第24話 ファーストキス
「.......怒ったか?」
俺は恐る恐ると言った感じにみゆの方を見てみると、みゆは明らかに狼狽しており両手は落ち着きなくバタバタさせており、視線は一体どこを見ているのか分からないほどさまよっていた。
「あの.......みゆさん.......?」
「ちょっと待って.......落ち着くから.......」
「はい.......」
そう言うとみゆは何度も何度も深呼吸を繰り返したかと思うと、今度は両手で顔を覆ったまま黙り込んでしまった。すると、みるみるうちに両手で隠しきれていない耳が真っ赤になっていく。それから、5分ほど沈黙の時間が続いた。
「ふぅ.......。和哉くん」
「ごめんなさい」
「別に怒ってはいないよ.......。でも、びっくりした」
「ごめんなさい.......」
「もぉ。怒ってないんだから謝らないで」
「はい.......」
「どうして和哉くんはそんなにびくびくしてるの?」
「いや.......そんなことは無いと思っているんだが、みゆが嫌な気分になってたりしていないかと思って.......」
みゆが拒むなんてことは無い.......そう思っているのだがどうしても考えてしまうのだ。もしかしたら嫌だったんじゃないだろうかと。情けない話だが俺はキスなんてするのは初めてなわけでありまして.......なんか自信が無いんですよ。
「はぁ.......和哉くんのばか」
「うっ.......」
「私がそんなこと思うはずないって分かってるなら、そんなに謝らないで」
「ごめんなさい.......」
「もぉ。言ったそばから謝らないで! 確かに私もいきなりでびっくりしたけど、そんなことよりも.......嬉しかったから」
そう言ってみゆは俺に照れながらも微笑みかけてくれる。この様子だと怒っているどころか本当に嬉しいと思ってくれているようではある。とりあえずは、一安心といった感じだ。
「ありがとう?」
「ふふ。なにそれ」
「こういう時はなんて言えばいいのか分からないから.......」
「和哉くんは相変わらずお子様だね」
「.......どうせ俺はお子様ですよ」
「ふふ。拗ねないでよ」
みゆはそう言いながらも俺の頭を撫でている。うん。これ完全に子ども扱いされてるな。大変不本意ではあるがこのことに関しては俺がお子様であることはなにも間違っていないので俺はみゆにされるがままになっておくことにする。
「ちなみになんだけど和哉くん」
「なんだ?」
「和哉くんって私以外の人とキスとかしたことあるの?」
「あるわけないだろ」
「そっかぁ。それなら、和哉くんのファーストキスは私のものだね」
「そういうことだな」
「ふふ。でも、私のファーストキスも和哉くんのものだからね?」
突然ではあるが全国の男子諸君に問おう。自分のことを好きだと言ってくれる美少女にこんなことを言われて悶絶しないやつはいると思うか? 俺は否だと思う。このみゆの小悪魔めいた微笑みに合わさって俺の内心はもう大変なことになってしまっている。そんな俺の内心を知ってから知らずかみゆは気にせず俺に話しかけてくる。
「でもまさか、伊織ちゃんの書いたデタラメな校内新聞を本当のことにしちゃうなんてね」
「その点に関してだけ言えば武宮さんに感謝しないといけないかもしれないな」
「?」
「いやだって、今回のこのお詫びデートは全部あの校内新聞を元に考えたからな」
「なるほどね。それなら確かに伊織ちゃんには感謝しないとねって.......あっ、」
先程まですごく機嫌が良さそうだったみゆが一転して顔が真っ青になっていく。まるで、大切な何かを忘れていたとかのような。一体どうしたのだろうか?
「どうした? 大丈夫か?」
「.......忘れてた」
「なにを?」
「和哉くんとお揃いの何かを水族館で買うって約束してたのに.......」
まさか、そんなことでここまで大袈裟な反応をするなんてな.......。もう見る人が見たら明日地球が終わるんじゃないかっていうくらいの落ち込みようである。
「ふっ。あはははははは」
「.......人が落ち込んでるのを見て笑うなんて.......和哉くんのばか」
「ほれ」
「.......なにこれ?」
「あけてみろよ」
俺がそう言うとみゆは俺の手渡した小さな紙袋を開封する。その中にはイルカとリングのついたキーホールダーが入っている。
「!?」
「そんなに高いものじゃないけどな」
「これって.......」
「ほれ。お揃いだな」
そう言って俺はみゆの持っているキーホールダーとリングの部分だけが色違いのキーホールダーを見せる。ちなみにリングの色は俺が青でみゆがピンクだ。
これは、イルカショーを見ている間にトイレに行くふりをして買ったものだ。あの様子だとみゆは約束について忘れてしまっている気がしたので予め買っておいたのだ。イルカにしたのは、単純にみゆがイルカがすごく気に入っていたようだったからである。
「和哉くん.......」
「ん?」
「ありがとう!」
「うおっ!?」
そう言ってみゆは俺に飛びついてきた。そのまま俺の胸に額を擦りつけてくる。みゆがここまで俺に甘えてくるなんて初めてなことでは無いだろうか? そして俺はどうしたらいいのだろうか? どうすればいいのかは分からないけど無性にみゆの頭を撫でたくなったのでとりあえず撫でておくことにする。
しばらくすると、みゆは俺に抱きついたまま顔を上げてこちらを見つめてくる。
「大好きだよ和哉くん。私、和哉くんの恋人になれて本当に良かった」
「俺もだよ」
そう言って俺とみゆはもう一度キスをしたのだった。
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