49話 例え進む道は違えど、二人を分かつことはない
美柑とましろとともに、美羽が所属する天文部に入ることが決まった。さっそく入部届を出した後、僕たちは美羽とともに帰り道を歩いていた。
最近では、こうして友達と一緒なら、寧を待たずに帰ることも許されてきた(それでも、許可は変わらずに必要だけど)。
「いやあ、それにしても、蓮たちが天文部に入ってくれて嬉しいのだ!」
スキップでもしだすかのように、美羽はご機嫌だった。僕たちが入部したことが余程嬉しいことが伝わってきて、こっちまで嬉しくなってくる。
「……すぅ」
僕の背では、今でも美柑が寝息を立てている。軽いからこの体でも背負い続けるのは問題ないんだけど、いつまで背負い続ければいいんだろう? 美柑の家なんて僕はわからないし。
「ねえ、美羽。一つ聞いてもいいかしら?」
「ん? 何なのだ?」
美羽がその場で振り返り、後ろ歩きになってましろのことを見る。
「天文部って、ずっと美羽一人だったの?」
ましろの疑問に、僕も美羽の返答を待った。その疑問は僕も思っていたことだ。
「ボクはずっと一人だったのだよ」
特に疑問に感じていない様子で、美羽は何気なくその事実を告げる。僕とましろはお互いに顔を見合わせ、困った顔をしてしまう。
「えっと、勧誘とかはしなかったの? ほら、掲示板にポスターを貼ったりして」
もし、勧誘した結果が今のものだったら、失礼なことを聞いてしまったことになるが、その不安は杞憂だった。
「ボクは何もしていないのだ。別に、その必要も感じなかったのだ」
「一人がよかったの?」
ましろがますます疑問符を浮かべた顔をする。もし、ましろの言う通りだとしたら、今回僕たちを誘ったことに違和感がある。まあ、部員を増やすように言われていたこともあるから、一概にそうとも思えないけど。
けど、美羽の考えはそうではなかった。
「そういうわけじゃないのだ。ただ、変に勧誘して中途半端な輩が来られるのは嫌だったのだ。だから、今までボクからは何もしてこなかったのだ。それに、わざわざ勧誘活動なんかしなくても、本当に星を見ることに興味を持っているのなら、自分から天文部に来ると思うのだ」
そう言って、美羽は腕を組みつつ後ろ歩きをし、頷いてみせる。器用だね。でも、それなら納得だ。美羽は、天文部の活動に本気なんだな。だからこそ、面白半分でくるような人には来てほしくないんだ。
「じゃあ、今回私たちを天文部に誘ったのは、この前の天体観測がきっかけということ?」
ましろが確かめるように問うと、美羽は力強く頷いてみせた。
「そうなのだ! 皆あの時、本当に星を見て感動してくれたのだ! 皆となら、一緒に天文部の活動をしたいと思ったのだ!」
美羽が興奮した面持ちで語る。それを見て、僕は天文部に入って改めてよかったと思うのと同時に、同じ星が好きな人に出会えたことに嬉しく思った。
「フフ、嬉しいこと言ってくれるわね」
嬉しそうに語る美羽に、ましろも微笑んでいる。
「あ、でも、勧誘活動はしてこなかったけど、一回だけ友達を誘ったことはあるのだ。でも、その友達は美術部に専念したいと言ったから、それなら仕方ないと諦めたのだ」
美羽は苦笑いするが、僕は言葉の途中で出てきた一つの単語に驚いた。
「美術部? 美羽のその友達、今も美術部にいるの?」
「そうなのだよ。美柑と友達なら知っていると思うけど、名前は保科美玖って言って、美術部の部長なのだよ」
よりによって保科先輩の名前が出てきて、僕はまたしても驚いてしまった。
「少し意外ね。美羽と保科先輩が友人関係だったなんて」
ましろが目を丸くしている。僕もまさか、そこの二人に繋がりがあるとは思えなかった。
「あれ? じゃあ保科先輩って、絵を描く以外にも星を見ることも好きなの?」
「うん、美玖は星が好きなのだ! 美玖とは中学の時同じ学校で その時よく一緒に星を見たのだ!」
その時のことを思い出しているのか、美羽は感慨にふけっている。
「美玖が先に卒業して、ボクも後を追うように水鏡高校に入ったけど、その時にはもう、美玖は絵を描くことに真剣になっていたのだ。けど、ボクも美玖の思いには気づいていたから、応援することに決めたのだ。それに、例え進む道は違っても美玖とは今でも時々一緒に星を見るから寂しくないのだよ!」
嘘偽りがないような顔をする美羽に、僕とましろも顔が綻んでしまう。二人の間には、固い絆があるように感じ取れた。
そんな話をしていると、あっという間に別れ道に着いた。
「じゃあ、ボクはこっちだから! 部室の方は少し整理したいから、明後日から新生天文部の開始日なのだ!」
そう言って、美羽はダボダボな袖を振って歩いて行った。それを見送り、僕も帰ろうとしたけど、背中で眠る美柑のことを思い出す。
「ねえ、ましろ。僕、美柑の家わからないんだけど、どうしよう?」
無理やり美柑を起こすのも気が引ける。かといって、ましろに背負わすのも何だか申し訳なく思ってしまう。
「美柑の住所なら今メールで送ってあげる。だから、蓮が美柑を家まで送ってあげて」
そう言って、静止をかける間もなくましろは僕のスマホにメールを送ってしまう。
「ちょっと待って⁉ え、僕が送るの?」
「何か問題があるかしら? それとも、か弱い私に、眠った美柑を送らせるつもりかしら? もしそんな状況で不審者にでも襲われたら、私たちなすすべもなくひどい目に遭っちゃうけど……」
ましろはわざとらしく、腕で体を守る仕草をして見せる。いや、僕も今は女の子なんだけど⁉ 思わずそうツッコミそうになるものの、ましろの言うことも確かなため、ここはグッと言葉を飲み込んでしぶしぶと頷く。
「……納得は行かないけど、わかったよ」
「フフ、ありがとう。それじゃあ、お願いね」
そう言って、ましろは駅の方へと歩いていってしまう。僕はましろを見送った後、送られてきた美柑の住所を確認して、美柑を家まで送るのだった。
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