第37話

の気は無い……」


 伊織がふらつく体を上げようとして、再びうずくまった。


「……羽根を……御遺し……で……?」


伊織は金鱗を、ジッと見つめて言った。


「ああ……もしも今上帝が目覚めたら、それを渡してやれ」


「御目覚め頂けましょうや?」


 伊織が力無く、仰ぎ見て聞いた。


「青龍がるのだ、目覚めぬわけがない。だがかつてのと思わぬ事だ……抑えの碧雅が側を去り、その子等が側に居なくば抑えは効かぬ」


「……御子様が御側に居られぬ?」


 伊織の顔色が瞬時に変わる。


「……大事ない。私の臣下が、妻の元に連れて参った……だがしかし、御子達のも無くば抑えはきかぬぞ」


「抑え?御子様方でも、抑えが効くのでございますか?……我が母は皇后様より、主上の側に居らば御子様方は護られると言い付けられ、見窄みすぼらしい牛車にて宮中に逃げて参りました」


「……つまりやはり人間が成した事か?……今上帝の力を維持さすには、が居らねば、御子が一番だからな、青龍は御子方を護るだろう。だがそれよりも、力は小さいながらも、瑞獣の血を流す御子達は、青龍を抑える事は適わずとも、その大きな力を少しでも弱める事は可能だ……それゆえに側に置いておくは、両方の効果があるという事だ」


「しかしながら、瑞獣様がそこまでお考えとは思えませぬ。なぜなら主上様の御状況を、理解しておいでてあったかどうか?……と言いますより、御子様方は如何しておいでで?」


 朱明が慌てる。


「……気の利いた蔵人に、託したが誤りでございましたか……」


同時に伊織が、唇を噛んで苦しげに言った。


「おおよ。が御子を、短刀で刺し殺そうとしたが、他の蔵人達が気が付いて押さえようとした。だが、裏切り者達にヤラれた。間一髪の処で我が妻が放った間者が、御子二人を我が宮殿に連れて参った」


「き、宮殿にございますか?池の底の?」


 朱明が再び大慌てする。




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