二十一巻

第203話

 つまり伊織はチラッと見た、ほんの一瞬見た妹を見初めた


「……ゆえに今宵三夜餅を食うて……餅の準備は、してくれておるだろうな?」


 伊織が真剣に聞くから


「それは……我が屋敷の女共は大騒ぎでして……それこそ通い続けて頂けるなど、半信半疑ではありますが、そんな気持ちを吹き飛ばす様にを入れております」


 朱明は女達は、盛り上げる様にしている様子を語った。


「ちょっと待て……半信半疑とはどういう事だ?」


 伊織がそれは怪訝……不愉快そうに聞く。


「とても高貴な貴方様が、あやかしの屋敷のむすめに、真剣に三日通ってくださるとは……」


「いやいや!私は実に真剣です。暫くしたら妻として、我が屋敷に引き取るつもりでおります」


「ええ???」


 伊織が吃驚する程の大声で、朱明が驚いた。


「ちょ……ちょっとお待ちくださいませ……我が一族とは、余りに身分が違い過ぎます」


「はぁ?私とて凋落した一族の末裔だ。確かに私とそなたとでは、は身分に大差はあれど、この先は解らぬ……大差はなくなるやもしれぬ……」


 大真面目に伊織が言うものだから朱明は、またまた……と目一杯謙遜する。だって一体これから、自分がどうやって出世できるというのか、想像もつきはしない。


「それに貴方様程のご身分のお方ならば……それは良家の姫君様とのご縁がおありかと……」


 朱明が言うと、伊織は真剣な表情のまま顔容を少し歪めた。


「……それは言われるが通り……今上帝の御気性ならば、むすめを差し出して、覚えめでたきに致す術は無い。ゆえに私との縁を結びたがる……だが今も申した通り、私は凋落の憂き目に遭うた一族だ。その様な縁の儚さを嫌という程知っておる。私とて母が主上の乳母となり、私が乳母子で主上であるがゆえの今の立場だ……あのお方でなくば私のは無い。ゆえに私は、主上に私の全てをお捧げする」

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