第140話

 カッコいい……。

 見た目も話した感じも、朱明の理想とはかけ離れ過ぎているが、今の消え方はあり得ない程にカッコ良かった……。

 、天狗はやっぱカッコいい……。

 またまた朱明は、不敬極まり無い事を思いながら賛美している。


神座かみくら様……いや、陰陽助おんようのすけ様でございましたな?あなた様は法皇様の、ご最後をご存知なのですか?」


 すっかり明けて、朝陽の差し込む鬱蒼とした森林を歩くが、仮令鬱蒼としているといえ、木々の間から差し込む陽の光は暖かく明るい。


「……いえ、私は存じません。主上様の側近の、伊織様がご存知かと存じ上げますが、その伊織様とて貝耀様を逃す為、かのお方御両人からはお離れでございました……」


「……さようにございますか?……それでも法皇様は貝耀がいようを逃そうとなされ、貝耀は法皇様の御為に青龍の眼前に……」


 高僧はそう呟くと、何やら小声で唱えている。


「……だがお前は未だに、兄者を怨んでおるのであろう?」


 兄弟子は朱明に、冷たい視線を送って言い捨てた。


「……ああ怨めしい……純真無垢なる皇后様を、害する手助けをしたのだ……未だに皇后様は行き方知れず……主上様の元にお戻りでは無い……怨んでも怨みきれない……」


 朱明がそう言うと、兄弟子は形相を変えて見据えた。


「……だが、全ては法皇様がなされた事だ。貝耀様はお慕いする御兄君様の願いを聞いたまで……ただそれだけだそうだ……ゆえに、私は依頼主からはその命を取り下げらした……」


「法皇様が……何故なにゆえ貝耀に?」


 高僧が朱明を見つめる。その目は少し潤んで見えた。


「貝耀様の特殊なるを使い、その力に法皇様の怨念を込め呪経を強力なものとし、皇后様に当てたのです……最強なるお力をお持ちの皇后様とて、とても敵わぬ程の怨念でございます」


「……それ程の念を、法皇様はお持ちであられたのか?」


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