まほろっこ

よんそん

Rock 1 The Girl awakens to Rock

R1-1 魔法少女

 世界は音で形成されている。

 動作には音が伴う。

 動物は鳴き声を奏でる。

 人間は音楽を奏でる。


 意図的に発せられた音。

 不意に発生した音。

 幸せな音。

 不幸な音。

 あらゆる音がこの世界に存在する。



 そして、ここに、音を撒き散らす少女が1人。


「ほわちょー!? あいたた……セーフ!」


 少女の名は「三日月 ろっこ」。中学1年生。奇声を発しながら教室に到着した訳だが、なにせ廊下からダイビングして教室に飛び込んだため、頭から床に衝突し、ゴロゴロ転がり、派手な音を立てて自分の席に衝突した。

 既に教室にいた担任はそんな彼女を白い目で眺め、周囲の生徒もチラリと一瞥するだけで前に向き直る。

 そう、これは彼女、三日月 ろっこの日常茶飯事であり、そして彼女は時間に間に合ってなどいなかった。つまり、セーフではなくアウトだな。そう、アホなのだ。


 三日月 ろっこは身体中にダメージを負ったが、それでもヘラヘラと笑っている。身長140cm。ポニーテールにしたピンクの髪は、彼女の名前の通り、大きく三日月の形になっている。あれ程転げたのに一糸乱れていない。

 そう、ろっこはいつも転ぶのだ。だが、ポニーテールは乱れない。それがこの世の理なのだ。


 ろっこは喧しいが、どこにでもいる年相応のうら若き少女だ。

 授業中でも突然大声を発したり、突然机ごと倒れるありふれた少女だ。

 午前10時になると授業中でも早弁し、午後2時になると授業中でも3時のおやつを1時間早くフライングして食べるありふれた少女だ。

 廊下を歩けば転んで壁に激突するありふれた少女だ。

 階段は踏み外すためにあるもの。だが、3分の1の確率でろっこは見事に着地する。そんなありふれた少女だ。


 三日月 ろっこ。そんなありふれた少女が、この日、3つの奇跡と遭遇する。


「ガッコおわったったー! ふふふーん! かえりゅー!」


 昼間の暑さが収まる気配を見せない放課後、白いブラウスに水色のスカートという組み合わせの夏服に身を包んだろっこは軽快に歩き進む。

 何か特別な予定がある訳でもない。だが、上機嫌でろっこは下校する。アホな彼女は常に上機嫌なのだ。


「帰ったらマンガ読んでー、動画見てー、寝る! 楽しみだなー!」


 これが彼女の予定なのだ。だが、その彼女に危機が迫っていた。


「ワンワンッ!」


「いっぬー!? ほわちょちょー!?」


 突然曲がり角から襲来した脅威! だが、いっぬからしたらピンクの大きな三日月型ポニーテールも脅威なのだ。威嚇すべしなのだ。

 そして、ろっこは期待を裏切らない。いっぬに驚いたろっこは当然転ぶ。そのまま下り坂をローリング。


「ほわわわわー!?」


 絶叫を発しながら、周囲の壁に激突してバカボコと音を立てて、彼女は転がり進む。これも彼女の日常なのだ。きっとそうなのだ。


「ほわべっちょ!」


 坂道を転がったろっこはようやく止まった。いや、激突した。どうやら坂道の先にあった店のショーウィンドウに激突したようだ。


「あたた……助かった……ん? 何これ? え、ほぉーっ!? めっちょかっこいい!」


 三日月 ろっこが遭遇した1つ目の奇跡、それは「ギター」だ。彼女は目の前にあるギターに心を奪われた。


「ギターだー! うっわー、かっこいいなー! うへっ、うへへ、かっこいい……じゅるっ」


 楽器屋のショーウィンドウに激突したろっこの視線は、目の前にある桃色のギターに釘付けになっていた。そのギターのあまりのかっこよさに、彼女はよだれが止まらなくなり、彼女がへばり付いたガラスは当然よだれでベトベトである。

 楽器屋の店員がそれに気付かない訳もなく、店内からその怪しい少女を見て、引き攣った表情で固まっていた。


「かっこいい……かっこいいよー! いいなー、欲しいなー! ギターなんて弾けないけど、でもでも、練習すればできるよね! 欲しい! 決めた! わたし、ギター、買う!」


 店員に軽蔑されている事など知る由もなく、ろっこは決意するのであった。だが、彼女の前に、現実が立ちはだかる。


「はっあー!? 何、この値段!? え、0が5個? 200000円ー!?」


 そう、ギターは高い! 中学生の少女がそのギターを衝動買いなど出来る訳が無い! 世の中そんなに甘くない!


