Rock 2 The Girl meets an angry girl

R2-1 音楽のある生活

 魔法少女として、初めての戦いを終えた三日月 ろっこ。レティにお祝いの晩御飯をご馳走してもらった後、彼女は帰宅した。

 帰宅したろっこを見て、母親は驚愕し、激怒した。傷だらけで帰ってくる事は日常茶飯事だが、彼女がギターを持っていたからだ。

 しかし、それを危惧してレティが一緒についてきてくれたのだ。ギターを「買い与えた」とは言わずに、「あげた」とだけ告げ、そしてお詫びの言葉と共に、高級洋菓子を渡したのだ。それを受け取ったろっこの母親はすっかり気を良くし、レティという女性を許してしまった。


 ろっこにはその日、マンガを読んで、動画を見て、ギターを弾くという予定があったが、すっかり疲れてしまっていた。

 入浴を済ませると、バタリとベットに倒れ込む。


「ここが、ろっこの部屋ねー。悪くないわね」


 精霊ガーベラはろっこの部屋でぷかーっと浮かびながらそう言った。今まではムスタングの中に潜んで様子を伺っていたのだ。

 ろっこの部屋は、いかにも年相応の女子の部屋。マンガを収納した本棚、窓辺とベットにはぬいぐるみ。非常食のお菓子を収納したカゴ。


「ガーちゃーん。これから、ガーちゃんと一緒に暮らすんだねー。ふふふ、同棲だー」


 疲れからか、訳のわからない事を言い出した。


「あんた、今日は疲れてるんでしょ? 明日も学校なんでしょ? もう、寝なさいよ!」


「うん、寝なきゃなー……あっ」


 瞼を閉じかけたろっこは、何かを思い出したように、ソフトケースからムスタングを出す。その桃色のギターを見つめ、嬉しくなる。そして、そっと弾く。


『ジャラララララーン』


 帰り際、ファグにコードを教えてもらったのだ。Eコード。音階と共に、このコードも練習しておくように言われ、忘れないうちに弾いておきたかったようだ。


「ふふふっ!」


 1回だけコードを鳴らしただけで、ろっこは嬉しくなってしまい、そしてギターが愛おしくなり、思わずムスタングを抱きしめた。

 そんなろっこを、半ば呆れながら眺めたガーベラだったが、彼女も嬉しくなっていた。

 その晩は、ろっことガーベラ、そしてムスタングも一緒に同じベットで寝たのだった。




「ほわほわちょーい! アウトですよね? 遅刻しましたすんまへん!」


 遅刻を覚悟し、そう言いながらろっこは教室に入る。だが、いつもと違い、教室にいた他の生徒の視線が集まる。まるで、この世の終わりを目の当たりにしたかのように、みな青ざめている。


「うそだろ……三日月が間に合ってる!?」


「どういうこと!? 三日月さんが遅刻しないなんて!?」


 生徒達はみな小声で慌て出した。


「ほ、ほわえ?」


「ろっこ、あんた遅刻してないわよ」


 驚いて立ち尽くしていたろっこだったが、背中に隠れていたガーベラが囁く。そう、今朝はガーベラがろっこを起こしてくれたのだ。だが、ろっこ自身は早起きした事などつゆ知らず、いつも通り遅刻しているノリで登校したのだ。つまり、アウトではなくセーフなのだ。だが、これはこれで間抜けである。


「しかも、なんか持ってね?」


「何あれ? マシンガン? 私達殺されるのかな?」


 生徒達が驚いていた理由は、ろっこが間に合っている事だけではなかった。そう、ろっこはギターを持ってきていた。って、ギター持ってきちゃったんですか。


「あ、あはははー……みなさん、ごきげんよー」


 自身がギターを担いでいる事に恥ずかしくなり、普段は使わない挨拶までしてしまった。ぎこちない動きでろっこは窓際の席につく。

 教室に担任の女性教師がやって来ると、彼女はろっこを3度見した。いや、3度見で済んでよかったものだ。


 その後の授業は平常通りであった。


「それでは、この方程式の答えはどうなりますか、三日月さん」


「はい! パイナップルエクストリーム症候群です!」


「はい、違いまーす。座ってください」


 ろっこは指名されてもいつも通り、謎の回答をする事しか出来なかった。

 だが、ろっこはいつも以上に授業に身が入っていなかった。昨日の出来事を何度も脳内で思い返していたからだ。初めてギターを弾いた事、魔法少女になった事。

 傍らの壁にはソフトケースに入ったムスタングを立てかけてある。授業中もつい、ずっとそのギターを見てしまうのだ。よだれを垂らしながら。


(弾きたい。ギター、弾きたい)


