第48話 拳銃


「なんだ、なんだその武器はァ!」


「教えてやる義理はねえよ!」


 最初に攻撃したのは、ハーミスだった。

 近くの崩れた家屋に走りながら、銃口をバントに向けて、拳銃の引き金を引いた。

 魔法とは銘打っているが、効果があるのはさっきの戦いで実証済みだ。紫の弾丸が放たれ、バントに向かって吸い込まれてゆく。彼も直撃は危険だと、先程の戦いで理解しているのか、両手を翳して青色の、半透明の四角い盾を発現させた。


「この……『魔法障壁』マジックディフェンス!」


 弾丸はやはり、障壁を超えられなかった。火力の足らなさを実感しながら、崩れた壁の傍に滑り込んだハーミスに、バントが吼える。


「さっきの攻撃と原理は同じようだな、だったら僕の敵じゃない! 『大火炎弾』バーニングボールッ!」


 そして、盾を消し去ったバントは彼目掛けて、巨大な火の塊を投げつけた。

 どこからともなく、自然現象やそれに近しい事象を発生させる、それが魔法だ。その魔法のエキスパートであるバントにとって、火の塊を発生させるなど造作もない。

 壁に向かって放たれた火は、壁に激突し、爆発を齎した。


「う熱っちィ! やってくれるじゃねえか、この野郎!」


 壁が崩れると悟ったハーミスはそこから飛び出すと、拳銃を更に乱射する。バントの青い盾で防がれたのを見た彼は、銀髪をたなびかせながら、今度は拳銃を一丁ズボンとベルトの間に挟み、背中の散弾銃を片手で構えた。

 引き金を引かれた銃は、大量の弾丸を同時に放った。ハーミスが腕の痺れを感じるのと同様に、バントの障壁は散弾銃の威力を相殺しきれず、盾が砕け、彼は仰け反った。

 再び拳銃を構えたハーミスに、バントは火の玉を投げつける。土塗れ、黒墨塗れになりながら、彼は露店の武具屋に飛び込んで、顔を覗かせた。


「どんな力を使ったのか知らないが、君のやっていることはローラの二番煎じだよ! 人間ではなく魔物を救っているだけ、しかもここで失敗に終わるだけのね!」


「俺は救世主になんざなるつもりは毛頭ねえよ! 俺の目的はただ一つ、てめぇら全員、地獄よりもキツイところに叩き落としてやることだけだ!」


「無能がごちゃごちゃと……『大瀑布』ウォーターバーン! 『崩落土流』グランドウェイブ!」


 次に襲ってきたのは、これまた無から発生した水流と、土石流。ハーミスが走ってかわすと、露店が呑み込まれ、完全に破壊された。


「無能無能って、馬鹿の一つ覚えみてえに!」


 散弾銃をもう一度放つ。飛散する紫の弾丸を防いだ障壁が、またも破壊される。

 明らかに実力は拮抗している。三度向かい合うハーミスとしては上々の切り出しで、ここからまだまだ戦うつもりだったが、バントとしては気に入らないようだ。


「フン、この僕と拮抗するなんて気に喰わないな……なら!」


 次にバントが掌を向けたのは、ハーミスではなかった。

 グランドウォーカーの隣で倒れ込んでいる、シャスティだった。動けない彼女を人質にしたバントは、ハーミスにこれ以上ないくらい汚い笑顔で告げた。


「ハーミス、決闘は十分楽しめたよ。あとは僕が蹂躙するだけだ。武器を下さないと、あのエルフを僕の魔法で焼き殺してやる」


「へえ、負けるのが怖いのか? 俺相手に?」


「最後に生き残ってるのが勝者なんだよ。君との決闘なんて単なる戯れに過ぎない、僕がが相手してやっただけ感謝するんだね」


 何を言い訳しようとも、バントの行動原理は見え透いている。

 彼は、自分が弱いと、誰かに従っていると認めたくない。ユーゴーを認めてもいないし、ローラも認めていない。小さな世界で、自分が王になりたいだけの小心者。

 だから、ハーミスはバントに、大きな現実をぶつけてやることにした。


「やっぱり、怖いんじゃねえか。反抗されるのが怖いから全部奪い取って、自分が弱いってばれるのが怖いから従属させるんだ。だったらはっきり言っといてやるよ、てめぇは『選ばれし者達』の中で一番弱ええし、いつまで経っても金魚の糞だよ!」


「黙れ、黙れ黙れ黙れえええぇぇ!」


 真っ当なハーミスの言葉は、バントを狂ったように叫ばせるには十分過ぎた。


「立場が分かってないみたいだな、これからあのエルフを、それからお前を殺してやる! 死んだら僕の玩具と一緒に飾ってやるよ、負け犬野郎! お前には相応しい末路だろ!?」


 燃え盛る炎。横転する機械。倒れたエルフ。これしかいないと、バントは思った。


「さよならだ、ハアアミスウゥゥッ!」


 だからこそ、掌に炎を溜めるより先に、気づくべきだったのだ。


「――注意力散漫。てめぇの敗因だ」


「――え?」


 ハーミスの一言と同時に、バントの掌に、鈍い痛みが走った。

 何があったのかと、彼はゆっくりと自分の掌を見た。彼の掌には、小さく消える炎。

 そして、掌を貫通した、漆黒の矢。


「あ、ぼ、僕の、僕の手があああぁぁぁッ!?」


 矢が突き刺さっていると理解した瞬間、バントは掌から血を噴き出しながら絶叫した。痛みに悶え苦しむ彼を狙い撃ったのは、ハーミスでも、シャスティでもない。


「……玩具ではありません」


 同胞の武器を借り、弓を構えたベルフィだった。

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