「うぅ……こんな大金出せないよぉ。お母さんに言っても買ってくれないだろうし。諦めるしかないのかな……うぅ、わたしのギターさん、さようなら」


 ろっこは泣いた。よだれも垂れ流しながら号泣していた。心からは未練を垂れ流し、ギターとお別れを告げて立ち去ろうと歩き出す。


 そんな彼女の背後から忍び寄る影が。


「うふふーん! ムスタングじゃなーい! いいギターじゃん! ビビッときちゃうわねー!」


 突如響いたハスキーボイスにろっこは振り返る。そこに1人の女性がいた。金髪で、身長が高く、すらりとした大人の女性だ。クリーム色のオフショルダートップス、デニムのショートパンツというシンプルな出で立ちだが、どこか気品がある。40代くらいだろうか、とろっこは予想する。


「お嬢ちゃん、このギター買わないの? よだれだらだらしながら欲しそうにしてたけど?」


 ろっこが女性の美しさに見蕩れていると、女性はそう問いかけた。


「お金、ないんでしゅ……うぅっ!」


 ろっこは泣きながら答え、それを見た女性はニッコリと微笑む。


「ふふん。なら、お姉さんが買ってあげちゃう!」


 世の中甘かった!


「ほわーっ!? お姉さん、今、なんて!? 買ってくれるんですか!? わた、わたしに!?」


 目の前の女性は明らかにお姉さんと呼べる年齢ではないが、ろっこは嬉しさのあまり「お姉さん」と呼んでしまった。

 そう。三日月 ろっこが遭遇した2つ目の奇跡。それは、「パトロン」!


「ふふん! もっちろん! 泣いてる女の子を放っておけないっしょ!」


 見ず知らずの人に物を買ってもらってはいけません。また、大人は話した事もない子供に物を買い与えてはいけません。ちゃんと仲良くなってからにしましょう。


 こんなに美味しい展開があっていいのだろうかと、ろっこは舞い降りた幸運に半信半疑であった。だが、突如現れた謎の女性を疑うことすら出来ない程に、ろっこは有頂天になってしまっていたのもまた事実であった。



 そして、30分後。ろっこは女性の家へと招かれた。だが、そこは家というよりも、店に近かった。


「わわー!? ここがお姉さんのおうち? なんだかとてもオシャレですねー!」


 屋内へと足を踏み入れたろっこは目を輝かせた。ナチュラルカラーで統一されたその場所は洒落た丸い照明が吊り下がり、ソファやテーブル席も置かれている。


「そ! 住居兼、アトリエ『カシミール』よ。どこでも好きな所に座ってねー」


 そう言われ、ろっこはソファに腰掛ける。その手には、女性に先程買ってもらったギターを入れたソフトケース。そしてついでに備品も買ってもらい、それらが入ったビニール袋。なんたる大盤振る舞い。


