第66話

 つまり青龍を相手として、今上帝を亡き者とする事ができない事は、誰よりも知っているという事だ。

 陰陽頭おんようのかみが伊織に言った様に、できるのはただ、我が身を犠牲にする事だけだ。


「その他国の呪術使いを、教えてくださいませぬか?」


「ほれ?あそこの天狗の山よ」


「天狗山?霊山の?」


 霊験新たかなる霊山とか名を馳せ、修験宗や名だたる名僧が籠る山だ。


「霊山?そなた達の霊山やもしれぬが、我らの神山とは異なる山だ」


 大鬼丸が、またまた奇怪な事を口走る。


「朱明よ。そなたは全く、実力以外もまだまだだなぁ……その持って生まれし物を、もう少し使ってはどうだ?ちまちまと、文書などばかり暗記しておるから、真実ほんとうの所が解っておらぬ。実に惜しい……」


 大鬼丸が、両腕まで組んでしみじみと言ったので、なんだか朱明は、申し訳ない気持ちにならないでもない。


「よいか?そなたは実に良いものを持っておる、ゆえに孤銀がお側に仕えておるのだぞ?」


……えっ?孤銀って代々我が一族の嫡男が、仕えさせられるものでは?……


 とか内心思っていると


「孤銀が姿を現したは、そなたと先代のそなたの父のみであろう?」


 大鬼丸が孤銀を見て言ったからか、孤銀はそれは神妙な表情で頷いた。


「えっ?……それって、とか魑魅魍魎ちみもうりょうが、こうして姿を現し始めたからでは?」


「はっ?何を……孤銀を仕えさすには、それなりのが必要よ……よいか?曲がりなりにも孤銀は、大神に仕えし眷属神の一部だぞ……神の一部だ神の……つまり孤銀は神ともいえる」


……ええ??神?孤銀がぁ?……


 朱明は、初めてそんな事を聞いて吃驚だ。

 瑞獣様ですら尊いのに、ずっとかしずいてくれていて、当たり前だと思っていた孤銀が?……っていうか大鬼丸といい、今夜は神様の大安売りの様だ。不思議なもの達は、皆んな神となる理屈かい?

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