第97話
「伊織様……」
朱明が五尾の狐から身を下ろすと、狐はコロンと銀色の根付と化した。
「……遅かったな……主上の御希望の物は、ほれ此処に在る」
伊織が言った瞬間、朱明が初めて見せる敵意を向けて、懐から小刀を取り出した。そして
「朱明よ。私の依頼は反故だ!!」
そうきつく言いながらも、伊織は根付と化した孤銀を見入る。
「……申し訳ございませぬ……出遅れました……」
「……と、申しても、此処に居ったのであるから致し方ない……」
尚も動かない根付を、ガン見している。
その間も朱明は、切っ先を向けて貝耀に詰めて行く。
「
伊織は朱明の腕を掴んで言うが、尚も孤銀の根付けをガン見している。
それを悟った朱明が、貝耀への詰め寄りを止め、慌てる様に根付けを拾って、懐に仕舞おうとすると
「何をこそこそと、致しておる五尾の妖狐よ」
とそれは大きな影を、傾きかけた陽に落として大鬼丸が言った。
「えっ?」
一瞬にして、伊織と貝輝が固まった。
「お、鬼か……」
何か凄い物を、持っている貝輝が身構える。
「伊織様、羅城門に居ります、大鬼丸様にございます」
朱明が貝耀に敵意を向けたまま、伊織など見もせずに言った。
「大鬼丸?羅城門?」
「はぁ?あの羅城門の人食いのか?」
今度は貝輝が、態勢を構え様とした。
といっても貝耀は朱明に睨め付けられ、完全に敵わぬ相手とは思えないが、一応小刀の切っ先を向けられている。その貝耀が身構えて大鬼丸に臨戦態勢を取っている。
実に不思議な状況だが、そんな事は構いなしで伊織は、尚も朱明の掌中の根付けに釘付けだ。
こんな状況化であるが、何といっても異界世界の悪の代表的存在の、大鬼丸は意外と最強だ、貝耀などが勝てる相手ではない。
「……と言うても、今は朱明に願い事を致しておる身ゆえ、乱暴は致さぬ」
とか言って笑うが、その顔が当然だが怖い。
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