「アトリエ?」


「そ。ギター作ってるの。はい、喉乾いてるでしょ?」


 そう言って、女性はろっこにコーラを注いだグラスを渡した。


「ギター、本当だ! ありがとう、お姉さん! あ、わたしまだお姉さんの名前知らない……やばい! 名前も知らない人についてきちゃった!」


 確かに室内には3つ程アコースティックギターが壁に掛けられている。奥には作業台らしきスペースも見受けられる。

 そして、ろっこはようやく自分が置かれた状況に気付いた。なんとも危機感のない中学生だ。


「怪しい人じゃないから安心なさい。別にとって食ったりしないわよ。私の名前は、『レティ』。よろしくね」


「レティさん! わたし、三日月 ろっこ! よろしくお願いします! でも、本当に、こんな高いギター買ってもらってよかったの? なんで、わたしなんかに?」


 今更何を言ってるのだ。だが、レティと名乗った女性は明るく笑う。


「いいのよん。私は、あなたに素質を見出したの」


 そう言われ、ろっこは眉を顰める。何の素質なのかと疑問に思ったのだ。だがそれも束の間、きっと自分には音楽の才能があるに違いないと楽観的に思い込んだ。

 ならば、レティさんにギターを教えてもらおうと口を開きかけたその時、足音がした。室内の奥にある扉が開く。


「レティ、帰ってたのか? おや、お客さんか?」


 男だ。灰色の髪をした男がどこか眠そうに顔を覗かせた。白い麻のシャツに茶色のハーフパンツを履いている。


「おはよ。そう、見て、逸材を見つけてきたの!」


 レティがろっこに両手を向けて言うと、その男はろっこに視線を向けてにこりと笑う。怪しい。なんて怪しい男だ。


「いらっしゃい」


「あっ、はっ、はひぃ! お邪魔してます。レティさんの旦那さん?」


 戸惑いながらろっこが問うと、レティはクスクス笑う。男はレティよりも歳が若そうだ。だが、その落ち着いた物腰と、端正でありながらどこか幼さの残る顔立ちからは、年齢が全く予測できない。


「違うわ。ファグは友人。ここにあるギターは全部ファグが作ったの。ちょうどよかった。この娘にギター教えてあげなさいよ!」


 レティが言うと、ファグと呼ばれた男はこくんと頷く。そして、扉の向こうの通路の先、更に奥の部屋へと案内する。


「ほわー! ここって、音楽室?」


「ははは。学生だね。音楽室というより、防音室だ」


 奥の部屋は防音室になっており、アンプ等の様々な機材が置かれていた。初めて見るその光景に、ろっこは鼻水が出そうになる程に感動していた。

 そして、ファグはろっこが買ってもらった備品を受け取り、「シールド」と呼ばれるケーブルをギターとアンプに繋ぐ。


「さ、これで音が出るよ」


 ギターに繋いだストラップを肩に掛けていたろっこはその言葉を聞いても数秒程固まっていた。そして、恐る恐るギターの弦をピックで弾く。


『グワーン』


「ほわー!? 音が出たよ!? これが、ギターなの!?」


 自分が出した音がアンプから聞こえ、ろっこは飛び上がって驚いた。


「やっぱり全くの素人だわね! ファグ、あんたちゃんと1から教えてあげなさいよ?」


 その様子を壁に寄りかかって見ていたレティが面白そうに笑っている。するとファグは、室内にあったホワイトボードに何やら色々と書き出す。


「じゃあ、まずは音階から。これがドレミファソラシドだ。この位置を左手で押さえて弾くんだ。できるかい?」


 ファグの説明を聞きながらホワイトボードを凝視していたろっこだったが、その言葉の意味を理解したのか、大きく頷くと顔いっぱいに笑みを浮かべる。


「いっけぇー! ドレミファソラシドー!」


『パキペキョピラポコゴリバコパッピーン!』


 とてもドレミファソラシドとは聞こえない音が響いた。勢いだけはよかったな。


「う、うん。初めは、くっ、誰でも、そんなもんだよ」


 口元を押さえながらファグは言った。


「だーひゃひゃひゃ! 何よ、今の!? ファグ、あんたも笑い堪えるのに必死じゃない!」


「だ、だって、パッピーンて」


 ファグとレティは腹を抱えながら笑っている。


「うぅ……どうしてこうなったの。こんなに音を出すのが難しいとは思わなかったよ」


 ろっこは泣いていた。先程出そうになっていた鼻水もだらだらと流れていた。


「ごめんごめん。まず、弦を押さえる力を強く意識するんだ。大切なのは反復練習。めげずに繰り返し続ければよくなるよ。さ、頑張ろうか」


 ファグに言われ、ろっこは涙を拭ってギターを構える。


 30分後。


『ドべミパピョラティンッドー!』


「うん、だいぶよくなったね。とにかくこれを毎日続けるんだよ?」


「ホントに? わぁ、嬉しい! わたし、がんばる!」


 ファグの言葉に励まされ、ろっこは喜びに満ちていた。ほんの少し出来るようになっただけで、こんなにも嬉しい気持ちになった事に自分自身でも驚いている。


 と、ファグは防音室内に置かれていたアコースティックギターを手に持つ。

 その指が、自然な動きで弦を弾く。紡がれるメロディー。生音であるのにもかかわらず、室内に響き渡る美しい音のその圧倒的な存在感が、ろっこを360°から包み込んでいた。

