40話 やったね! 呪いのアイテムが増えたよ(泣)

 悪夢のシューティングゲームが終わった後、昼食を取り、その後またゲームコーナーで他のゲームを楽しんだ。


 おかげで、気づいたらすっかり夕方になっていた。


「ふう~、遊んだねぇ」


 真希波が一息吐き満足げな顔をする。


「それにしても遊びすぎたわね。お昼後に一回温泉に入ろうと思っていたのにね」


 ましろが困った顔をしつつも、その声は楽しそうだった。


 僕もすっかり学生の気分で楽しんでしまった。最初のシューティングゲームは除いてだけど。


「さすがに今から温泉に入ると夜ご飯が遅くなっちゃうから、先に食べてからにしよう。もうお腹ペコペコだよ~」


 綾子がお腹を押さえながら、空腹アピールをする。


「私もご飯食べたい! 皆で行こう!」


 美柑に皆頷き、僕たちは食堂へと向かうことにした。



 美味しい夕食を済ませ、いよいよこの時間がきてしまった。そう。何を隠そう温泉に入る時間だ。


 元男の僕からしたら(今も心は男のつもりだけど)、裸の女の子と一緒に温泉に入るなんて鼻血ものだし、犯罪ものだ。


 この前のような温水プールともわけが違う。温泉では、女の子を隠すための水着が一切ないのだ。


 けど、今の僕は狼狽えることはない。だって、恐れることは何もないのだから。


 僕は鏡に映る自分の青い瞳、それを覆う透明なコンタクトレンズを見て、満足げに頷くのだった。



「これって、コンタクトレンズ?」


 温泉旅行前日、僕は寧に呼び出されていた。そこで、何の前触れもなくコンタクトレンズを手渡してきた。


「そうよ。温泉旅行中、お兄様にはそれの着用を義務付けるわ」


 その言葉を聞いても、僕の疑問は解消されなかった。


「何でこれ付けなきゃダメなの? 別に僕、視力は悪くないけど」


「視力は関係ないわよ。これは、お兄様が温泉旅行中、他の女子生徒たちを襲わないようにさせるためのものよ」


 寧の発言に、僕は思わず吹き出し、せき込んでしまう。


「なっ、お、襲うって何さ⁉ 僕そんなことしないよ!」


「するわよ。少なくとも、裸の女子生徒が周りにいる環境下だったらね」


「は、裸の女の子が僕の周りにいることなんて……ん?」


 僕は見落としてはいけない事実を見落としていた気がする。


「……お兄様。もしかして、真倉や他の女子生徒たちと一緒に温泉に入るつもりだったの?」


 寧が蔑んだ目で見てくる。その目に、僕は胸にグサッと矢が刺さった気分を味わった。


「ち、違うよ⁉ 違うけど、……ごめんなさい、何も考えていませんでした」


 温泉旅行という嬉しいことばかりに頭がいき、すっかり大事なことを失念していた。


 寧の言う通りだ。僕が皆と温泉に入るのは犯罪ものだ。僕はこの体を利用して皆の裸を近くで見てしまうところだったなんて⁉


「まあ、お兄様は一度、更衣室で皆の下着姿、もといほぼ裸を見た前科はあるけれどね」


 二本目の矢が僕の胸を射抜き、僕はその場に膝をついてしまった。いや、僕は悪くないはず……たぶん。……いえ、全部が悪くないとはいえないです。ごめんなさい。


「お兄様にこれ以上罪をかぶせないための処置がそれよ」


 寧の言葉に、僕は罪悪感を抱きつつ渡されたコンタクトレンズを見る。これに一体どんな効果が?


「それには、ある細工がされていてね。それをつけて『スタート』と言うと、周囲に映る人間の体ごと、別のものに自動的に変換されるようになっているわ」


 信じられないようなことをさらりと言われてしまい、本当にそんな効果があるんだと、なぜか納得しそうになった。


「いやいや、何でそんなもの作れちゃうの? 効果が本当だとしたら何かの賞ものだよ、これ」


 間違いなくまだ誰も発明していないものだろう。何そんなものさらっと作ってるんだよ。


「これを作ったのは私でなく、藤原よ」


 よりによってあの変態教師か。……まあ、ゾンビ転生っていう儀式を発明した時点で賞ものだろうけど(倫理観的に認められないだろうけど)。


「……これ、もしかして結構作るのに時間かかったの?」


 僕はふと思い出した。ここ最近、変態、藤原先生はやけに眠そうだったけど、もしかしてこれを作るために徹夜でもしていたのではないか? そう思うと、あの変態教師でもそこまで悪く思えないじゃないか。


「いえ? お願いしたらすぐに作ってくれたわ。その際、『やりたいことあるから手早く済まさせてもらうね』と言っていたわ」


 ……あ、そうですか。むしろ何か安心したよ。


「とにかく。お兄様、旅行中はずっとこれをつけておきなさいよ。……もし、外したりしても、データはそれに残っているから、バカなマネだけはしないようにね?」


 寧がニコッと笑うが、目が全然笑ってないって⁉


「し、しないから⁉ ずっとつけてるから⁉」


「あ、壊すのもだめよ。もし、不慮の事故で壊れてしまっても、例外なく罰を与えるから覚えておいてね?」


 嘘でしょ⁉ 何て容赦ないんだ、この妹は……⁉


 希望のアイテムかと思えば、とんだ呪いのアイテムになってしまったよ。


 これで、僕の抱える呪いのアイテムは二つになった。正確には三つかもだけど。


 どっちにしろ、全然嬉しくないよ……。



 僕は昨日の寧との会話を思い出しつつ、まあ壊しさえしなければ大丈夫だろうと思った。


 ちなみに、寧からもらったものにはもう一つある。それが、この一見すると栄養ドリンクみたいなものだ。何でも、これを飲めば長時間お湯に浸かっていてもゾンビとしての異常が起きないという。原理もわからないものを飲みたくはないけど、これで温泉を満喫できるなら我慢しよう。


 美柑に渡す分も持って、保科先輩も絶賛した温泉へと僕は足を運んだ。

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