第22話

「朱明様金鱗様これを……」


 金鱗きんりんが焦げ跡が生々しい、対屋たいのやの中を見て歩いていると、ひさしの隅に折られた矢を数本見つけた孤銀が、を持って二人に見せた。


「襲ったは人間か……」


 そう金鱗が言った瞬間に、朱明は庭に目を向けて駆け出した。

 庭の地面に微かに、護符の切れ端が残っている。それは月の光に照らされて、キラキラと輝いて見えた。

 ……確かに、月読つくよみ様のお慈悲だ。地面には微かにしか残っていないから、月に照らされて光らなければ、きっと見つけることができない代物だ。そしてその月光が、月読様の恩情で特殊なのだ。


「これは?」


「……何たる?高々のこんな下衆なる呪法で、かのお妃のお子がやられるとは……」


 金鱗は口惜さに、唇を震わせて嘆いた。


「……そなたには解るまい?これは邪道なる物で、正当な血筋の者が知っていようはずの無い物だ……」


「その様な物で?」


 「おうさ。その様な高々の物で、碧雅は気配を消した。それ程に子産みは、大業であるという事よ。ゆえに女は神とも崇められし者であるのだ……」


 金鱗は、その光り輝く護符の切れ端に手を置いた。そして渋面を作って天を仰いだ。


「誰でもよい、瑞獣の妃の子を知らぬか?雷神風神月読様のお力をお貸しくだされませ」


 天を仰ぎながら、両手を広げて宵の中に問いかける。

 その悲痛なる叫びが、深閑とした屋敷に響いたが、誰も姿を現わす様子は見受けられない。

 まるで廃屋に佇む感じに、朱明は背筋に一筋の冷たい汗を流した。

 

……不思議な世界のもの達の、不思議な世界に紛れ込んで居るのだろうか?それとも、今現在この現世その物が、不思議世界と化しているのだろうか?……


 するとカタカタと音を立てて、石が動き木々がなびいた。

 そして微かな風が吹いて、舞い上がった碧く翠の羽根を運んで来た。


「これは……らんの羽根ではないか?碧雅は力を使い果たし、鸞に姿を変えたのか……」


 金鱗はなみだを溜めて、碧く翠の羽根を手に取った。

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