 猛々しく、儚く、そしてどこか悲しく、総じて美しく。


「すごいっ……すごいすごいすごいすごい! ファグさん、すごーい!」


 演奏が終わるとろっこは拍手していた。ファグはそっと目を細めて、軽く頭を下げる。


「わたしもファグさんみたいに上手くなりたい! 絶対なりたい! でも、わたしの音と全然違う。わたしなんかでも、上手くなれるのかな?」


 感動の後に不安を口にしたろっこの頭を、ファグはそっと撫でる。


「なれるよ。ギターをやり始めた大半の人はすぐに挫折してしまうんだ。せっかく買っても、それっきり。楽器が可哀想だ。でも、君は違う。わかるよ、俺には」


 ファグの言葉に、ろっこは顔を上げる。


「君は、そのムスタングとさっき出会ったばかりなんだよね? それなのに、君のムスタングへの愛はもう溢れているよ。レティが逸材って言っていたのは本当だね。さ、ギターに聞いてごらん? ギターの声を聞いてごらん? 君に、答えてくれるよ」


 ファグの言葉に疑問を抱く事もなく、ろっこは自分が持つ桃色のムスタングを見つめる。


(わたしは、これからギター上手くなれるかな? ううん、上手くなる! 絶対に、絶対に、上手くなる! だから、わたし、がんばるから! だから、これから、ずっと一緒にいてね)


 心の声でろっこは誓う。


 そして、その声に呼応するように、桃色のムスタングは淡く光る。


『ギャラリララギュイーン!』


 自動的に発せられたメロディー。チョーキング。


「ぷはーっ! おうっ! どこまでもついてってやるじぇいっ!」


 目の前で起きた不思議な現象に、口が開きっぱなしだったろっこだったが、さらに彼女の目が飛び出した。

 自分の顔の前に、ピンクの丸っこい物が浮かんでいる。生き物? 猫のようだ。

 丸い頭に猫耳がついており、釣り上がった大きな黄色い目をしている。丸い頭の下にある小さな胴体からは小さな手足がついている。


「ほわ、ちょ? ほわわわちょー!? な、なにこれなにこれー!?」


 尻餅をついたろっこは、飛び上がって起き上がり、再び尻餅をついた。


「なにこれとは何なのよ! あんたが呼び出したんじゃない! 失礼ねい! あてぃしは『ガーベラ』よ!」


 ピンクの猫のような生き物は甲高い声でそう名乗った。


「可愛いー! ガーベラちゃん? ガーちゃんだー! うーっ、可愛い!」


「ちょっ、暑苦しいマスターね!? 離れてよね!」


 抱きつくろっこを引き剥がそうと、ガーベラは小さな手足をばたつかせる。


「ん? マスター?」


「そうだよ、ろっこちゃん、君はマスターだ。この子は、楽器に宿る精霊なんだ。匠の職人が作った楽器を、奏者が心から愛する事で具現化する精霊だ」


 そう説明したファグを精霊ガーベラが見る。


「あんた、何者? とんでもない力を持ってるわね?」


 そう言ったガーベラの言葉を理解しているのかいないのか、ファグはただ無言で目を細めて笑う。



 ――ドドドドーン!


