第157話

「大高下駄天狗?……天狗山の天狗か?」


「……さようで……私が持っておりますは、もはや解放されておる、と申されておいでにございましたが、特別力がみなぎるわけでもなく、身が軽くなるわけでもなく……」


 朱明は、はぁ〜と溜め息を吐いて言った。


「……なるほどのぉ……だが確かにそなたは変わったぞ……多少だが頼もしくなったゆえ安心致せ……」


「はぁ……」


 またまた朱明は嘆息を吐いた。

 皇后様……瑞獣様を思うと気が焦る。

 皇后様を失われた今上帝様を思うと、気だけが急く。

 青龍を思うと、只々我が身が情け無い。


 孤銀が折敷おしきに、炙り物と盃を乗せてやって来た。

 うやうやしく、金鱗に差し出した。


「まっ……二人とも座れ」


 そう言うと、盃に瓶子の酒を注ぎ込む。


「これは我が一族に伝わる秘伝の酒だ……気の利く我が妻が毎年こさえておるのだが、今年のは特別良くできた……ゆえに酒の仕込みには定評の孤族ではあるが、我が一族の酒を振る舞いたくてな……」


 金鱗は酒に弱い朱明など後回しにして、孤銀に盃を渡して言った。


「美味い!」


 孤族の酒は、かの大神様すら楽しみとされる代物だ。そのに負けず劣らずの出来栄えに、孤銀は目を見開いて言った。


「……であろう?ささ……飲め飲め……」


 金鱗は孤銀にがんがん進めて、気づいた様に置いてきぼり感の朱明にも盃を渡した。


「……えっ?美味い!」


 朱明が顔を明るくして言った。


「……であろう?」


 気を好くした金鱗は、朱明にも進める。

 美味い酒は口当たりも良い。弱い朱明が考えもなく飲むから、アッと言う間に赤ら顔になって目が据わってしまった。


「金鱗様私は、真実まこと解放されたのでございましょうか?」


 先程から同じ事を繰り返す。


「ああ……たぶんな……」


 面倒になった金鱗は、それは適当に同じ事を言ってあしらっている。


「クッ……ならば青龍も、眠らせられましょうか?」


 朱明は笑って金鱗に言った。

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