第83話 勧誘


「ギャングの頭って、こんなイカれた格好なの!?」


「見てくれで人を判断すると痛い目に遭うぞ」


 女性はそう言ったが、クレアを含めた面々が驚くのも無理はなかった。

 背はエルと同じくらい。黄色と黒の縞模様のショートヘアーで、左側頭部を刈り上げている。尾も髪と同じ縞模様で、耳は黄色。瞳は黄色で、黒点が縦に細い。

 服は黒のタンクトップの上から羽織った縞模様のシャツと、だぼだぼの淡い緑色のズボン。両耳の大きな円形のピアスを含め、金銀のアクセサリーを大量に身に着け、底が異様に分厚いサンダルを履いている。

 こんな格好を奇抜と呼ばずに何と呼ぶか。リヴィオと名乗る彼女の部下も、よくよく見てみれば刺青を含め、派手めな格好をしている。

 そんな彼女は、イカれたと称したクレアをじろりと睨んだ。


「わしの子分はこの街の至る所におる。どこの影で、暗がりでわしの悪口を言っても直ぐに耳に入る。街のもんなら小突くくらいで済むが、余所者はどうなるか、分かるな?」


 盾に細い黒点から放たれる威圧感に、クレアは思わず、大袈裟なくらい頷いた。


「で、俺を襲って、勝手にテストした理由は何だよ?」


 ハーミスが問うと、リヴィオは彼に向き直り腰に手を当てて告げた。


「うむ、単刀直入に言うと、お主を『ティターン』にスカウトしに来たんじゃ」


 思わず、彼は目を丸くした。

 ハーミスの命を狙っただとか、聖伐隊を倒した実力を確かめる為だとかなら納得できた。しかし、まさかギャングにスカウトされるとは。


「スカウトって……ギャングのか!?」


「勿論、お主一人とは言わん。仲間もちゃんと一員として迎え入れる」


「そういう問題ではありません。ハーミスが、ましてや我々が、暴力団――犯罪組織への勧誘を受け入れると思っているのですか」


 スカウトされる立場となったエルが反論すると、リヴィオは呆れた調子で答える。


「犯罪組織って、お前さん、何か勘違いしとらんか? わしらは何も強請り集り、ヤクや金属の密売で稼いでるわけじゃあない。ここでの仕事は治安維持じゃ」


「なら、どうして自警団とかって名乗らないんだよ」


「昔からのしきたりのようなもんでな。とにかく、聞きたいことがあればわしらの本拠地でしっかりと答えてやるから、まずはそこまで一緒に――」


 リヴィオが半ば乱暴に、ハーミスの手を掴もうとしたが、そうはいかなかった。


「待ちたまえ、野蛮な虎め。僕抜きで話を勧めようとしてくれるな」


 またもや喫茶店の入り口から、今度は少年の声が、リヴィオを制したからだ。

 獣人街に来て間もないハーミス達は全く知らない声だったが、リヴィオはすっかり知っているようだった。しかも、かなり嫌いな相手が来たようで、親の仇を睨むかのように、振り向いて、入り口を凝視した。


「……ニコ、クソガキが……!」


 そこにいたのは、やはりガラの悪い連中と、クレアより背の低い少年だった。

 髪型は灰色のセミロングだが、もみあげは鎖骨に届くくらい長い。瞳は女の子のように大きく、色は髪と同じ灰色。真っ白なシャツと黒いズボンをきっちりと着こなし、真っ青なネクタイを締めている。両手には黒の皮手袋を嵌めている。

 靴は汚れが一つもない革靴で、尾と耳も灰色。銀縁の四角い眼鏡をかけている。リヴィオと違い、部下もボスらしい少年と同様に、青いネクタイを締めていた。


「あなたもギャングさん?」


 ルビーが少年に声をかけると、少年が頷いた。


「そうだ、自己紹介が遅れたな。僕はニコ。この獣人街の治安を守るギャング、『オリンポス』のボスを務めている。君がハーミスだね、よろしく頼むよ」


「ギャングの頭って、こんなちっこい子供が!?」


「というより、ギャングって二組もいたのかよ」


 どう見てもクレアより年下の子がまさかボスとは、と彼女は驚いた。

 ニコと名乗る少年はというと、つかつかと歩きながら、知的さを醸し出す態度で、静かに二人分の問いに答える。


「先ず一つ、見てくれで人を判断すると後悔するよ、お嬢さん。次に、君は知らなかったようだね。この街に『オリンポス』と『ティターン』、二つのギャングが存在すると」


 二つのギャングの存在で、ハーミスの中にある一つの謎が解けた。

 初めて獣人街に来た時、モルディ達はギャング同士での争いが起きていると言っていた。彼女達はどうして抗争が起きているかとは聞けずじまいだったが、ギャングが二組もいれば、成程、争いも起きるだろう。


「……モルディ達の言葉の意味が分かったぜ。そりゃあ、喧嘩も起きるわけだ」


「君の言う通りだ。嘆かわしいことだが、今、この街ではギャングが争っている。我々のように平穏を望む『オリンポス』と、己の利益のみを考える『ティターン』でね」


「何を、くだらん嘘を!」


「黙っていろ、雌虎。それでハーミス、僕も君の実力を見込んで、是非頼みたい」


 怒鳴り散らすリヴィオをどかし、ニコはハーミスの前に立ち、優しい声色で頼んだ。


「君の仲間の、『オリンポス』への参加を。共に『ティターン』と頭のリヴィオを討ち、獣人街に真の平和を取り戻す為に協力してほしいんだ」

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