第123話

 銀色の妖狐の孤銀は、普通は青い色眼をしている。

 大きな褐色がちの黒目の周りが青いのだが、怒りが生ずると真っ赤に変化する。それ以上になると、青い処も赤くなり目全体が赤くなるというが、朱明はまだ黒目が赤くなった処しか見た事がない。

 たぶんまで見れる人間は、存在しないのではないかと、朱明はただ漠然と思っている。思っているが、朱明は自分が思う以上にいるから、それは真実ほんとうだろう。


「……しかし私は五尾となって、再び貴方様に仕える事がかないました……その理由……又はいわれは聞いてはおりませぬ。……あのお方の忘れ形見の貴方様を、お護り致すが我が使命と信じて、疑った事などないのです……」


 孤銀がその青く綺麗な瞳を向けるから、それは神妙な表情で向けるから、だから朱明はその瞳を見入って頷いた。


「……うん。俺も疑った事ないよ」


 すると孤銀は、予期しなかった朱明の言葉だったのだろう、少し瞳を開いて朱明を凝視した。


「……孤銀が俺を護ってくれる事……初めてあやかしに陥れられそうになった時、根付けから姿を現して助けてくれた時から、その時から疑った事なんてない。お前が全身全霊をかけて、俺を護ってくれるって……命を賭けても護ってくれるって……知っている……」


 孤銀はそういう朱明を、それは複雑な表情を作って見つめた。

 少し悲しげで少し辛そうで……そして安堵と喜びが入り混じる複雑な表情……。だから朱明は、何度も何度も父の書き遺した物を読み返す。

 孤銀への父の気持ちが知りたくて……違う!そんなのは知れているから、だから最後の最後のの気持ちを知りたい。

 これ程迄に忠実に仕える孤銀に、なぜ何も語らなかった……なぜ、こんなに淋しそうな表情を作らせる?

 朱明はそれは尊敬する父だが、孤銀にこんな思いをさせる事が許せない。

 それはたぶん、もはや孤銀は父の護りでは無く、朱明の護りだから許せないのだ……という事を、未だ朱明は理解できていない。

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