのなら俺が一人寂しい気分になったのも悪くなかったのかもしれないな。そんなことを思いながらゴールデンウィーク最終日は終わりを告げてしまったのだった。
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