 大きな振動が空間を揺らした。


「何、今の音!? 地震!?」


 振動によって壁に顔面から激突したろっこが慌てながら室内を駆け回る。


「まさか?」


 始終を見守っていたレティの顔に影が差す。


「そうよ! 危険が迫っていたから、あてぃしが出てきたのよ!」


 誇らしげに言ったガーベラを尻目に、ファグはいそいそと防音室を出て行く。ろっこもギターを置いてファグの後に続く。


「ほわちょっ? な、な、何あれ?」


 アトリエから外に出たろっこの瞳には有り得ない物が映っていた。

 それは、大きな魔物。ビルの屋上に、4本足で立つその魔物はまるで犬のようだ。だが、黒く禍々しいそれは、邪悪な気配を漂わせている。


「また現れたか」


 落ち着いた声で呟いたファグだったが、どこか焦っているようだ。


『ガオオーン!』


 巨大な黒い犬が吠えた。その咆哮は振動波となって、周囲の建物を破壊する。


「ほわちょーい!? やば、逃げなきゃ! 早く、避難しましょ?」


 そう言ったろっこの肩をポンとレティが叩く。


「んまー、力を試すにはちょうどいいタイミングだね!」


 レティが言うと、ファグは観念したように息を吐く。

 と、アトリエの方から勢いよく飛来するピンクの物体。


「おい! なんであてぃしを置いてけぼりにすんのよ! 忘れもんだじぇい!」


 精霊ガーベラはろっこに向かってそれを投げた。ギターだ。


「え? ほわっちょ! なんで、ムスタング持ってきちゃうの?」


「いいからとっとと行くじぇい!」


 そう言って、ギターを受け取ったろっこの襟首をガーベラは掴み、そのまま飛ぶ。だが、低空飛行をするため、ろっこは地面を引き摺られる。


「ぶはっ! ぶひっ! ぶふっ! ぶへっ! ぶほっ! ちょっと、ガーちゃん、そっちは、危ないってばー!?」


 ろっこがそう言うと、ようやくガーベラは止まる。だが、その時には既にあの犬の怪物が居座るビルの目の前であった。


「何情けない事ぬかしてんだい! 戦うに決まってんでしょ!? ろっこ、あんた素質があるんでしょ!?」


 素質。ろっこに雷に打たれたような衝撃が走る。ろっこはてっきり音楽の素質かと思っていたが、まさか戦いの素質の事だったのかと、思い至ったのだ。


 そして、ろっこは目を閉じ、開く。何かに吹っ切れたように、その顔は決意に満ちていた。

 そのろっこに気付いたのか、あの巨大な犬の怪物が道路に下りてきた。


「わかった。やるよ。わたし、戦うよ」


 真剣な面持ちでそう口にし、ろっこは走り出した。


「うおー! この街の平和は、わたしが、守る!」


 高々と掲げた拳を巨大な犬に向けて放つ。と見せかけて、路上に転がっていたアルミ缶を踏んで倒れ、そのまま転がり進む。ろっこの日常から編み出された秘技、「ローリングゴロゴろっこちゃん」だ。


「グワン!」


 だが、転がるろっこを、意図も容易く巨大な犬は殴り飛ばした。ゴロゴロ転がる謎のピンクの三日月ポニーテール少女なぞ、脅威でしかない。威嚇すべしなのだ。


「うー、なんでぇー? どうして、こうなったのー? 私、素質あるんじゃなかったのー?」


 やはり、ろっこは駄目だった。


「あんた、何やってんのよ! よく生きてるわね!?」


 そこへガーベラがやって来て小さな手でポカリとろっこの頭を殴る。


「ひぐっ、ほぼほぼ死んでます」


 確かにろっこの身体の至る所から血がぴゅーぴゅー飛び出ていた。


「あんた何も知らないのね!? いい? あれは、アクネン。悪音アクネが生み出した魔物。生身の人間が立ち向かって敵う相手じゃないわよ!」


「アクネン? アクネ? なんなの一体……じゃあ、どうすればいいのよー!」


 聞き慣れない単語を聞いたろっこは首を傾げ、そして駄々をこねるように転がりながら喚き散らした。

 だがそれを聞いて、待ってましたと言わんばかりに、ガーベラは意味ありげに微笑む。


「当然、変身するのよ!」


「へ、変身!?」


「そっ! あてぃしは危険を察知して出て来たけど、ろっこに素質があったのも間違いないわ! あんたのムスタングに聞いてみなさいよ! 答えは、全部そいつが教えてくれるわ!」


 ガーベラに言われ、ろっこは再び自身が持つムスタングに気持ちを向ける。

 すると、ろっこの中へと、音が、轟音がなだれ込む。


 そして、魔法の言葉を放つ。


「響け! わたしの魂!」


 その言葉を告げると、ムスタングが轟音リフをかき鳴らす。音の嵐は三日月型の花びらとなり、ろっこを包む。

 黒いインナートップスの上にピンクのショートジャケット。白とピンクのミニスカート。そして、ピンクのブーツ。頭には三日月型の髪飾り。先程とは全く別の衣装にろっこは身を包んでいた。


「って、ほわちょちょちょちょー!? わたし、変身しちゃってるー!?」


「バッチリね! 魔法少女ロッキンろっこ爆誕だじぇい!」


 そう言って指を鳴らしたガーベラを、丸めた目でろっこは見る。

 そう、三日月 ろっこが遭遇した3つ目の奇跡。それは、「魔法少女」だ。


「わたしが魔法少女ー!? ウソでしょー!?」


 いいえ本当です。頑張ってください。

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