第85話

「実にそなたは、面白みの無い者よのぉ?何故ゆえにその様な者を、青龍は選ばれたのか?実に残念でならぬ」


 今上帝が呆気に取られて御いでの間に、法皇が顔容を崩された。


「私はずっと、龍を抱いておると信じておったのだ。我が父君様がそう御言いで、私は高御座たかみくらに坐したのだからな……しかしながら、愛しい愛しい純子が、そなたを身籠ってから私は、自身でそれが誤りであった事を知った。そなたは宿したその瞬間から、その猛々しく恐ろしげなを、純子の腹から漂わせておった……そして私を魅了したのだ。どんなに否定しても、どんなに恐れいとうてもそなたは私を魅了した……魅了して魅了して私を狂わせたのだ。如何にして青龍は私に抱かれずに、そなたを選んだのだ?そなたと私の違いは何だ?そなたも私も同じ天孫の血を継ぎ、同じ系統の一族の血を流しておる……なのに何故そなたなのだ?……そこで私は気づいたのだ、青龍が好んだはそなたではなく、母の純子ではないか?とな……。我が母は血筋は卑しからず、それは貴き純子と同じ一族のものであったが、いかんせん徳が違い過ぎた。純子は美しく優しく慎ましく、そして何より神仏を尊び慈悲に満ちていた。だが純子の父は、そんな清らかな純子が脆弱な身であったが為、入内できぬ躰であったにも関わらず、権力の為に私に差し出した様なヤツであった。それでも純子は、私と少しでも長く側に居たいが為に、子ができぬ薬を飲んでおった。私はそれでもよかったのだ。純子さえ居てくれればよかったのだ、皇子など他の女に授ければよい事だ。純子の一族の身の立つ様にしてやれる相手を、入内させればよい……そう兄の右大臣とも話しておった……にも関わらずあれの父は、純子に子をできやすくする薬と、避妊薬を差し替えさせたのだ、そしてそなたが純子の腹に宿った……そうだ、そなたははなから親に望まれぬ子よ」

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