33話 身近にあるものが呪いのアイテムになった⁉︎

 楽しい勉強会(?)が終わり、久々に先生らしいことをできて、気分はとても晴れやかだった。


 けど……はい。楽しいことだけあるのが人生じゃないよね。わかってるよ。けど、楽しいことの後にすぐ辛いことがあると、気分もその分ガクッと落ちてしまう。


「………………」


 リビングに入った瞬間、寧の冷ややかな視線が僕を射抜いた。


 僕は今日、寧の反対を無視して美柑たちと勉強会をした。当然、それが何を意味するのかなんてわかっている。


 僕は覚悟を決め、土下座をしようと腰を屈めた。いつか、土下座することに全く抵抗を感じなくなりそうだな。


「……まあ、今回は見逃してあげる」


「……え⁉」


 全く予期せぬ言葉に、思わず声を出して寧を見る。勉強会をしたことを許してくれた? あの寧が?


「許して、くれるの?」


 何かの聞き間違いではないかと、僕は腰を屈めたまま聞き返した。


「ええ。一応、学生の本文は学業だものね。特別に許してあげる」


 まさかの慈悲に、僕は内心で喜んだ。よかった、あの鞭で叩かれることにならなくて……。


「その代わり、今日はお兄様が夕食を準備なさい」


「うん!」


 鞭で叩かれるのに比べたら、それくらいお安い御用だ。僕は軽い足取りでキッチンに向かった。



 夕食・お風呂ともに済ませ、僕は自室のベッドで寝る準備に入った。朝は色々とあったものの、今日は比較的何事もない一日だった。こんな日は、いい気分のまま寝てしまうのが吉だ。


 そう思って布団に入ったのに、スマホからメールの着信音が鳴った。……タイミングが悪いな。


 メールくらいなら明日でもいいかと思ったものの、もし大事な案件だったらどうしよう不安に思えてきた。働いていた時の癖かな。


 ベッドから降りて、机に置いたスマホを手に取る。


「ん?」


 画面に表示された送信相手を、思わず二度見してしまった。何だこれ?


 送信相手の名前には、『ヒマワリ』と書かれていた。


 メールアドレスも見覚えのないものだ。送信相手の名前も『ヒマワリ』と意味のわからないものだし、迷惑メールかな?


 睡眠を妨害したのが迷惑メールだとわかり、僕は少しイラッとしてしまった。内容を見ずに削除してやろう……あ、間違えて開封を押しちゃった。別に迷惑メールの内容なんてどうでも――、



『私はあなただけを見つめる』



「…………」


 やっぱり迷惑メール、だよね? でも、それにしては内容がこれだけって、一体送り主に何の意味が?


 何か怪しげなサイトに勧誘するでもないし、開いた瞬間に高額請求されるとかでもない。書かれているのは、たったその一文だけだ。


『私はあなただけを見つめる』。これは、このメールの送り主の名前である『ヒマワリ』の花言葉だ。


 色々と意味がわからないメールだ。単に、偶然引っかかったメール相手に、面白半分にいたずらを仕掛けたとかだろうか。というか、それ以外に考えられない。


 けど、意味のわからないメールっていうのも、何かいやだな。


(寝る前に見るんじゃなかった……)


 せっかくいい気分で寝れると思ったのに、台無しである。もしかして、こういう意図で送ったとかじゃないよね。もしそうだとしたら、腹立たしいものだ。


 僕がスマホを閉じて、ベッドに戻ろうとした時だった。スマホの画面が明るくなり、また新着メールが送られてきた。


 今度は何、と思いつつも、もう半ばやけくそ気味に送り主を確認せずにそのメールを開いた。



『あなたの秘密を知っている。ばらされたくなかったら、真倉美柑と仲良くしないで』



「……っ⁉」


 あまりに不意打ちすぎるその内容にスマホを落としそうになった。


 ……え? 何これ⁉ どういうこと⁉ 


 僕の秘密って、もしかしてゾンビのこと? それとも、僕が九重蓮であること? 真っ先に思い浮かぶのはその二つだ。


 僕の正体を知っているのは、寧と藤原先生、それに美柑の3人だけのはず。何でこの送り主は、僕の正体を知っているんだ⁉


 お風呂を入ったばかりなのに、嫌な汗がどんどん噴き出していく。


 けど、無視できないのはそれだけじゃない。後に続く一文、『真倉美柑と仲良くしないで』。これってもしかして、送り主は美柑のことが好きってこと? 僕と美柑が仲良くしているのが気に入らないから、僕の秘密を盾に脅してきたと。


 一体誰がこんなメールを送ってきたのか。僕は慌ててメールの送り主の名前を見るも、そこには『 unknown 』と書かれていた。メールアドレスも、これもまた見覚えのないアドレスだ。


 というか、ちょっと待って⁉ 僕はつい数分前に送られてきたほうのメールを、今送られてきたメールと見比べた。送られてきた時間の差は、わずか3分の違いしかなかった。


 ……同じ送り主? それとも、全く別の人? どっちにしても、気味の悪いことこの上ない。


「てか、またスマホか⁉」


 僕はもう声に出して叫んでいた。


 前回のラブレターの一件も、始まりはスマホからだった。そして、何の偶然か、今回もスマホから始まった。


 一番身近にあるはずのものが、とんだ呪いのアイテムになってしまった気分だよ⁉


 結局、呪いのスマホから送られてきた、呪いのようなメールに頭を悩ませてしまい、まともに睡眠をとることができなかった。

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