 そう思いながらも、必死で我慢する。

 あの戦いの後、ろっこはアトリエ「カシミール」でも再びギターを弾いたのだが、魔法少女になっていた時のようにギターを弾く事は出来なかった。やはり、あれは魔法の力であり、自分の力ではなかったのだと、少し寂しくもなった。


 周囲の生徒の何人かは、ろっこが持ってきた大きな荷物がギターなんだと気付き始めていた。

 休み時間、ろっこがトイレに行くために席を立ったタイミングを見計らい、数人の男子がろっこのムスタングに近付いた。


「なっ、なんだこれ?」


 驚くのも無理はない。ろっこのムスタングには、「祟りに遭いたくなければ触るべからず」と大きな張り紙がしてあるからだ。


「祟りなんか知らねーよ。な? 開けようぜ?」


 怯えながらも、1人の男子がろっこのムスタングに手を伸ばした。だが。


「うおっ!? いってー」


 ギターに触れようとした男子生徒は派手に転んだ。そう、ムスタングの中に潜んでいた精霊ガーベラがギターを見張っているのだ。近付いた男子生徒の足を引っ張り上げて転ばせたのだ。


「祟りだぁ……ろっこは祟り女だぁ!?」


 怖くなった男子生徒はもうギターに近付く事はなかった。


 その日、ろっこはいつも通り早弁をした。だが、ろっこが早弁をした理由は空腹のためではない。ギターを練習するために、昼食を早めに終わらせたかったのだ。

 他の生徒が昼食を食べている中、ろっこは屋上に来た。いつもは鍵が掛かっているのだが、その鍵はガーベラが魔法で開けてくれた。鍵を開ける魔法は得意なのだそうだ。


「やっと昼休みだよー!」


 ろっこは伸びをしながら屋上に出て、そしてすぐにソフトケースからムスタングを出す。


「こうやって、外でギター弾くのって、なんかすごく気持ちいいなー」


「まだ弾いてないじゃないのよ。ほら、さっさと練習すんだじぇい!」


「ガーちゃん、気持ちの問題だってば。よーし、やるぞー!」


 そう言って、ろっこはファグから教えてもらった音階を練習する。だが、相変わらずのペキョっぷりだ。


「なんでわたしが弾くとペキョペキョ鳴っちゃうんだろー?」


 眉を八の字にしてろっこは悩む。


「なんでだろうね? 綺麗な音って、どうやって出せばいいんだろねー?」


 宙にぷかーっと浮かびながら、ガーベラも悩んでいた。


「うーん、まず、昨日ファグさんに言われた『弦を力強く押さえる』は出来てると思うんだよねたぶん……あっ、もしかしてここで他の指が当たっちゃってるのかな? ほわーちょー!? 綺麗な音になってきたよ!」


 どうやら、押さえる指とは別の指が弦に触れていてしまっていたようだ。自分でそれに気付き、改善出来たのは大きな一歩だ。ろっこさん、ついに月に降り立つ。


「いいじゃない! あとは、もっと力強く弦を弾きなさいよ! それこそロックだじぇい! ビクついちゃ駄目!」


「うんうん! ロックだロックだ!」


 そう言って、ろっこは弦を弾く力を強めた。


 だが、そのろっこ達を、屋上の入口から見ている人間がいた。


「はっ、誰かいる!?」


 その視線に気付いたガーベラは慌てろっこの影に隠れる。だが、その頃には人の気配は消えていた。


「ガーちゃん、どうしたの? ここ普段は閉鎖されてるから誰も来ないよ?」


「今、確かに誰かいたわ。扉の向こうに」


 そう言って、ガーベラは校舎内への扉を指す。ろっこは警戒しながらその扉を開いたが、誰もいなかった。

 しかし、精霊ガーベラの言う事だ。誰かに見られていたのだろうと、ろっこは思った。


「そんな……わたし、ギターを弾いてた所を見られちゃったの?」


 ガーベラと共にろっこは俯く。


「これがロックの力なんだね! ついつい聞きたくなって、人が近付いてきちゃうんだね!」


 そう言って顔を上げたろっこは目をキラキラ輝かせた。


「そうよろっこ! これがロックなのよ! ロックは人を引きつけるんだじぇい!」


 ガーベラはそう言って、小さな手でろっことハイタッチをした。

 先程、扉の影から見ていた人間からしたら、ヘラヘラふにゃふにゃしながら「ロックだロックだ」と騒いでいるようにしか見えなかったなんて事は知る由もなく、2人は楽しんでいた。

