第3章

第1話 クラス替え

「.......終わった」


「「.............」」


 現在進行形で絶望そのものを体現しているような慎也に対して俺とみゆは声を掛けることが出来なかった。それもそのはずで言うなれば俺とみゆは勝ち組であり慎也は負け組と言った構図になってしまっているのだ。まぁ、要するに俺達は今、クラス発表の掲示板の前に立っている。これを言ってしまえば多くの人が事態を察することだろう。結論を言おう。俺とみゆは無事に同じクラスになることが出来たが慎也だけは他のクラスとなってしまったのだ。


「クソ.......これがリア充とそうでない者の差か.......」


「いや、それは関係ないだろ」


「なぁ、和哉.......この世界は残酷だなぁ.......」


「そんな大袈裟な.......」


 クラス替え1つでここまで絶望しきってしまうやつがいるだろうか? 確かに俺としても残念ではあるが、別に教室が違うだけで学年も学校も同じなんだから別に会えなくなるどころか会おうと思えば苦労せずに毎日会えるだろうし、


「そんなに落ち込むな。昼休みになったら一緒に昼飯食おうな?」


「.......本当か?」


「本当だ」


「.......毎日?」


「まぁ、予定がなければな」


「やっぱりお前は俺の親友だァァァァ!!!」


 そう言って慎也は俺に飛びついてくる。そんな慎也の叫びに周りも何事かと注目してくる。そしてそこにあるのは、男に抱きつかれる男。うん、今すぐ離れろ。


「おい、離れろ!」


「なんでだよぉ!!」


「なんでって周りの目がだな!」


「関係ねぇよ! 俺達2人の間に他人が入る余地なんかねぇんだからよぉ!!」


「お前何気持ちの悪いこと口走ってやがる!」


 俺が必死に慎也を引き剥がそうとするも慎也も思いっきり抱きついてきているのでなかなか振り払うことが出来ない。やばい、このままだと俺達の周りに赤い薔薇が咲き誇りかねない.......そんな赤い薔薇を求めてお腐りになられた方々が来れたりたりなんてしてしまったたら.......一刻も早くこの場を何とかしなくては! そう思いつつもなかなか慎也を引き剥がすことが出来ないと四苦八苦していると、


「.......加賀くん」


「なんだ? 俺は今は和哉とって、ひっ!?」


 さっきまで黙って俺達の様子を見守っていたみゆが声を発したと思ったら.......気の所為だろうか? みゆの背後に阿修羅像が見えるような.......


「早く離れよ? ねっ?」


「は、は、は、はい!」


 そう言って慎也は勢いよく俺から離れる。ふぅ.......ようやく離れてくれたって.......


「あの、みゆさん? どうして俺の腕に抱きついてらっしゃるのでしょうか?」


「.......」


 これはこれで周りから注目を集めてしまっていて非常に困るのですが.......男子達からは嫉妬と憎悪の視線が、女子達はキャーキャーと盛り上がってらっしゃる.......。


「加賀くん」


「は、はい!」


「和哉くんは私のだから。私達の間には入り込む余地はないけど、加賀くんと和哉くんの間には入り込む余地どころが余地しかないんだからね?」


「はい! すいませんでしたぁぁぁ!!!」


 そう言って慎也はみゆにそれはそれは見事な土下座をしていた。というか、みゆが怖いと思ったら慎也のあの一言に怒っていたのか.......。


「分かってくれたならいいよ」


「ありがとうございます!!」


「それじゃ行こ?」


 そう言ってみゆは俺の腕に抱きついたまま俺を引っ張ていくように校舎の中へと入って行くのだった。その間、周りから様々な視線をぶつけられたということは語るまでもないことであろう。

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