七巻
第69話
翌朝早く朱明は休暇届けを出して、天狗山へと牛車を向かわせた。
昨夜大鬼丸の前で、情けなくも我が身の不甲斐なさに恥じ入ってから、朱明は羅城門を後にした牛車の中から気落ちしていた。
孤銀が牛の上で気絶していた、
その微かに俯く横顔が余りに力無く儚くて、孤銀はどの様に言葉をかけてよいか解らない程であった。
朱明の父はかつて、正二位の位までのし上がった血筋には珍しく、それはもう一つの有名陰陽師の家系ですら、最近は誕生しない程のものを持っていた。
かの有名陰陽師が学生の頃、百鬼夜行と遭遇した話しは有名で、機転を利かせて師匠を護ったというが、もはや百鬼夜行すら存在しないと思われた時代に、稀有なる事に珍しく遭遇した人物だ。
そしてその妖達がその額に光る痣を見て、恐れ
そしてその人物のものを疑わずに、仕える事を決めた。
尾は三本であったが彼の短い生涯を共とし、自分の放った呪術で我が身を葬り去ったかの人を庇って共に散って、その息子の朱明に
最後にかの人を抱き盾となったが、かの人の呪術は孤銀を貫きかの人を貫いた。その時真のかの人の力を、身をもって知った孤銀であったからこそ、かの人の力の凄さを知っている。
そして彼の血を濃く継ぐ朱明の力が、決して恥じ入る物ではない事も知っているし、だから大鬼丸は朱明を見逃し、そして今回頼って来たのだ。
童子の頃からの異様な物達との付き合いが、朱明を何故か気弱な者としてしまった。心根の優し過ぎる朱明には、確かに異様な物達との付き合いは酷なものだった。
素直過ぎるその性根は、異界の物達の悪に満ちた優しさに、騙されやすいからだ。
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