 ロックとは、一体なんなのだろう。その人間もそう思ったに違いない。



 放課後。


「おわったおわったー! さー、帰るどー!」


 1日の退屈な授業を終え、ろっこは浮き浮きしながら帰り支度を済ませる。この後は、帰りにカシミールに寄って、ファグにギターを指導してもらう約束なのだ。

 ろっこは部活に入っていない。入らなくて正解だったと今ほど感じた事はないだろう。この猛暑の中、運動なぞ絶対にしたくないと、運動場を走る野球部員を見て思う。


「カシミールに行く前に、アイス買って食べよーっと」


 ギターを担いでろっこは歩き出す。


「あてぃしにもちょーだいよ?」


 担いだギターからぴょこっとガーベラが顔を出し、小声で言った。


「わーかってるってー!」


 教室から出て、そう言いながらウインクをかまそうとしたろっこだったが、上手く出来ずに両目とも瞑る。

 その時だった。


「こんにちは、三日月さん」


 教室から出た所で声を掛けられた。ガーベラは慌ててギターの中に頭を引っ込める。ろっこはというと、ウインクに失敗して両目とも瞑っていたため、前が見えていなかった。


「ほわっちょほわー!? ごめんなしゃいん!」


 間一髪、激突は免れたが、謝る事に必死になっていたろっこは近くの壁に激突し、トリプルアクセルを決めてから転ぶ。


「だ、大丈夫!?」


「いてて……あ、いつもの事だから、へっちゃらだよー!」


 転んだろっこを、その女子生徒は心配そうに見詰める。オレンジ色の髪を右側でサイドテールにし、綺麗に巻いている。逆に左側の髪は赤くし、オレンジとのツートーンカラーになっている。

 身長は155cm。ろっこと同じ1年であり、派手な見た目であるにも拘わらず、どこか上品な印象がある。


「あなたは……誰だっけ? ほわっちょーねーむ?」


 いつもの口癖を上手く活用して、「What's your name?」みたいに言うのは、ややこしいのでやめていただきたい。


「あー、あはは、覚えてませんよね……あたくし、『荒谷あらや ちさめ』です」


 オレンジ色の髪の女子生徒は、苦笑を浮かべながら名乗った。ろっこの派手な転倒を目の当たりにしたらドン引きするのも無理はない。


「あっ、あっ、荒谷さん! 思い出しました! こんにちは! ごきげんよー! さようなら!」


 荒谷 ちさめは1年生の中でも優秀で、噂によればお嬢様らしい。その事を思い出し、そして思い出しただけで満足したろっこは、スキップをしながら帰るのであった。


「ちょ、ちょっと待ってください三日月さん!」


 用事がある相手が軽く挨拶だけして、自分には気にも留めずに帰ろうとしたため、荒谷 ちさめは慌てて、ろっこのポニーテールを掴んだ。


「ほわべっちょふんぎゃー!?」


 ポニーテールを後ろから掴まれ、しかも慣れないスキップをしていたろっこ。足が絡まり、正面から廊下の床に倒れた。


「アラララ!? ごめんなさい、三日月さん!」


「いててて……でゅへへ。だいじょぶ」


 笑みを浮かべながらろっこは言ったが、鼻血が垂れ流れていたので大丈夫そうには見えなかった。

 そんなろっこを見て、荒谷ちさめはポケットからティッシュを取り出してろっこの鼻血を拭き取ってくれた。


「三日月さん、ギターやってらっしゃるの?」


 廊下で屈みながらろっこの顔を拭いてくれた荒谷 ちさめはそう質問してきた。


「うん……まだ、始めたばかりなんだけどね! って、ええ!? 荒谷さんも、ギター、やってるの!?」


 その時になってろっこは気付いた。目の前にいる女子生徒、荒谷 ちさめも自分と同じようにギターを背負っているのだ。


「ふふっ、そうなの! もしよかったら、一緒に帰りましょ!」



 数分後、ろっこは荒谷 ちさめと一緒に下校していた。


「まだ信じられないよ。ちさめちゃん、真面目でお嬢様なイメージあったから、ギターやるなんて思わなくて」


 ろっこは恥ずかしがりながらもそう言った。荒谷 ちさめという女子生徒がギターをやっていた事には驚いた。だが、それと同時に、ギターをやっている友達が出来たようで、嬉しくなっているのだ。


「これでも、音楽大好きなんです! 特に、激しい音楽が!」


 隣を歩く荒谷 ちさめもどこか興奮気味に話す。ちさめもロックが好きなんだと思い、ろっこは益々嬉しくなる。


「そうだ! わたし、帰りにアイス食べようと思ってたんだけど、ちさめちゃん、一緒にどう?」


「本当に? 嬉しい! 今日も暑かったですものね。あたくしもろっこちゃんと一緒にアイス食べたいです!」


 ちさめは快く承諾し、2人は一緒に駅前のアイスクリームショップに向かうのだった。

 果たして、この先にろっこを待ち受ける運命とは? そして、ガーベラは無事アイスを食べる事が出来るのか?

 

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